第12話 ペテン師

 くそったれ


 カイトが言ってた事が脳裏をよぎる。「いついかなる時が来ても一切油断を解くな」だったか?こんな事なら、ちゃんと聞いとけば良かった。


「通常の致死量の倍以上入れてるのに、なんで動けてるのか不思議ね」


 コイツはマジで怖いんだが?コイツの前だと俺の今までの嘘や騙しが可愛く見えてくる。 何?今までの笑顔や涙は全部俺を騙す戦略だったの?次から俺も参考しにします。


「すぅー、根性ぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 なんとか立てるくらいには解毒は成功………じゃねぇな、気力と根性でやっと立ってる状態ってとこか?とりあえず、胃の中のもん全部出すか


「オロロロロロロ!!!!」


「無駄よ、バイキングの時から少しずつ毒は入れてるの。苺ミルクはダメ押しで、殆どはもう吸収されてるわ」


 マジかあの時からか、てっきり苺ミルクだけかと思ったぜ。しかも俺の消化能力は通常の人よりだいぶ早い………マズイな毒を解毒するのに時間がかかりすぎる。

 それと目の前で急に吐いたんやで多少は狼狽えろよ。


「オロロロロ………とりあえず全部出たか?アカンまだフラつく」


 胃のもん全部出したがやっぱ殆どのもんが消化されて胃液と苺ミルクしか出ねぇ。きったね


「フラつくだけで済んでるのもだいぶ人間やめてるわよ」


 現状の身体能力の確認、毒のせいで手足に殆ど力が入らん、恐らく神経毒だな種類までは知らんが。その他にめまいと頭痛があるが、根性入れればどうにかなるので軽い方か………ここから打てる手は、時間を稼いで少しでも解毒するしかねぇな


「どうしてこんな事を?」


「穂乃果お嬢様の為、不審人物を排除するのは当然の事よ」


「それでも、人を殺そうとするのはリスクがありすぎだろ。普通、穏便にお金渡して別の所に引っ越しさせるとか手はいくらでもあるだろ」


「残念ながらアンタは穂乃果お嬢様の想い人、私達は彼女の命令で動くの。アンタの居場所を教えろと言われれば地球の裏でも必ず見つけ出さなければならないのよ」


 だから生きてる時点で迷惑ってか?クソほど理不尽やな。けど


「だったら矛盾が生じるぜ、西園寺が俺を殺す命令を出すわけねぇ。命令違反だぜ美月さんよ!」


「気安く名前で呼ばないでくれる?」


「いや、お前の名字忘れた」


「………一応誤解があるわね。私達はアンタを殺す気は無いわよ」


「は?」


 何を言ってるんだろうコイツは?通常の致死量の倍以上の毒を入れて殺す気は無い?あたおか?


「私達は穂乃果お嬢様からアンタについて調べる事を命じられたわ。だから、この行動もアンタについて調べる行為。知ってる?人間って窮地に陥った時、本性が出るのよ。私達はそれについて調べたいの」


「はっ!言葉遊びがお好きなようで!相手がどう言う真意で言ったか分かってる癖して、言葉を言い訳にやりたい放題ですか!漢なら堂々と真正面からかかってこいやぁぁぁぁ!!!」


「途中から何を言ってるの?確かにアンタの言う通り、穂乃果お嬢様の真意からズレてる行動なのは確かだわ。けど!それでも私達は貴方を認める事は出来ない!!」


 ボケを冷静に突っ込まれた………ヤベェな思考がおかしくなってやがる、おい、いつも通りとか言ってんじゃねぇ!


「だったら、どうするってか?一応言っとくがな毒はそろそろ解毒出来るぜ!逃げ足だけは得意なんだ」


 ただのハッタリだ。せいぜい少しの時間稼げればいい方。しばらく経って分かった…………毒の解毒の時間稼ぐのはほぼ不可能、多分丸一日かかる。

 かと言って今の状態で走って逃げるのもの無謀――か、………一つ、人生において一番テンション上がる時をご存知だろうか?俺の持論では絶体絶命の時に自分の力で道を切り開く事だ。

 かつて山での修行中、間違えて毒キノコを食って悶絶している時、体長は3mあろうクマと対峙したことがある。いや、マジで死ぬかと思った。迎撃した内容は俺の切り札なので伏せておく。

 俺はそれで知ったのだ。諦めない事の強さとその先のアドレナリンを!だから、かつての状況の似てるこれは大好物だ!俺の心が折れる事は一切ない!!


「ほれほれ、片足立ちだって出来るぜ!」


「見苦しいハッタリね。私達はアンタについて調べてるのよ。どの毒が効くか、何が有効か、何が得意で、何が危険か、身長体重、足の速さ、様々の事を知りたくも無いのに知ってるわ。

 だから今、アンタがここから抜け出すのは不可能。時間稼ぎに乗ってるのはせめてもの慈悲よ」


 そう美月が言った瞬間、俺を囲むように数十人の黒服達が出てきやがった………時間稼ぎって気付いていたのか。

 俺は抵抗する気が無くなったように地面にへたり込んだ。


「流石に心が折れたようね。連れて行くわよ」


 えっマジ?これで俺のこと調べたってのか?俺はまだ絶望した演技を続ける、っても頭を下に向けるだけなんだけどな。楽よなコレ顔見せなくて済むし脱力するだけやもん。


「ははっ、…………流石にこれは無理だな……えっ!?西園寺じゃないか!!」


 絶望からの希望へのアクション!だが、そのハッタリだけでは足りない、信憑性を持たせるために俺は指をさした。


「えっ?」


 その場の黒服達全員が俺がさす方を見た。だが、そこには髪の長さくらいしか特徴が一致しない別人、つまり偶然公園に来た一般人しかいなかった。人払いくらいしとくべきだったな!

 俺はその隙にすかさず後ろの黒服目掛けて、先ほどへたり込んだ時に掴んだ砂を目に向けて投げた。それによりこの包囲に穴ができ俺はそこから抜け出し道路に向けて走り出した。


「しまったわ!」


 だが、それでも一時的に抜け出したに過ぎない、毒に侵されてるこの身体では簡単に追いついてしまうだろう。だから道路に出た時、車の上に飛び移る!だがいつ車が来るか分からない以上賭けだ。だが、勝って見せる!


「来たぜ!!」


 フハハハハハハ!!なんと言う豪運!タイミングもバッチリ!俺はすかさず道路のガードレールに足をかけ、飛べ……………


「………アハハ、流石に無理しすぎたか」


 通り去る車を横目に後ろからくる沢山の足音を俺は聞きながら倒れた……、元々気力と根性だけで立っていたようなもん。いつ気絶してもおかしくなかった、けどやっぱもう少し体力をつけとけばよか……っ、……


 ◇美月視点だよー


「直ちに取り囲んで!倒れていても引き続き警戒!」


「「「「「了解」」」」」


 油断した油断した油断した油断した!あの男を侮った!もし、まだ力が残っていて、あの車に飛び移られてたら私達の負けだったわ。穂乃果お嬢様に連絡して一言「助けて」と言うだけで私達は負ける。だから彼があそこで力尽きたのはただ運がよかっただけ


「………それでも、勝ったのは私達」


 私はそう自分を納得させるように言って、指令に連絡の報告をした。


「指令、命令通り速水隼人を確保しました」


「そうですか直ちに目的の場所に移動させなさい」


「了解」


 引き続き、気を引き締めていかないと

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