28話 カイト

「確かにそうだね。私じゃ隼人くんと釣り合わない」


 西園寺のその言葉が意外だったカイトは、焚き火に向いていた視線を西園寺に向ける。ひたすら真っ直ぐに見つめるその瞳は嘘をついているようには見えなかった。


「ほう」


 カイトは少し西園寺に対しての評価を改めた。隼人に対する愛は知っていたが傲慢で謙遜さの無い女だと思っていたからだ。


「そんなに意外?私は私の事が大嫌いなの。けど、その私を見て受け入れてくれる隼人くんがいると大嫌いな私を好きでいられるの」


 西園寺はそう自分の心情を言った後、少しため息を吐き隼人を愛おしそうに、そして、少しばかり寂しそうに見つめた。

 でもカイトはその表情を見て嫌悪を露わにする。


「本当に全く、釣り合いが取れぬな。他者で自己を満たしてもらおうなど反吐が出る」


 常日頃から厨二病を発症し現在進行形で全裸になる奴である。他人からの評価の気にしなさで言えば隼人以上。もはや気にした方が良いレベル。

 

 そして、その棘のある言葉によって西園寺の形のいい眉がピクッと反応する。


「さっきから何に怒ってるの佐藤くん」


 西園寺の疑問も当然だ。カイトと西園寺は殆ど会話もした事がない他人同士。特に親しくないのに先程から棘のある言葉を発するカイトは不自然だ。


「簡単に言えば、我は貴様が嫌いで、信用しておらぬ」


 西園寺は一瞬、言葉が出てこなかった。彼女は傷付きたくなくて嫌われたくなくて自分の重すぎる感情に蓋をし八方美人に生きてきた。それなのに嫌われたのが初めてだからだ。


「………なら、どうして協力してるの?」

 

 西園寺はどうにかして言葉を紡ぐ。確かに嫌われるのは怖い。けど、どうでもいい人から嫌われるのになんの問題がある?………そう心に言い聞かせ平静さを保つ。


「隼人が頼んだ。理由はそれだけで良い。だが、彼奴はどんな事があろうと最後まで貴様を信じるだろう。強者だからな」


 カイトは疑っているのだ。本当に西園寺は困っているのか?隼人の善意を踏み躙ってるのではないか?と。


 でもそんな事を言われれば


「私が嘘をついてるって言いたいわけ?」


 西園寺のヤンデレオーラがカイトを襲う。そりゃあそうだ。愛する隼人を騙しているのかと疑われればキレるのは当たり前だ。

 だが、カイトは気にせず自分の言いたいことを言う


「逆に聞こう。なぜ悲劇のヒロインとヒーローがこうも偶然にも発生してるのだ?貴様のシナリオ通りと言われた方が納得できる」


「信用出来ないなら、私は貴方の手を借りるつもりは無いわ。隼人くんだけで………」


 西園寺はこの言葉の先を言わなかった。いや、言えなかった。西園寺のヤンデレオーラさえ凌ぐカイトの怒りの覇気によって。


「貴様いつまで隼人に甘えるつもりだ?」


 カイトは知っていた。西園寺が隼人をストーキングしていた事も、自分の事しか考えず隼人を困らせた事も、そして先程、傷だらけで骨折までしている隼人を。


 ――あの忠告だけでは防げなかった


「わ、私は………」


 西園寺はそっから先の言葉が見つからなからず、一滴の涙を溢した。


 ――ドボォォォォンンンンン――


 その瞬間カイトが川に蹴り飛ばされた。隼人によって


 ◆


 寝てたら、うるさすぎて目が覚めてもうた。そして起たらカイトが西園寺をナンパして泣かせてたので蹴り飛ばした。オンナノコナカセルヨクナイという事で、べ、別に西園寺だから助けた訳じゃないんだからね!


 あ、そんな事よりアカン。今の水飛沫で焚き火の火が弱くなってやがる。なんか燃やすもの燃やすもの、あ!こんな所に数冊のエロ本が。燃やそ


「プッハっ!貴様いきなり何を!?って何を燃やしておる!!??」


 カイトがそんな風に焦っているが別におかしな事をしていないので気にせず冷静に落ち着いて言おう。


「カイト……、人の嫌がる事はしたらダメだぞ」


 友達としての忠告だ。しかと受け止めよ。


「ならなぜその手を止めぬ!?あ、ああ、燃えていく雪、しのぶ、小町!!!」


 なぜエロ本に名前を付けているのだろうかコイツは?きっと厨二病意外の別の病気なのだろう。しかも頭の………、仕方ない荒治療だ。油も入れて火力を上げ姿形すら残さず灰にするのだ。けど大丈夫。きっと君の心の中で生きてるよ。多分、きっと、可能性がある。


「ぎゃあああ!!!我の我の玩具達がぁぁ!!」


 男泣きをしてる裸の厨二病を放って置き俺は西園寺に向き直った。


「あんな奴だけど、根は良い奴だから彼氏候補にでも入れてくれ」


「なぜ、この状況でその言葉が出る?」


「ごめん生理的に無理なの」


「なぜ我が振られた感じになるのだ!」


「マジでよお前ふざけんな。少しくらい好感度上げやがれ。そしてコイツを俺から寝取りやがれ」


「……貴様、寝起きで頭がやられているな」


「珍しいね。この状態になるのは一カ月に一回しかないのに」


 何を言っているのだろかコイツら?いつも俺は大体こんな感じだろ。つうか眠いし寝よ。俺はまた再度眠りについた。


 ◆


「………場がしらけた。とんだ空気クラッシャーだな彼奴は。我は日課を終わらして寝るとする」


 カイトはそう言って日課の全裸徘徊に赴こうとした。カイトがこれをやってる理由の8割は結構真面目な修行である。

 相手を気配だけで探る修行だ。夜の街中で目もあまり見えない中、五感を研ぎ澄まし誰にも見つからずに徘徊する修行。

 そのレベルの高さは警察に一度も捕まった事ない実績を見れば言うまでもない。マジで早く捕まって欲しい。


 そんなカイトに西園寺は言った。


「私、それでも隼人くんを諦めないから」


「作用か」


 カイトはそう一言だけ言って、夜の街に消えってた。文字通り。




 あとがき


 サマータイムレンダ一気に見てたら小説書く時間無かったわ。

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