第29話

本日6月5日。金曜日。

明日6月6日。土曜日。僕は晴れて17歳になる。

誕生日プレゼントはきっと今年はないだろう。母さんとも別居だし。となるとケーキもなしかぁ。自分で買う?お金ないしなぁ。


痛っ


やはり作業中の考え事はよくない。また針で指さした。集中力切れてきたか。


「はぁ、きっと今頃姉様たちは舞踏会で楽しく王子様と踊っているんだわ」

劇の練習中の声が聞こえてくる。なかなかに、空の演技が上手い。声も高くしてるが、違和感ない。空がこれを着るのか。あと3日経てば文化祭が来る。そこで見れる。あと3日か。長いな。

「天瀬く〜ん、終わった?」

同じ衣装係の子が確認しに来た。

「もう、終わります」

「そっか、頑張って!天瀬くん、裁縫上手だね。あ、ここに差し入れのジュース置いとくから飲んでね!じゃ、頑張って〜」

……初めての差し入れ。僕の机の端には『頑張って!』というメッセージとともにコーラが置かれていた。

よっしゃ、続きやるか。僕はまたチクチクと縫い始めた。


ふぅ、終わった。

ここ短期間でやったと考えると、すごく良い出来じゃないか?

僕は広げて全体を見てみる。まじで僕天才だと思う。

よし。終わったって声掛けにいくか。

僕は残ったコーラを飲み干して、衣装のリーダのところにいく。


「終わりました」

「おお、どれどれ?」

リーダは興味深そうに僕のを見てくれた。

「すごい……器用だね……私でもこんな作れる気しないや」

「あ、ありがとうございます」

嬉しい。褒められた。

「天瀬くんは今からどうする?もう他にやることないし、帰る?」

帰りたいけど、空に1人で帰るなって言われてるんだよなぁ……帰りたい。

「空と一緒に帰るんで、劇の練習見てきます」

僕は渋々劇の練習を見に行く。


劇はちょうどラストシーンだった。ガラスの靴を履くシーンだ。

王子役はいまいちだが、シンデレラ役は飛び抜けて上手い。ドレスを来ていなくても主人公でいかに美人であるかが伺える。そこにあのドレスを着るのか。きっと可愛くなるだろな。あと3日だ。すごくワクワクしてきた。


「「「ありがとうございました〜」」」

僕は劇が終わり拍手する。客は僕1人。

「てるてる〜どうだった〜?」

これで練習も終わったらしく、練習終わりの空と珠数木すずのきが駆け寄ってきた。

「よかったよ。2人ともすごく似合ってた」

シンデレラ役も意地悪な姉役も。

「それ、どういうことよ」

「今から、オカルト部の準備行く?」

「あと1日くらいでやること済むし行かなくていいと思うよ」

お!

「帰りましょ」

よっしゃ!!早く帰れる!!

「かなかなって文化祭行ったことある?てるてるは行ったことないの知ってるんだけど」

「わたしは行ったことはあるわ」

「お!どんな感じだったのさ?」

空が身を乗り出して聞く。

「どんな感じ、と聞かれても……普通だったわ」

普通ってどんな感じだったんだろ。

「空は?」

空は行ったことないのだろうか。

「行ったことないよ。私そんな暇じゃないし」

「へ〜、意外」

「だから私も輝斗と同じく今年が初めて。どんな感じかなぁ。あと3日、あと3日だよ!!いやぁ楽しみだなぁ」

ほんとに楽しみなんだな。空の表情や動きからよく伝わってくる。

楽しそうな空を僕は珠数木すずのきと一緒に少し後ろから見守っていた。

「天瀬くん。空くんが楽しそうだねって言いたいのは伝わってくるけれど、あんたもすごく文化祭楽しみって表情してるわよ」

え、嘘だ。

まぁ、楽しみなことに変わりはないわけだし。

「めっちゃソワソワするぅ!!」

そんな空を見ながら僕たちは帰った。

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