第3話 

僕は隠キャだ。断言できる。

僕は勉強はできるのになぜか、コミュニケーション能力だけが著しく欠けているのだ。あ、もちろん光とかを含めた親しい人は別。

そんな僕が苦手な授業。


―体育である。


運動もできない。コミュニケーションも取れない。その上、ペアを組めなんて言われたら、たまったもんじゃない。最悪の授業だ。

僕らは体育委員とかいう陽キャの挨拶の後に続いて気だるげな挨拶をした。

いいのか悪いのか光とは一緒に体育を受けることはない。いつもは余ってる他の隠キャとペアを組むが、今回ばかりはそうもいかなくなった。


『4人組でグループを作れ』だそうだ。


終わったぁ…………。死んだぁ…………。

結論から言うと、僕は陽キャと組んだ。仲のいい陽キャ4人組の1人がたまたま休みで、数の埋め合わせに利用された。

よくわからん仲良しグループの中に放り込まれるこっちの気持ちも考えろよ。どいつもこいつも陽キャという生物は人の気持ちも考えられないクズばかりだ。

あ、もちろん光は別。うるさい元陽キャだが、ああ見えて気のまわるいいやつだ。

「なぁ、お前」

僕…?

「そうだよお前だよ、えっと、てるやだっけ??」

みんなで仲良くしようぜ精神を掲げておいて、クラスメイトの名前を間違えるとは。僕の名はてるとだ。これだから陽キャは。


「お前、あの害児と仲良いよな」


光のことか。よく影で言ってるのを聞く。まぁ、無理はないよな。あんな虚空に向かって話しかけてるのを見れば誰だって狂ってると思うよな。害児と呼ばれるのもわからないものではない。

そもそも存在してるのかすらわからないのと話してるわけだし。

「なんであんなんとつるんでんの?よくやれるよな、ほんとw」

別の陽キャが軽々とバスケットボールをシュートしながら言った。

「ほんと、マジでそれ。オレだったら一瞬で友達やめるね。あんなんとダチとか思われたくねぇしw」

「キモいしなぁ〜」

「なぁなぁ、お前もほんとはキモいとか思ってんだろ?」

そんな軽々しい発言と共に僕のシュート練習の番が回ってくる。

「……まぁ、そうですね……」

僕の曖昧な答えと一緒に、僕が放った重いバスケットボールはゴールのネットに入ることなくズドンと音を立てて端まで転がっていった。

違うとは言えなかった。もちろん陽キャの圧のせいでもある。

だが、それ以前に『キモくない』という言葉の前にもっと違う壁があった気がした。それが何かは僕にはよくわからなかった。

「だよな!やっぱあれキモいよなw」

「なぁなぁ、聞けよ!オレこの前1人でトイレ行ったんよ。その時にさぁ、そいつがいたわけ。いや、マジでキモいし、引き返そうかと思ったんだけど、漏れそうだったから、仕方なく行ったんだよ。そしたらさぁwあいつずっと1人で喋ってんの!マジでキモかった!もう、すっげぇ鳥肌たった」

「あいつ、いつも1人で喋ってるよなw」

「やばぁwウケるんだけどwキモすぎw」

僕を置いて3人だけでの会話ばかりだ。いじめの主犯格の一部のこいつらの悪口はまだまだ止まらない。

「それにさこの前の給食はないよな」

「あーあれね、こちとら食事中だっての。考えろや」

「あいつに考える脳みそとかあんの?」

「確かにwねぇわw」

陽キャたちはただひたすら声をあげて笑った。僕もできる限り笑った。だってこいつらに合わせないといじめの的がこっちに向くかもしれないし

。確かに見えない『うんこ』と話していてキモい。厨二病も疑う。でもいうほど変なやつじゃない。

話してて面白いし、お前ら陽キャよりかよっぽどいいやつだ。むしろお前らのが害児だろ。

とか思っても、僕にいうだけの勇気はなかった。


この後も長い悪口が続いた。誰も止める人はいなかった。僕も先生も止めない。なんなら先生も裏で言ってる。

『別にいつものこと』とこの時は特に気にも止めなかった。


嫌な授業も終わり、僕は1人で教室に向かっていた。



シャン……


不意に懐かしい音と共に誰かが後ろを通った気がした。懐かしい誰かが。


振り返ったがもうそこには誰もいなかった。

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