第二話『ツッコミどころ満載な二人』

時間は過ぎ、放課後を迎えた。

遅刻するわけにはいかないため足早に学校を出る。



ガタンゴトンと電車に揺られながら集合場所へと向かう。


「やばい、緊張する」

「いつも通りにやってれば大丈夫だって。変に意識して挙動不審にならないようにな」

「だからその都度指摘してくれって言ったんだよぉ」

「無理だって……それともなにか? 黒子の服着て毎回耳打ちしろってか?」

「ぶはっ!」


孝平様、その受け答えは悪手ですぞ……ってか?

うーむ、意外とおもろそうだ。


「ぷふふ……あんな黒い服着てしゅばばばって動いてる真人想像したら……ぷぷぷ」

「そんなに面白いか?」


なんか孝平のツボにはまったらしい。


「あー面白い。なんか気が楽になったかも」

「そいつはよかった」

「よし頑張ろう。顔とか大丈夫? 変じゃない?」


そう言って寄せてくる顔を確認する。


「うん、特に問題なし。いつも通りすごく澄み切ったいい目してるな」


孝平の髪型は真ん中分けされていて爽やかな印象が強い。

額や目がしっかり出されていることで、孝平のコロコロ変わる無邪気な表情が強調されるのも他に好印象を与えやすくしているのだろう。


「なんか改めて言われると変な気分」

「なんだよ、せっかく褒めたのに」

「それはわかってるけど……そういう真人は相変わらず全然目が見えないね」


対してオレは前髪が目元に完全にかかっており、傍目からはオレの目を確認できない見た目になっている。

こうして並んでいると孝平の爽やかさがより際立ってるかもな。


「オレのことはいいだろ。ほら着いたぞ、行ってこい」

「あ、うん。少しでも仲良くなるよ」


言葉からは意気込みを感じられるが、その表情は少々頼りなさげだ。

道中で伝えたこと覚えてるんだろうか……


「連絡先忘れんなよ。そう簡単に会えないかもだし」

「れ、連絡先……」

「話すときは相手の目を見て話すこと」

「うん、大事だね」

「あとそれから――」

「だ、大丈夫だから! アドバイスは覚えてるから!」

「……ならいいが」

「じゃあね!」


孝平は話を打ち切るように待ち合わせ場所へと歩いて行った。


さて、じゃあ向こうの女の子に気づかれないように見ておきますかね。

うーむ、まさかこんな形でオレも巻き込まれるとは。


まあようやく親友に春が来たんだ、しっかり応援させてもらおう。




======




完全には落ち着けてない様子でキョロキョロしている孝平を内心心配しながら眺めていると、そこに一人の女の子が寄っていくのが見えた。

少し地味目には見えてしまうが、綺麗に切り揃えられた黒髪のボブカットをしていて穏やかそうな印象を受ける可愛らしい女の子だ。

背丈が低いのもあって同級生にしては幼く見える気もするが、高一なんてそんなものだろう。


あの人が孝平の好きな人とやらか?

確かにあんな女の子が絆創膏差し出してくれたら確かにグッとくるかも……んん?


今二人が合流したわけだが、近寄って来た時の女の子の挙動がとてもぎこちない。

動きが変なだけでなく顔が物凄く強張っている。

孝平も平常とは言えないが、それ以上に女の子の様子がおかしいため問題ないように見えてしまう。


何かあったのだろうか。

声が聞こえそうな位置まで近寄ってみる。


「そ、そにょ! 男の人と二人っきりって、は、初めてで……」

「え! お、俺も初めてなんで! は、初めて同士ですね!」


は?

何言ってんだ、ぶっちゃけ気持ち悪いぞそれ。


「そ、そうですか。よかったぁ……」


孝平の言い回しに口元を引き攣らせていたオレだったが、相手はむしろ安心した様子でいる。

なぜなのか。


「えと、敬語とかなしで大丈夫なので! これはお礼の場なのでもっとリラックスしていただければ! それで少しでも仲良くなれたら、と……」


おい、最後なんか下心漏れてないか。

頼むからやっちまったみたいな顔しないでくれ。


「仲良く……そ、そうですね、仲良くなりひゃいです! で、でもいきなり敬語なしはちょっとハードル高いっていうかその……」


意外と好印象なのかーい。


「そ、そうですよね。じゃあ外したくなったら言ってください。俺は……敬語で話すの恥ずかしいから外させてもらうよ。嫌だったら言ってね?」

「だ、大丈夫です! あの、私も頑張りましゅ!」

「うん、じゃあ行こうか」

「はい!」


そう言って歩き始めたものの、相変わらず女の子の動きはぎこちないままだ。

ただ孝平もそれには気づいているようで、ちゃんと女の子を気遣う素振りを見せている。


なんか……お似合いそうだな?

お互いめっちゃキョドってたけど、そのおかげでか互いの印象悪くなさそうだし。

最後の方は両方ともちょっとは落ち着けてたみたいだしな。


その調子で頑張れよ、孝平。



……ちなみに、女の子の名前は?




======




道中、お互いの自己紹介をしてなかったことに気づいた二人は慌てながら名乗りあった。


どうやら女の子の名前は佐倉さくら舞宵まよいさんらしい。

漢字まで丁寧に教えてくれた。


自己紹介を終えたからか孝平は普段の調子を取り戻しており、佐倉さんに話を振っている。

しばし二人の会話に耳を傾ける。


「佐倉さんはいつも歩いて登校してるの?」

「は、はい。えと、そんなに駅まで遠くないのと、あの、私自転車持ってなくて」

「へぇ、そうなんだ。あったら便利なんだけどね」

「そ、その、必要な時はだいたい両親とかが送っていってくれるというか」

「なるほどね」

「そ、そうなんです」


そう頷いたところで佐倉さんがあっと口を大きく開く。


「って、自転車! 乗らなくてよかったんですか、自転車!」

「あ、あぁ……まあ今回は佐倉さんとハンカチ買いに行くって約束だったから。あとから取りに来てもいいし、別に歩きで行けない距離でもないしね」


大丈夫だよと笑みを浮かべる孝平だったが、佐倉さんはしゅんとしてしまう。


「あ、ご、ごめんなさい。その、気にさせちゃいました、よね」

「ああいや! そうじゃなくてその……正直な話、忘れてちゃってたんだよね、緊張しすぎて」

「え?」

「今言われて気づいたぐらいだもん。ちょっとかっこつけちゃったけど、たはは……」


誤魔化すように後ろ髪をかく孝平に、佐倉さんはようやく表情を緩めた。


「……ふふふ、それは緊張しすぎですよ」

「あ、佐倉さんがそれ言う?」


二人で笑いあった後、また別の話へと移っていった。


なんかめっちゃいい感じ。

さっきまでキョドりまくってたのに、いい感じに力が抜けてきている。

頼まれて見守ってるわけだが……色々と大丈夫そうに思えるな。




======




「佐倉さんってどんなハンカチ持ってるの? 今日のは――」

「わ、私は動物とかが描かれているのが多くて――」


孝平がしっかり話題を振るため道中気まずい雰囲気は流れていない。

佐倉さんもしっかり話し返しており、どんどん堅さがとれていっている。

そんな感じで会話を絶やさないまま移動する二人に間をあけてついていっていると、目的地の大型店舗に到着した。


ここは駅近くというのもあって来る機会の多いところだな。

佐倉さんもこの地域に住んでいるってことは来たこともあるだろう。

実はすれ違ったことぐらいあったのかもな。



店舗の中にある雑貨屋さんへと入っていく二人。

そのままハンカチを選び始める。

人が増えてきたのもあって流石に声を聞き取れる距離にはいられなくなった。


でも笑顔の孝平とあわあわしている佐倉さんを見る限り――


「こんなのはどう?」

「え、そんな良いものじゃなくていいですよ!」

「いいって、これはお礼なんだから。これデザイン結構いいと思うんだけど、どう?」

「え、えっと……」


――って感じか。


特に佐倉さん嫌そうにしてないし、好感触っぽい。

なんだ、孝平って意外とプレイボーイの才能あるのかもな。

新たな発見だ。


そんなことを考えていると孝平がレジへと向かっていく。


さっきのハンカチで決めたみたいだ。

めっちゃ頭下げて佐倉さんがお礼してるけど、佐倉さんも気に入ったのか嬉しそう。

やったな、孝平。



さて、これにて今日の目的を達したわけで、これで帰るのかと思って行方を追うが、どうもそんな感じではない。

二人で館内を移動したと思えば、カフェへと入っていった。


……これオレもういらないだろ。

当初の予定にないカフェに一緒してくれる時点で多分いい感じの流れなんだろうし。

尾行結構疲れるし、これ以上は面倒に思えてきたんだが……

やっぱ孝平らしくできれば何も問題なかったわ。


このカフェで何もなければ去ると決め、オレもカフェで一休みすることにした。




************




頼んだジュースを飲み切り、空のコップを端に寄せる。


念の為二人に様子をもう一度確認するが、カフェに入ってからもずっと楽しそうで問題は一切感じられない。

――もう大丈夫だな。


外に出ようと出口に目を向けたところで、孝平達を見ている女性の姿が視界に入った。


ずいぶん熱心に二人の方を見てるな……何かあったのだろうか。

表情強張ってるし、声がうるさいとか?

まあ何かあれば店員さん呼ぶだろうし、オレが気にすることではないか。


しかし、あの人すっげぇ綺麗な人だな。

目の覚めるような美人ってのはああいう人のことを言うのだろう。

服も見た目に似合ってかなり大人っぽいし、あれは相当モテるだろうな……っと、あんまり見てたら今度はオレが不思議に思われる、さっさと出よう。



親友はうまくやってるし、目の保養もできたし、今日はいい日だな。


そんな良い気分でカフェを後にした。




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