第四十二話『ダメ元の試み』

リレーを終えたところで閉会式となり、各組の成績が発表された。


結果は――







場内に歓声と拍手が響き渡る。

同時に青色の鉢巻が宙を舞った。


「うぉお、青勝ったじゃん」

「上級生のリレーも強かったもんね! いいなぁ。俺達は負けちゃったから」

「ウチもリレー次第だったからな」


そういえばウチも上級生のリレーは青が勝ってたな。

青って足速い人が集まりがちだったりするのか。なわけないな。


「なんかリベンジしてくれたって感じ」

「そ、そうか?」


他校だしなんなら色も違うんだが。

まあ孝平にとっては佐倉さんって友達が勝っただけで純粋にうれしいのかね。


「閉会式が終わったら解散みたいだね。お昼のところに行こうか」

「ほーい」


この学校も片づけは明日に行うようで、今日はこのまま終了となるらしい。

昼分かれる際に閉会式後もう一度会うことを約束していたため向かうことにする。



◇◇◇◇



場所には着いたので二人が来るまで時間を潰す。


「会うのはいいが、その後なんか考えてるのか?」

「え、うーん。そりゃあこのままどっかに遊びに行けたらいいなとか思うけどさ」


話して終わりにはしたくないと。


「しかしどうかね。体育祭の後となると」

「そうなんだよね。みんな体育祭で疲れてるだろうし、やっぱすぐ帰りたいと思うかな。クラスで打ち上げとかやるのなら明日だとは思うんだけど」


まーほとんど外で応援したり種目に参加したりしてたわけだし、普段に比べて明らか疲れてる状態だもんな。

男子ならともかく、女子はグラウンドの土にまみれたから早く帰ってシャワー浴びたいとか考えそうだ。


「まあ言うだけ言ってみればいいんじゃないか?」

「そうだね。言うだけならタダだし」


結局アイツが許すかどうかで全てが決まりそうだけどな……




************




しばらく孝平と話しつつ二人が来るのを待っているのだが、中々来る気配がない。


「あれ、ここでって約束してたよな?」

「うん。絶対にしたんだけど、忘れちゃったかな……」

「連絡とかは?」

「いや、なにも…………あ、今メッセージ来た!」


届いたメッセージを見せてもらう。


「同級生先輩色々から囲まれててこっちに向かえてない、ねぇ」

「白石さんあのルックスですごい目立ってたもんね。その内学校の……なんだっけ……そう! 学校のマドンナみたいな扱いをされたりするんじゃない?」

「ま、マドンナ? ……あーまああの見た目ならそういう存在になってもおかしくはないか」


中学時代とかもそんな感じだったのだろうか。

結構告白されてたらしいし。

同じ感じになってストレス無駄に溜められるとコッチとしては都合が悪いんだがな……


「んー目立ちはしたが、言うてちょっとしたらすぐ下火になったりするんじゃないか? 実はそこまで知れ渡ったりしないとか」

「え、普通に知れ渡ると思うよ? 特別イベントで目立ったりしなくても人気になる要素があれば人伝で徐々に広がっていくものだしね。真人は知らないだろうけど、ウチの学校の一年生でもかっこいいとかかわいいとかで知られてる人はいてね――」




ふーん、身内だけとかじゃなく学年レベルで幅広く知られる生徒なんているんだな。

みんな物知りだな、よくそんな話拾ってくるもんだ。


そんなことを思いながら話を聞いていると、コッチに向かって走ってくる人が見えた。


「孝平、逃げてこれたみたいだぞ」

「――名前が、んえ? 何逃げてきたって……おお! 佐倉さん達だ!」

「藤本くんー!」


そのままオレたちの前に来た佐倉さんが手に膝をつく。


全速力で走って来てくれたみたいだ。

白石は見えた時点で歩き始めたが。


息を切らしながら喋ろうとする佐倉さんを孝平が制し、落ち着くのを待つ。




「ふぅ……」


息を整えた佐倉さんが両手を顔の前で合わせた。


「ふ、藤本君ごめんなさい! 約束してたのに待たせちゃって」

「いや、時間とか決めてなかったから大丈夫だよ。二人ともお疲れ様」

「ふぅ、ふぅ、ごめんね、咲希ちゃんがすごい話しかけられちゃって」


その視線の先にいる白石はものすごく機嫌が悪そうだ。

こりゃあ男からもたくさん声かけられた感じだな。


孝平もそれを察したようで苦笑いを浮かべている。


「リレーで大活躍だったもんね。白石さんすごいかっこよかったよ」


隣で頷く。


あれは大活躍と言って差し支えないだろう。

あそこで抜いてなかったらアンカーが勝ててたかは微妙なところだったもんな。


「……どうも」

「あはは……しばらくはそっとしておいてあげてほしいな」

「う、うん、そうだよね。話し疲れてるよね」


はははーと若干気まずい空気が流れたが、孝平が仕切り直しと言わんばかりに咳払いをする。


「えっと、とにかく青組優勝おめでとう! 佐倉さん達の組が勝って俺も嬉しいよ!」

「うん! 私が貢献できたかはわからないけど」

「そんなことないよ! 二人三脚とかすごかったじゃん! 圧倒的な一位だったね」

「全然他を寄せ付けてなかったな」

「え、あ、ありがとう……」


その時の注目され具合を思い出したのか佐倉さんが恥ずかしそうにしている。


「馬鹿にしてるの? 私と舞宵が組めばあれぐらいは当然だわ」

「へぇー。結構練習した感じ?」

「んー全然? 一回紐の結び方とか走る感じを確認しただけかなぁ」

「おおー! 特に何もしなくても二人は息ぴったりってことだね!」

「当り前よ。私は舞宵の幼馴染兼親友よ。舞宵とは一心同体と言っても過言でないわ」

「え、えはは……」


気持ちの良いドヤ顔を見せてくれている白石だが、それに関して佐倉さんの反応は微妙だ。


まあちょっと前まで大喧嘩してたからその言葉には違和感があるよな。

もちろん、仲直りの結果がそれってことなのかもしれないが。


「とりあえず体育祭後に会う約束をしたのはこうやってお疲れさまって言いたかったからなんだけど――」


そこで孝平が言葉を切る。


若干言い出すか迷っていたが、先に話していたことについて口に出した。


「――えっと、この後って空いてる、かな? もし二人が良ければどこかでお祝いがてら軽食でもって思ってるんだけど……」


断られる可能性が高いと思っているからか語尾が自信なさげだ。


「えっと、全然空いてるよ? 空いてるけど……」


佐倉さんはそう言って隣を見る。

さっきまで得意げにしていた白石だったが、今は真顔に戻ってしまっている。


佐倉さんは割と乗り気な感じだが、やはりネックは白石か。

男嫌いの白石にとって放課後も一緒というのはどうなのかという思いが佐倉さんにもあるんだろう。

そうでなくてもここに来るまでの件で機嫌が良くないというのに。


ただ、オレはアイツのそれが男と出かけられない程ではないことを知っている。

そして白石は基本的には佐倉さん優先。


となれば、


「――放課後にファミレスで友達数人と駄弁るってまさに高校生って感じだよな」

「え、うんそうだね。青春の一つじゃないかな」

「孝平なんて毎日のようにやってるもんな」

「まあみんなと話すの楽しいしね」

「――!」


佐倉さんの表情が変わる。

さっきまでは白石を気遣って不安そうな顔をしていた佐倉さんだったが、行きたい欲が上回ってきたのか表情をキラキラさせている。


「ねねね咲希ちゃん。咲希ちゃんはどう? 咲希ちゃんが嫌じゃなければと思うんだけど」

「……ハァ」


完全に孝平側になった佐倉さんを見て白石がため息をつく。

そしてオレに冷ややかな目を向けてきたが、努めて気付かないふりをした。


「まあ舞宵が行きたいのなら私は問題ないわ。行くなら早くしないとね」

「やたっ! じゃあ私たち着替えてくるから待ってて! すぐ行くから!」

「わ、わかった! ここじゃ邪魔かもだから校門前に移動しておくよ」

「はーい。じゃあ校門前でまた後でねー」

「うん、また後で……はい……」

「クフッ」


状況についていけてない様子の孝平に思わず笑い声が漏れる。

思い通りになったな、孝平。


しかし佐倉さんは欲望に素直でいいね。

白石もそうだがわかりやすくてありがたい。



◇◇◇◇



困惑から復帰した孝平と共に校門前に向かう。


「よ、よかったぁ~」

「ナイス誘いだったぞ、孝平」

「いやほんとよかった。白石さんが断ってたら佐倉さんも来なかっただろうし」

「オレもなんか理由つけて帰ってたら意外と二人で行けてたかもだぞ?」

「うーん、それはなさそうかなぁ」


流石に白石を振り切って佐倉さんが来るとは思えないか。

まあ佐倉さんが行くのであればアイツは確定でついてくるだろうし、佐倉さんが行く気になった時点で勝ち確ではあったんだが。


「今回は四人でさっき言ったように青春を楽しめればいいかな」

「オレは含めなくていいのに」

「何言ってんの! 俺は真人にいっぱい青春を楽しんでもらうって決めてるんだから!」

「なんだよそれ」


初耳だし意味がわからんし。

別にオレ孝平から提供してもらわないと青春を過ごせないわけでも、青春に飢えてるわけでもないんだがな……

山口の時といい、孝平の中でどんな考えが巡ってるのやら。


「真人が楽しそうにしてたら俺は嬉しいからね!」

「オレは孝平が佐倉さん達と仲良くなってくれた方が嬉しいし楽しいからそっちに注力してくれー」


今日はすげぇ大事な一日なんだからオレのことはいいんだって。


「むっ、そりゃあそっちも大事だけど」

「ならそれでいいじゃん。ほら、さっさと行こうぜ」

「あ、待ってよ真人~」


早歩きになったオレに孝平が追いついて並ぶ。


「そういえばどこ行こっか」

「考えてなかったのか?」

「いつも割と適当に決めるからなー」


とりあえず駄弁れればどこでもいいんだろうしな。


「別にいつも行ってるところでいいんじゃね。何なら佐倉さん達も知ってるかもだし」

「確かに。特にこだわる必要とかもないか」

「そうそう。室内で座って話せればどこでもいいよ」


いつぐらいに着けそうかを調べつつ歩みを進めた。




――――――――――――

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