第四十一話『負けられない』

時間になり、午後の部が始まる。

こっちの高校では午後の部の最初に応援合戦が入るプログラムとなっていた。



各組が応援歌を歌っていく。

ウチとは目的が違うのか、特にそれぞれの特色とかもなくオーソドックスな応援合戦であった。



青組の応援合戦も見終わる。


「うーん……これも二人がどこにいるかわかんなかったなぁ」

「多分後ろの方だったんだろうな、一年生だし」

「せめてこっちぐらいはって思ったんだけど、残念」


なんか残念がってばっかりだな孝平。

やっぱ事前の確認って大事か、まあそこは来年に期待だな。



◇◇◇◇



午前と同じく二人が出ない種目は適度に応援し、二人が出ている種目は力いっぱい応援する。

午前の段階では孝平が佐倉さんしかわかってなかったから午後の応援は単純に二倍だ。



特にアツかったのは二人三脚。



間違いなく足を紐で結んでいる状態というのに、佐倉さんと白石は一切それを感じさせない足運びで全体の前に走り出る。

お互いを気遣っているという様子もなく、まるで二人で一人と言わんばかりの一体感だ。


「すげぇ、息ぴったり」

「そのまま、そのまま! いけー!!!」


あの二人は体格や運動能力などが似ているとはとても言えないが、長年の信頼関係が成せる技ということなんだろうか。


他にもスムーズに足を進めているところはあるものの、一歩一歩確実にという感じでありスピードは遅い。

当然、着実に差は開いていく。




そのまま二人は淀みなく走り続け、ぶっちぎりの一位でゴールした。


「やったぁぁあ!」

「マジですごかったな」


会場は大盛り上がり。

放送席の実況もあの二人に釘付けであった。


誰が見ても文句のつけようのない、圧倒的な走りだったな。

多分あれ全体でもトップ狙えるレベルだろ。

幼い頃からの親友ってすごいんだな……


「お、孝平あれ見ろよ」

「え? ――あらぁ、佐倉さんなんかものすごくびくびくしてる」


オレが指した先で佐倉さんは周りをキョロキョロしながら縮こまっていた。

すごい居心地悪そうにしてるな。


「会場の盛り上がりがあの二人に向けられたからな。佐倉さんはそういうの苦手そうだ」

「あんなに速かったんだから白石さんみたいに堂々としていればいいのにね」

「ソレと比べるのは佐倉さんが可哀想だと思うぞ」


アイツ普段からいろんな人の視線集めてるからな。

注目されることに関しては歴が違いすぎるわ。


まあそのこと自体アイツにとっては不本意も不本意だろうが。


どうせならあそこで手でも振ってやればいいのにな。

そしたらさぞ盛り上がるだろうよ。

孝平なら絶対やる。



当然そんなことをするわけもなく、白石の背に佐倉さんが身を隠すようにしながら二人は列へと戻っていった。


「えーと、確か今ので佐倉さんの出番は終わりかな」

「だな。あとは最後の組対抗リレーだけだ」

「その時は白石さんを全力応援だね!」


リレーの形式はウチと同じく学年別。

各組から二人ずつの計六人で各順番を走るようになっており、各組から走者は男子で速い人数人、女子で速い人数人という方法で選ばれているらしい。


ウチは男子よりも速い女子がいれば走っていたが、ここではどの組も同じ比率で男女が混じるんだな。

男女で生まれる走力差をどう他でカバーするかという駆け引きになりそうだ。


そんな中で白石がどんな走りを見せるか注目だな。




************




種目は過ぎていき、最終種目の組別対応リレーの時間となる。


「ついにリレーだね! 白石さん頑張ってほしいなー」

「聞いてた順番通りならここの目の前を回っていくはずだ」


リレーはアンカーを除いてトラックを半周走ってバトンをつないでいき、アンカーのみ一周走る。

つまり、走る側にあらかじめ陣取っておかないと遠目にしか見えませんでしたってことになっちゃうんだよな。

流石にそれは面白くないので事前に確認して場所を取っている。


てかまさかアイツもアンカーの一つ手前とはな。

盛り上がりそうな位置にいるじゃん。


アイツがバトンを渡す時どんな展開になっているかね。







第一走者が位置につく。


第一は全員男だ。

最初はインの取り合いがあるんだから体格不利な女子は配置しにくいよな。

第一を走る人達にそこまで大きな走力差はないだろうし。




スターターがピストルを構える。


僅かな間を置いた後、発砲音が鳴り響く。

第一走者がその音とともに一斉にスタートを切った。



最初は各レーンで走り、第一コーナーから一気にインへと走者がなだれ込む。



激しい競り合いが繰り広げられる。

ここの攻防でこけてしまうパターンもよく見られるが、今回はそんな人は出ることなく競り合いを制した順に次のコーナーへ走り抜けていく。


流石は第一走者、少しの差はあれど大きく抜けることも遅れることもない。




先頭走者が第二走者へたどり着きバトンが渡る。

とはいえ現状は目に見えた差がない状態だ。


第二走者からは女子も混じり始め、それによって少しずつ差が生まれ始める。

バトンパスでは大きなミスは起こっていないものの、多少乱れや走りによって順位に変動が生まれ始める。



走者が回り、徐々に順位が固まっていった。



◇◇◇◇



あっという間にリレーは終盤に差し掛かった。


「あ、白石さん出てきたよ!」


軽快に身体を動かしながらスタート位置に向かっていく。

準備は万端そうだ。



白石が動くと白石側の生徒席からの声援が一段階大きくなった。


向こう側から「白石ー!」「白石さーん!」と彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。

一年生があそこを占領しているとは思えないし、上級生の声も混じっていそうだ。


まあ今までどの種目でも活躍してるし、認知が広まりつつあるって感じだな。

すっかり学校全体から注目の的になってるわけだが、それはアイツの本意なのかねぇ。



「何か人気の子がいるみたいね」

「あれじゃないか? とびぬけて綺麗な子がいるぞ」

「あの子確か徒競走で速かった子よ。頑張ってー!」



観客側でも白石に気づいた人が様々な反応をしている。


あの見た目で花形種目に出るわけだからな。

見る側の人気が集まるのも当然だ。


「わっ、いろんなところから白石さんコールが聞こえるよ!」

「すごいな。あそこの走順は本人も含めてプレッシャーがすごそうだ」


そんなことを話している間にトップが白石がいる走順にバトンを渡そうとしていた。


今のところ順番は頭抜けた黄の次に赤と青が僅差で続き、その後ろに一定の間隔をあけながら青、黄、赤となっている。

競ってる赤と青以外、致命的なものがなければ順位は変わらなさそうだ。


白石はどっちの青組だ?

いや、構えてるから速い方の青っぽいな。

赤側の走者は男だが、アイツは食らいついていけるだろうか。


「来るよ真人!」

「落とすなよー」


赤組の男子にバトンが渡り、数瞬後に白石に青組のバトンが渡った。



――両者ともにバトンパスは成功。

故に走り始めた時点で差は変わらない。




「「「――!!!」」」


「いけー!」


「咲希ちゃん頑張ってー!!!」




孝平も生徒も観客も大きな声援を送る。


青組の応援を受ける白石は流石は元陸上部と言うべきか、前の男子に差を開けさせない。

しかし差が埋まることもない。


その速度のまま走りきれるかで勝負は決まるだろう。




二人がオレ達の前のコーナーに入る。


「白石さーん!!!」


孝平がより大きな声を出す。


「負けんなぁ!!!」


オレも声を張る。



走者二人がオレ達の前を抜けていく。

その時、歯を食いしばりながら必死に走る白石の表情がしっかり見えた。



――――アイツ今コッチを……?



そんな感覚を覚えた次の瞬間、白石の速度が上がった。


腕を振る速度が上がり、ずっと埋まらなかったその差が埋まっていく。

瞬く間に赤組の男子と並んだ。


「行ける! 行けるよ!」

「ぶちぬけぇ!!!」


男子も負けじと腕を振るが白石のように速度は上がらない。


ギアをあげた白石の体がついに男子の前に出た。


「よぉし!」

「抜いたぁ!!!」


「「「わあぁぁああ!!!」」」


歓声のボルテージがまた一つ上がる。


男子の前に出た白石がそのままアンカーへとバトンを繋ぐ。

インアウトが入れ替わった影響で差を広めてしまった赤組が少し遅れてバトンを渡した。



白石の働きによってさらに大きくなった場内の歓声はそのまま青組アンカーへとむけられる。

走り切った白石が疲れた様子でグラウンドの内側に歩いていき、すごい勢いで青組の生徒たちに囲まれるのが見えた。







白石のところがゴールする。

流石に一位の黄に追いつくことは出来なかったものの、アンカーはそのままの順位を維持し二位でゴールした。


「真人見たよね!? 白石さんすごかった!」

「本当な! まさか男子についていくどころか追い抜くなんて――」

「すっごい速かった! かっこよかったね!」

「おうわかってるから掴むな揺らすな~」


孝平の興奮がすんごい。


オレもオレでテンション上がってるのに、肩掴まれてガクガクやられてしまうとそれどころではない。

オレだってそれを共有したいというのに。



なかなかそのガクガクは終わらず、しばらく揺らされ続ける。





「――ヤメロっつってんだろ」

「あっ、すみません」


オレが額に青筋を立てたところでようやく止まった。


うえぇ……すっげぇ気持ち悪りぃ……


「孝平覚えとけよ……」

「ご、ごめん……あーほら、真人も感想どうぞ!」

「オマエ殴っていいか?」

「ごめんなさい!」

「ったく……」


口元を引き攣らせつつ構えた拳を下ろした。


相変わらずハイテンションになった孝平の行動はよくわからん。

おかげでオレのテンションはすっかり落ち着いちまったよ。




全ての走者がゴールし、順位が決定する。


最終的な一年生リレーの順位は黄、青、赤、青、黄、赤とうまい具合に各組でばらけた結果となった。

こっちの体育祭でも二、三年生の結果次第になりそうだな。



場の熱気は冷めやらぬまま次のリレーへと移っていき、各学年の代表者が走る姿を見届けた。




――――――――――――

作者より


ご拝読ありがとうございます。

体調を崩していたためしばらく更新できずにいました。

今後は元の隔日ペースで投稿していきたいと思います。


更新できずにいた期間の中でPVが1000を超えていました。

読んでくださっている方、ありがとうございます。


これからも読み続けてもらえるような話を出していければと思っています。

評価や感想など頂けると励みになりますので、是非お願いいたします。

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