第1話
「うんこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
勢いよく開いた扉の向こうから無駄に煩い声と共に僕の友……いや、“問題児”が入ってきた。
うるさかった陽キャどもや、カチャカチャとうるさかった食事音はやみ、一斉に扉の方を向いた。
そいつはダッシュで教室内を駆け回り、また、扉から出ていった。給食中だというのに。
きっと目に見えない埃が一気に舞い上がったことだろう。
……こういう時に、隠キャの僕が目立つ。
この問題児の暴走は今に始まったことではない。今回みたいな時は決まって周辺の人らが僕を向いて目で訴えかけてくるのだ。
『あいつを止めろ』と。
僕の悩みの一つである。
なぜかと言えば、『問題児の暴走を止められるのは僕しかいない』からだ。
したがって、先生ではなく、学級代表とかではなく、僕がその問題児を止めないといけない。
僕は問題児の彼を追いかけるために、いや、視線から逃れるために、給食のプリンをおいて早足で教室を出た。
『暴走』と言ったが、決してあいつがおかしいわけではない。……と思う。うん……たぶん。
彼には見えるのだ。『神様』が。
もちろん僕には見えやしないし、周りの人にも見えない。
彼だけが見えるのだ。彼だけが喋れるのだ。周りは知らないが、僕はそれを知ってる。故に、僕だけが彼を止めることができるのだ。
何の事情も知らない人が、虚空に向かって話しかけてる彼を見たら、そりゃ誰だって頭のおかしい問題児に見えるだろう。
そして、彼の問題点はもう一つ……
「あ゛ぁぁぁぁぁぁい゛でぇぇぇぇぇっ」
廊下の向こうで頭を抱えてうずくまる彼がいた。どうやら頭をぶつけたらしい。壁に。
「バカじゃねぇの」
しまった、つい本音が……
「そもそもはうんこが悪いんだっ!」
涙目でこっちを睨みつけながら怒鳴る。そして廊下に響く。目立つ。はぁ。毎度毎度、めんどくさい。
なんでお前1人のために僕が動かなきゃいけないのか。
「ぜってぇ許さねえぇ!何度謝っても無駄だからなあ゛!」
カッチーン
「それはこっちのセリフだ!毎回毎回迷惑かけやがって!こっちがどれだけ目立たないように気使ってると思ってんだ!!それなのになんで毎回お前に振り回されなきゃいけないんだよ!今日だってお前のせいでプリン食べ損ねて!もう、ぜっ……」
落ち着け僕。ついつい本音が出てしまったが、絶交は良くない。そしたら友達ゼロになるだろ。それに、こんな大声出したら余計に目立つ。落ち着けっ。深呼吸っ。
「お前に言ってないわ、そうだよ、お前だようんこ!!今回ばかりは絶対に許さないからな!覚えてろよ!」
そうやって僕を指差して怒鳴るが、正確には僕の後ろにいるんだろう。神様が。
そう、最大の問題点。もうお分かりだろう。『うんこ』の連発である。
しかし、彼が指す『うんこ』は正確には『うんこ』ではない。彼が言うことには、『うんこ』とはその神様の名前らしい。
神様が『うんこ』と名乗ったのだそうだ。
それで神様を『うんこ』と呼ぶたびに、周りから冷たい目で見られるのだろう。
そんなこんなで僕は無事、給食のプリンを食べ損ね、生徒指導の先生に怒られたのである。いつも、いつも問題はこのバカなのだが、なぜか僕も一緒に怒られる。そこは本当に納得がいかない。
そんな問題児“
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