第31話

ついに文化祭当日。

体育館は暗い。ただ舞台の上だけが明るかった。両側のスポットライトが2人の人物に当たる。

「ビビデバビデブー!!!! 」

そんな言葉と共に魔法のように空の衣装が変わる。ついに空がドレスを着たのだ。

1秒も経たないうちに舞台の上にシンデレラが現れた。

……可愛い。あれが空だと思うとだいぶ嫌なのだが、本当に綺麗なのだ。絵本の中から飛び出したような、絵に描いたようなシンデレラ。

「わぁ!とっても素敵わ!ありがとう!魔法使いさん!」

シンデレラは、とても嬉しそうに舞台上をくるくると回る。ドレスが動きに合わせて靡く。

僕の作ったドレスだ。何度も見てきたけれど、実際に着られて、動いているところは初めて見た。感動。僕、このシーンだけで泣けるわ。それに、シンデレラがシンデレラって感じで可愛いんだよな。あの役者、女だって言われても今だったら信じる気がする。声も高くしてるけど、全く違和感がない。


そのまま劇に見入ること30分弱。劇は終盤に差し掛かっていた。最初から最後まで観客の視線の先はシンデレラにあったことだろう。それほどまでに魅力的な演技だった。

空ってこんなに演技力あったんだ。空、本当になんでもできるし、何にでもなれそう。今度は空の王子役とか見てみたいかも。逆に悪役も見てみたい。衣装は僕が作るからやってくれないかな。


「「「ありがとうございました‼︎‼︎」」」

演者の挨拶で幕は閉じた。さほど多くはない観客はみな、満足げな顔で拍手をしていた。

もっと観客こればいいのに。こんなすごいのにさ。

僕は演者の空と珠数木すずのきの元へ向かった。


演者が更衣室となっている教室からゾロゾロと出てき始めた。みんな笑顔で出てくる。上手くいったんだろう。

こうやってみてるとみんな高校生だなって感じがする。演じてた時とはまるで別人だ。

「輝斗、きっと空でてくるの遅いわよ」

びっくりしたぁ……

「いつの間にいたんだよ」

「ずっと前からいたわ」

存在感なさすぎだろ。

「お疲れ様」

「あんたこそ、お疲れ様」

僕は何もしてないけどね。


「ビビデバビデブ〜‼︎」

呪文を唱えながら空がやっと出てきた。

「ほら、てるてる。魔法にかかったんだからシンデレラにならなくちゃ」

やらないわ。やるわけないだろ。

「やっと終わったよ〜」

そういって僕にのしかかる。すごく重い。マジで潰れそう。シンデレラやってたとは思えないくらい筋肉質な体してる。重い。

「お、おつかれさま……」

「来てくれてありがとね」

「お、おう」

やっとどいてくれた。マジで重かった。

「劇、どうだった?」

めっちゃ良かった。特にシンデレラが。なんて言えるはずもない。

「良かったよ」

「特にどこら辺が?」

シンデレラが。もちろん言わないけど。

「全部」

「本当にちゃんとみてた?」

「みてたわ」

シンデレラを特に。だって他見ようとしても何故かシンデレラに目がいっちゃうんだもん。仕方ないじゃん。


「入口付近にいても邪魔だろうし、少し移動しましょ」

「そうだね、とりま、資料室行くか」

僕らは人の流れに逆らうように進んだ。やはり、オカルト部とかの部活動の発表にはみな興味ないらしい。

「私、もうシンデレラはいいかなぁ〜」

「え?」

思わす声に出ちゃった。もう見れないってこと?

「魔法で変身なんてやりたくないし」

似合ってたのに。

「私が思うにさ、一生懸命仕事してるのがシンデレラじゃん?ドレスで着飾ったり、馬車で移動したりさ、そういうのはなんかシンデレラじゃない気がするんだよね」

急に何言い始めるんだ。名作に文句つけんな。

「やっぱり魔法ってのはありのままの自分を隠すために使うんじゃなくてさ、ありのままの自分を際立たせてくれるものだと思うんだよねぇ」

……なるほど?なんか妙に納得してしまった気がする。

「それって、ドーナツの話かしら?」

「それも含めてだよ。なんかさ、もっと魔法の使い方考えた方がいいと思うんだよなぁ」

「それは無理だろ。そんなことしたら魔人だらけになるぞ」

後ろに瑞雲みずも先生いた……びっくりした。先生も珠数木すずのきも気配とかないのか?僕に気配を感じ取る能力がないだけなのか。

あ、着いた。

僕らはいつもと違う少し豪華な資料室に入った。文化祭といえど、僕らは普段通り雑談したり遊んだりして1日が過ぎた。

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