39話 交渉

 俺は両腕を折ながら気合いでコイツらのパワードスーツひん剥いて適当に動けないように縄で拘束した。縄はヘリコプター操縦してるおっちゃんに借りた。※脅した。

 西園寺の麻酔弾も抜いたし、呼吸やその他諸々異常は見られないので一安心。数十分くらいで目を覚ますだろう。長くて1時間。


「クッ、よくもこんな辱めを!」

「私達の心まで奪えると思わないでね!」


 麻酔弾を撃たなかったジフハーレムの連中がうるさい。

 パワードスーツひん剥いた時、下につけているのが下着しかなく、そのまま放置してるのを恨まれてるのだろう。

 ぶっちゃけ負けたんだから我慢して欲しい。気を使って背中向けてるんよ俺。あ、いい事思いついた。


 俺そのままジフ・ベルクの服をひん剥いた。


「な!ジフ様になんて事……ハァ、ハァ」

「そ、そんなはしたないです」


「うるせぇなお前ら」


 俺はジフの服を女どもに叩き付けながら言った。…………逆に気持ち悪くなったが、静かになるならまぁいいだろ。


「はぁ、はぁ、すぅー、はぁ」

「ああ、お許しくださいジフ様……すぅー」


 やっぱうるせぇわコイツら………


 俺は旧校舎屋上から学校全体を見渡す。

 どうやらあの正義の軍団(穂乃果お嬢様親衛隊)は優斗一人に全滅させられたようだ。総隊長だけ生き残ってるが大丈夫だろ。


 ジフ・ベルクも完全捕えたし。これ以上兵隊が来ても人質にして交渉は出来るだろう。


「なら、俺は西園寺が起きるまで暇になるな」


 一応、戦力はまとめた方がいいか。俺は友達のグループLINEに「旧校舎屋上集合」の文字を打った。


 後は待てば…………………


 バダン


 ほっとした隼人はそのまま気絶した。今までの無理がたたったのである。




 ◆




「………あれ、ここは」


 私何を………


「隼人くん!」


 西園寺はすぐに飛び起きて状況を確認する。場所は旧校舎の屋上で、時計を見ると意識失ってから30分くらい経ってる。


 隼人くんやジフ・ベルク、その仲間もいない、どうゆうこと?


「起きたか」


 西園寺は背後から声をかけられ咄嗟に身構える。


「………佐藤くんだね」


「左様、貴女の想い人が我を此処へ呼んだ。酷い有様であったぞ」


「隼人くんはどうなったの!?」


「今頃病院だ。感謝しろ奴がジフ・ベルクを倒した」


 西園寺は一時的にほっとして胸を撫で下ろしたが………心に喜びはなかった。


 どうして素直に喜べないの?隼人くんが私の為に守ってくれた………なのに、この心はどうしてずっと痛いの?


「すまない」


 カイトが頭をさげ謝った。西園寺は困惑気味に聞く。


「なんで貴方が謝るの」


「貴様の言葉が真実だったゆえ、それと今回の件、我が当事者の貴様を差し置き話を付けたからだ」


 今回の件?


 西園寺はジフ・ベルクがいない理由と結びつける。


「時間は奴の味方をすると判断した。実際、彼奴を救出する兵隊共がこちらに向かっていたからな」


「………結果はどうなったの?」


「一時的に撤退。しばらく事後処理に追われるだろう」


 西園寺はその言葉に怒りを覚える。根本的に何も解決していない事をさすからだ。そうなると


「それじゃ、またこの惨劇の繰り返しじゃない!」


「………時間は稼いだ」


 ゆっくりとそして力強い言葉でカイトは言った。


「ジフ・ベルク、奴はイカれている。目的の為なら自分がどうなっても良い目をしている」


 隼人が倒れ、直接対峙したカイトは説明した。ジフ・ベルクとの交渉を。


 ◆〜回想〜


「我の要求は一つ自首とこの出来事をメディアに流せ。さも無ければ貴様の腕と足の関節が増えることになる」


「はは!面白い事言うね君。勝てる勝負に負けろというのかい?」


 確かにこのまま行けばジフ・ベルクの救助隊が来て、カイト達は苦戦を強いられる。だが、大将首はここにある。


 カイトは木刀を振り下ろし迷い無くジフ・ベルクの右足を折った。


 トラウマを植え付ける。警察も当てにならん今こうした方が手取り早いと判断した。


「痛いじゃないか。野蛮だなぁ」


「………それだけか?」


 カイトは自分の選択が間違った事に気付く。足を折ったのに悲鳴の一つもあげない胆力

 ………コイツに脅しは効かない。

 逆に脚を折った事により、交渉決裂の危機すらあった。


 ――イカレ野郎が


「………貴様に提案がある。一旦引け」


「どうして?このまま普通に勝てるのに?」


「たわけ、我がいる時点で今回の二の舞いにしかならぬ。今は公にならずとも続けて行くうちに世間に必ずバレる」


 これはカイトの賭けであった。カイトは今現在、大人数を相手に戦える訳では無い。物量や手段を問わずにやってきたら次は負ける。

 だから嘘で自分を大きく見せ、相手を説得させる。


 ――乗ってこい


「………そうだね。君達を相手にするにはまだ情報不足だ。今回は君の提案に乗るよ」


 こうしてカイトは時間を稼ぐ事に成功した。


 ◆


「これが奴との交渉の結果だ。貴女がいくら喚いたところで奴は貴女を諦めるつもりは無い」


「………………」


「絶望したか?」


「………いえ、違うの」


 俯いていた顔を西園寺はあげる。カイトはその目を見てまたもや西園寺に驚いた。覚悟を決めた瞳だったからである。


「時間を稼いでくれてありがとう。私は私がやるべき事をやるよ」


 ………なるほど、強かな女だ。


「フッ、我は少々貴女を侮ってたようだ」


「そう?」


「ああ」


 そこでカイトは一つ思い出す


「………そう言えばまだ言ってなかったな隼人の好きなタイプ」


 今までの暗い雰囲気から一転、西園寺の瞳が期待に満ちたようにキラキラと輝いた。


「え!?………教えてくれるの?」


「左様、良かったな。黒髪ロングの正統派美少女が好きだぞ」


 その言葉と共に西園寺が一瞬固まり、みるみる顔を赤く染めていく。


 ちなみに当の本人、速水隼人は自分の好きなタイプを知って見た目を変えてると思ってるので見た目による好感度上昇はありません。


「////////本当に?」


「ああ、こんな事で嘘はつかん」


 ――プシュー!


 西園寺は顔を真っ赤にさせてショートした。


「本当に?」


「だから本当とい………」


 カイトは気付いた。目の前の西園寺はもう言葉を発せる状態では無い事を、なら今の声は誰のものか?


 カイトは恐る恐る振り返った。そこには異世界でのカイトの彼女、アリサ・ヴェル・アレストロがいた………。


「へー、どこに行ったと思ってたら浮気してたんだー」


 俺の人生、終わった。





あとがき


 隼人を病院に連れてったのは颯太と優斗の二人です。大和は今回の尊い犠牲者となりました。

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