第7話 

そのまま10日が過ぎた。

あいつ、今日も休みやがった。今日、小テストあったのに。もう1週間以上休んでるじゃん。

1人だけユニやりやがって。僕だってやりたいよ!だけど今年は受験の年だろ!あいつ公立高校希望してるなら成績とかやばいだろ!

それだけじゃない。


あいつがいないと僕はひとりぼっちだ。


光と出会う前は全然1人で平気だったのに、隣に光がいる日常が当たり前となった今では、少し寂しく感じた。

僕は居心地の悪さから逃げるように、遅い足で走った。もしくはユニを始めれば、光に会えることを期待してたのかもしれない。


僕は玄関のドアを勢いよく開け、ただいまの言葉も言わずに、パソコンへ向かう。

いつものように、ユニをつけ、その時間でささっとパジャマに着替える。


―あいつまだユニ入ってないじゃん


学校を休んでおきながら、ここ最近何してるんだよ。あー、また昼寝か?ユニやらないとやばいし、呼ぶか。

僕はLINEを開く。

「おーい、起きろー!ユニやるぞー」

トーク履歴を遡ってみると、気づけばそんなやり取りばかりしていた。

『りや』

珍しくすぐに既読がついた。寝てなかったな。『了』の誤字か。


「あ、『ミハイル』さん、こんにちは〜」

『こんにちは〜』

「『こう』いま呼んだんで、もうすぐきますよ」

しばらくしてから、『こう』こと光が来た。

『こんにちはー』

「今日はどこにします?」

『んー私はもういいかなって感じ。今日は2人の好きなところに行こう。2人はどこに行きたい?』

「僕は、経験値貯めに行きたいですね……」

……

しばしの沈黙……

「おい、『こう』?聞いてんのか?」

『え、あ、何?』

『今日はどこに行きたい?』

『あっ、……あぁ、えっと、どこでも大丈夫です』

うっわ……びっくりするほどの鼻声。

もしかしてマジで風邪だったタイプ?あの無駄にうるさい光が、無駄に元気な光が、風邪……?あのバカが?まさか、考えすぎか。

ただの花粉症かも。最近花粉よく飛んでるし。

あえて触れないでおこう。


ロード中……


相変わらず『ミハイル』さんは上手い。

「『こう』!そっち行ったぞ!」

ヒトが『こう』に襲いかかる。ヒトといっても白髪の角の生えたまるで人間とは思えないようなもの。声もまるでヒトとは思えない。

「ぐわあ゙ぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ」

『―しまっ』


ザシュッ


「『こう』っ!」

『『こう』くんっ!』

『こう』は若干のダメージを食らったものの、『ミハイル』さんのカバーのおかげで生き残れた。

僕は動きが鈍くなった『こう』のキャラに回復のポーションを投げる。


『こう』はだいぶHPが減ったものの、やはり『ミハイル』さんのおかげもあってクリアできた。


「『こう』、最近お前、動き鈍いぞ」

『……すみません』

『謝らなくても、大丈夫だよ。スランプかな?まぁ、そんな時もあるよ』

『……はい、すみません……』

いや謝んなくても大丈夫って言われてんのに、また謝るのかよ。


僕はカロリーメイトを食べながら考える。親は今日の夜はおらず、おかげで夕食がカロリーメイトでも怒られない。

本当は早く食べてユニをやりに行かないといけないのだが、僕には気がかりなことがあった。


最近の光はなんか変だ。


何かというと、パッと出てこないのだが、何かが変。

元気だし、ズル休みするのもいつものことだし。

……あれ?いつも通りじゃね。僕のただの思い込みか。


僕はすぐに食べ終えて、ユニに戻った。

「戻りました〜」

お、『らいめい』さんがきてる。

『らいめい』さんは仕事が長いらしく、いつも僕が夕食から戻ってきたあたりからいる。

『おかえり〜』

『ちょうど今仕事終わったとこなんだよね〜』

「おー、そうなんですか!ところで、『こう』は?」

『あー、『こう』くんね、多分寝てるよ』

『うん、調子悪そうだったし』

「そうですか……」

『『こう』くんには『こう』くんの事情があるだろうから、『神』くんもあんまり突っ込みすぎちゃダメだからね』

「……まぁ、はい」

僕のユーザーネームである『神逆らう者』長いので、僕は省略して『神』と呼ばれている。

実際のところ、『ミハイル』さんや、『らいめい』さんの方が神プレーしてるけどな。


少し、LINEでもしとくか。

しばらく顔を見ていないけど、元気だろうか。

んーなんて打とう。心配するのもなんか僕らしくないしなぁ。

僕は打ちかけた心配のメッセージを消した。

「明日は学校来いよ」

『いきたくぬい』

僕が送信してほぼ同時に送られてきた。

「行きたくないっていったって、お前成績、大丈夫かよ」

先生からよく思われてないせいで、成績はギリギリだ。

『たいじょうぶ』

数秒経ってから返ってきた。時差があるなぁ。

「明日は学校来いよ

流石にこないとまずいって」

『いやだ』

「嫌だっていったってガキじゃないんだから」

「流石に2週間はやばいって」

『うん』

「明日だけでもいいから」

「どうせ、明日行けば休みだし」

僕はそう打ってスマホを閉じた。

なんでこんなに光に学校に来てほしいと思うのかはわからない。もしかしたら、また光と仲良く帰れる日を待ってるのかもしれない。


僕は気を取り直してユニに戻った。


『あー、まだやり足りないー』

『もうこんな時間だよ』

時計をみると気づけば4時になっていた。

『明日くらいにボス戦行く?』

「いけそうですかね……」

『今日のペースでできれば、いけるよ』

「じゃあ、明日行きましょう!」

『じゃあね』

「また、明日ー」


僕は明日の夜のためにも早めに布団に入った。

とりあえず、スマホを開く。

お、光からLINEきてんじゃん

『わかった

あひたはいく』

……光、あいつマジでどうしたんだろ。体調不良なんて、らしくないな……

まぁ、明日来るっていってるし。大丈夫だろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る