33話 勝利条件

「なぁ、西園寺。俺重いだろ」


「羽のように軽いよ」


「俺、体重75kgあるんだ……」


「俺100kgはい俺の勝ち」


 誰か常識的人間を連れてきてくれ………


 俺達は今学校に向かっていた。出来ればここから遠ざかり逃げたいのだが、今ここで逃げたとしても同じ事が繰り返されるだけだろう。


 しかも前よりも強力に、スナイパーどころか傭兵の10人や20人もくるかもしれん。


 だから今ここで元凶のジフ・ベルクを捕えるのが俺たちの勝利条件だ。


 だが、優斗が軍団蹴散らして倒れてる連中の中にいなかった。


 恐らく逃げたと思われる。だったら闇雲に探すより、まずは学校を探そうと思ったのだ。


「なぁ、なんで隠れながら探してんだ?」


「ばっかお前、確かに軍団は優斗が蹴散らしたが最初にいた数に比べ、倒れてる数が少ない。学校に逃げ帰った奴がいるって事だ。そいつらに見つかったらめんどくさい」


「ねぇ、隼人くん」


「どうした西園寺?今、馬鹿に説明を」


「もう、行っちゃたよ」


 大和はそのまま真正面から学校に行きやがった。


「………」


 ◆ カイトvs龍馬


――右振りから顎


 避けられた。だが、我は回転を殺さずそのまま左脚の蹴りを入れる。


――回転を殺さず狙いは前腕


 また避けられた。そのせいで勢いを殺しきれず背中を見せる事になる。だが我は自分の腕と脇腹の隙間から木刀を通し背後に向けて攻撃をした。


――無防備な背中からの奇襲、だから一瞬待ってからの攻撃


 また、避けられた。我は背中からくるバットの攻撃と同時に前に飛び衝撃を和らげる。

……1秒に3連続ある攻撃を全て見切られた。


「ハッハッハ!どうだ凄いだろ俺様は!何度も戦い戦い戦い戦い続けた俺様の経験は未来予知にまで迫る!!」


 なるほど経験か。だが、それだけじゃないな、先ほどから我の一挙一投足全て観察されておる。時間をかけると癖や攻撃パターンまで見切られ先程の予測より更に正確なものになるだろう。


「お前も学生の中では強い方だがな!経験が足りなかったな!ハッハッハ!!」


 我は奴のその言葉を聞き思わず笑みが溢れてしまった。フフフ、我相手に経験が足らぬとは。フフフ。


「何がおかしい?」


「フフフ、いや何?少々おかしくてな。異世界で我をそう呼ぶ者は一人も居らなかった故、新鮮なのだ」


「………あ、そうゆう時期か」


「しかし、所詮貴様のは予想に過ぎぬ。予知では無い」


「あ?だったら倒して見ろよ」


「ああ、倒せるさ」


 我は異世界で先見の加護を持つアリサを倒したのだからな。


 金剛流転流 盤石不動の構え


「これから先、貴様は我に指一本も触れられぬ」


「ハッ!笑わせる!」



 ◆



 場所は学校の廊下にて、俺たちは詰んでいた。


「たい焼きコッペパン」


「何言ってるの?」


「なぁ、隼人。この世界は残酷だと思わないか?今俺たちがこんなピンチになってるのに世界の何処では誰が幸せに暮らしてんだぜ」


「現実逃避は終わったか?現状お前しかアイツと戦えないんだが?」


 そう、………俺と大和は人生最大の窮地に立っている。なぜって?今俺と大和目の前には龍骨院金堂がいるんだ。


「私のお相手は決まったかしら?」


 しかも、ついでに言うなら廊下の行き止まり3階である。3階から飛び降りるのも右腕左足負傷の今普通に死ぬ。


「ねぇ、金堂ちゃん。隼人くんは私のだからダメだよ」


 俺は今、心の底から初めて西園寺に感謝した。大和よ俺の代わりに尊い犠牲になってくれ。


「それはダメよ穂乃果ちゃん。私達は今、穂乃果ちゃんを助ける為に動いてるんだから……ネ!!」


 そう言うと同時に大和の顔面がぶん殴られて、壁に激突した。大和はそのまま倒れ立ち上がる事は無かった………。

嘘だろ。タフネスが売りの大和が一撃?


「次は貴方かしら?大人しくケツを差し出すなら彼みたいにはならないわよ」


「おいおい、俺の今の姿見て分からねぇのか?」


「………女の子に肩車してる人を見て何が分かるのかしら?」


 俺はそのまま西園寺に降ろしてもらい。もう一度言った。


「俺の今の姿見て分からねぇのか?怪我が怖くて戦えるかよ!!」


 勝算はほぼゼロに等しい。西園寺を人質にしても良いが、この距離だとオカマの攻撃の方が早い。なら、今は西園寺だけでも逃すべきと判断


「西園寺!俺が時間を稼ぐ。その間に逃げろ」


 俺は左足の痛みに耐えながら、戦闘に向けて構える。

 しかし、いいや、やっぱりそうなるか。西園寺が俺を守るようにして前に立ち塞がった。


「馬鹿にしないで、私も一緒に戦う」


「アホかお前!お前が捕まったらゲームオーバーなんだぞ。俺はなんとかして後で脱出するから先に逃げろ」


「嫌よ。流石にこの状況は隼人くんでも無理。好きな人が私の為に今以上にボロボロになるなんて耐えられない」


「………後でキスでも何でもしてやるから逃げろ」


「これは嘘ね!右耳が2回動いたもの」


「なんでわかんだよ!俺の事色々調べつくしやがって!だったら俺の強さも知ってんだろ安心して任せやがれ!」


「知ってるからこそ限界も知っているんじゃない!金堂ちゃん相手では絶対無理」


「ほー、言ってくれんじゃねぇか。俺は熊にタイマンで勝った男だぜ!今更人間相手ちょちょいのちょ痛ァァァァァ!!」


 西園寺が右足の怪我を指で突いてきがった。


「そんな怪我で言っても説得力ないよ。………私の為を思うのは嬉しいけど、自分を大切にして」


「うるせぇ!お前俺の事調べつくしたんなら俺がこんな無理してる理由知ってんだろ!」


「えっ…………とっても優しいから?」


「フハハハハ!お前俺のこと全然、理解してねぇな!アレだけ調べまくった癖に!」


「な!仕方ないじゃん!隼人くんこの2ヶ月の友達との会話や学校の作文、日記、厨二ノート、スマホの中身に人助けの理由、書いて無かったじゃん!」


「そんなの知るか!けど安心したぜ。お前はまだまだ俺を理解出来てない。てことは幻滅させられるって事だな!」


「それはないよ」


「なんでだよ!」


「だって私、隼人くんの事まだまだ知れるって分かった今とっても幸せだもん」


 西園寺はそう言ってはにかんだ。ああ、いつも知ってる笑顔だ。


「………とりあえず、俺が今無理してまでお前を助けたりしてるのは俺が強いからだ。精神も含めて。だから弱い奴を支えるつーか、まぁ、余裕があるから助けてるんだ。余裕無かったら助けん」


 自分の事について、たいして考えずに説明すると自分でも本当にそうなのか分からなくなる。マジでなんで俺こんなに頑張ってるんだろ。


「ねぇ!なんで今自分の事話したの!ねぇ!なんで!」


 やば!めちゃくちゃキラキラした目で聞いてきやがった。

 確かになんで今、話したんだ?俺の事理解出来てないじゃんwwwってマウント取ればよかった。………どんなマウントだよ。


「コホン」


 そう一つの、わざとらしい咳払いによって俺と西園寺は龍骨院金堂を相手にしてる事を思い出した。ヤベェーよずっと空気みたいに扱ってたよ。どうしよう絶望的状況じゃん。


「どうやら私の見る目が間違ってらしいわ。穂乃果ちゃん。ジフ・ベルクは旧校舎に向かって行ったわ」


 ?どうゆう訳かオカマにもう戦闘の意思は無いらしい。仲間になるのか?


「ありがとう金堂ちゃん」


「いいのよ。穂乃果ちゃんは友達だもの〜。そ・れ・に!もう良い男が手に入ったんだから」


 そう言って龍骨院は大和の方に向かって行った………俺と西園寺は一切振り返る事なく進んだ。


「アーーーーーーーーー!アッ!」


 例え、どんな叫びが聞こえようとも。………大和君の事は忘れないよ。

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