めっちゃいいヤツな親友に可愛い彼女ができるのは当然だ！

第四十話『初対面を終えて』

二人が落ち着く頃には昼休憩の終わりが迫っていたため分かれる。

「ふぅ……」

孝平は二人が見えなくなったところで大きく息を吐いた。

お疲れさんと肩を叩く。

「良かったな、親友さんから友達でいることを許可され、て？」

言ってて自分で違和感を持ったが、それは孝平も同じだったようで苦笑いを浮かべる。

「まあ……うん。本来そういうのって許可制とかではないと思うけど……白石さんの場合は警戒するのも仕方ないんだろうから良かったよ」

「それにしても異常なレベルだったけどな」

「あはは……あれは何だったんだろうね」

「知らん」

結局ゆっくり困惑することもできずに尋問とやらに入っていったからな。

よく孝平は質問にしっかり答えられたもんだ。

危うくアイツのせいで孝平のカッコイイ宣言が嘘になるところだった。

「とりあえず納得してくれたみたいだけど……真人もありがとうね、途中途中でフォローしてくれて」

「おう」

そう感謝してくる孝平の表情を伺う。

さっきのやり取りが微妙に腑に落ちていないようで首を捻っている孝平だが、特に不満や怒りは感じられない。

白石の態度は明らかに初対面の人に対して不適切だったが、その点は特に気にしていないらしい。

流石というかなんというか。

多分オレとかなら逆ギレ案件だぞ、すげぇわ。

「にしても真人、なんかキレキレだったね。白石さんに対して」

「えっ、あーそう？」

唐突にそこを言及されて心臓が跳ねる。

「うん。すごい生き生きしてなかった？」

「そんなことはない、と思うが」

とりあえず否定したものの……マジか。

オレが白石に感じたそれがそのまま返って来るの嫌なんだけど。

てかあのやり取りを楽しんでだとか思われるの心外だ！

マジで恥ずかしかったんだぞ！

「――コホン」

「？」

さて、なんとか自然な流れだったということに持っていきたいものだが。

「というかあれで黙ってる方が問題だろ。明らか行きすぎな時もあったし、佐倉さんはああいうのに口挟むタイプじゃなさそうだしな」

今回に関しては事前に決め事しといて正解だったな。

おかげで気にすることなく口出しできた。

「それはそうなんだけど、なんか全然普通に対処してたなって。ほら、白石さんかなりへ――と、特徴的だったじゃない？」

別にオレ相手に言葉を選ばなくてもいいんだが……まあそこも孝平のいいところか。

「オレがそういうの気にしない質（たち）だって知ってるだろ。今回も同じだ」

「そうかなぁ。あ、しかも最初っから口調崩れてたじゃん？　いつもは女の子相手ならもう少し丁寧な口調で話すのに」

「え、そうだったか？」

やべ、言い返すことを意識しすぎて口調とか気にしてなかった。

孝平相手じゃ口調の違いなんて気づかれて当然か。

これは……誤魔化せないか。

「うん。もしかして――」

ハァ、アイツになんて怒られるかねぇ。

「――白石さんと真人って相性いいんじゃない？」

「ああ、実――は、はぁ！？」

「わっ」

想定と全然違う言葉に思わず大きな反応をしてしまう。

あ、相性？　なんの話？

てか全然バレてなさそうだな、おもしろ。

「真人？」

「あ、あぁ」

えーと、相性って言ったか？

……いや良くないだろ。

アイツと合う男ってのが存在するもんなのかわからんが、オレアイツのことさっぱりわかってないぞ。

だから怒らせたり泣かせたり色々やってるんだろうし。

性格があってたらあんなことしなくても今と同じ結果を導くことができてただろうさ。

「ま、まあそういうのは言わない方がいいだろ。あの親友さんは男が苦手なんだろ？　裏でこんな話されるのは気分良くないだろ」

「む、そうかもだけど」

「その口調が崩れてたってのも孝平相手に随分突っ込んでたから、オレも余裕が持てなかったってことだ。向こうの態度が普通じゃなかったのは間違いないし、コッチもそういう対応になるのは当然だろ」

「あーまあそれは」

よしいい感じ。

「だろ？　だから孝平が感じたのはちょっとした勘違いだろうよ。普段のオレと違うところがあったとしてもそれはある種の対抗意識であって、決して友好的な何かではないな」

「そ、そう……なんかやけに力強く否定するね」

「それは違うだろってなったからな」

「そうかなぁ」

何か引っかかりを覚えている孝平は無視し、再度観戦場所を探すべく歩みを進める。

これ以上話を伸ばしても藪蛇にしかならないからな。

話はこれで終わりだ。

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藤本孝平、あとついでにあいつとの対面を終えて自分の組へと戻る。

藤本孝平の話を聞いてなんとなくの人物像を把握できた。

あれが本当に取り繕われたものでないのなら本当に人として好ましいとされる性格をしている男だと思う。

私の記憶にあるような男たちとは異なる、所謂良い人ということになるんでしょう。

……まあ形式的に質疑応答をしただけだから、まだ正直何とも言えないけど。

私を前にして特に媚びようとしなかった部分は少なくとも評価していいわね。

「咲希ちゃん、聞いてる？」

「え？　ごめんなさい、考え事してた」

もーと頬を膨らませる舞宵に向き合う。

「藤本君のこと？　友達として認めるって言ってたじゃん」

「頭ごなしに否定するつもりはないって言ってただけよ。あのやりとりで私が見逃した何かがあるかもしれないし、まだ信用できたわけではないわ」

とりあえずしばらくは経過観察ね。

あんなひと時で全てを見極めるなんてできるわけもないし。

「えぇ……疑り深いなぁ」

「しょうがないじゃない」

「それはわかってるけどさぁ」

私に譲れないラインがあることを知ってから舞宵はこういう場面で食い下がらなくなった。

いくら仲が良くても超えてはいけない部分はある。

それが前の喧嘩でお互いが一番学んだ部分だと思う。

「あの男が変なことさえしなければ何も言わないわよ」

「その変なことってのがなんなのか気になるけど……まあいっか」

藤本孝平が舞宵に迫ろうとしたり舞宵が悲しむような何かをしたとわかったらすぐ引っ叩いて関係を破棄させてやればいい。

……ちょっと待って？

藤本孝平を引っ叩いたりとかしたらあいつキレたりするのかしら。

あいつ自身を引っ叩いたときは全然気にしてなかったけど、親友だとその限りじゃないとか。

そ、それは怖いんだけど……

す、筋さえ通ってればそんなことしないはず、よね？

内心で不安を募らせていると舞宵がじゃなくて、と話を変えた。

「私はさっきのあれ何だったのって聞きたかったの」

「さっきのあれ？」

「けんさつかんとかべんごにんとか、あと最後のへいていとかいうのも」

「え、えっと……」

や、やっぱりそこ気にしちゃう？

あのドラマキャラみたいにすれば冷徹だけど重い雰囲気になりすぎないかなって思ってのことだったんだけど……

と、というかあいつが悪いのよ！

異議とか検察官とか流れに乗ってくるから勢いづいてあんな感じになってしまったんだわ。

合わせてくれる人がいて楽しくなったとか、そんなの全くないんだから！

「舞宵は気にしなくていいわ」

「えー？」

とりあえずこういう時は堂々としておけばいいはず。

「あれは雰囲気を出すためだから。あの圧のおかげで藤本孝平も嘘偽りなく話してたでしょ？」

「そんなことしなくても藤本君は正直に話してたと思うけど。本人もそう言ってたし」

「結果よければすべてよしよ」

「うーん……」

残念ながら舞宵の心証はよくなさそうね……

何言ったら納得してくれるかしら。

「なーんか納得いかない。ずっと咲希ちゃん変だったし……咲希ちゃんって橘さんと初対面なんだよね？」

「えっ」

「なんか妙に息が合ってるように見えたんだよねぇ」

「は、はぁ！？　そんなわけないでしょ！　あんなよくわからない男相手にそう思われるのかなり不本意なんだけど！？」

あ、あんなムカつくやつと私が息ぴったりなわけないでしょ！

……じゃなくて待って不味い、私とあいつの関係が疑われてる。

初対面じゃないことがばれたら不味いって私が言ったのに！

な、なんとか誤魔化さないと……！

とりあえず適当にまくしたて続けた。

後から振り返っても、何を言ったかは全く思い出せなかった。

「――お、落ち着いて咲希ちゃん。私が悪かったよ……」

「ふー、ふー……ほんとよもう！」

舞宵が謝ってきたところで言葉を切る。

息を整えていると、舞宵は今までに見覚えのない何とも微妙な表情でこちらを眺めていた。

「なにか」

「イエ、ナニモ」

私とは明後日の方を向く舞宵。

その後舞宵があいつについて触れることはなかった。

誤魔化せたみたいね、よかった。

全く、せっかくフォローを許可してあげたのにあいつが立ち振る舞いを誤ったから私が尻拭いすることになったじゃない！

後で文句言っとかないと。

……いやまあバレるリスクはあの時点で言われてたけども。

違和感持たれるようなフォローさせてしまうほど私が深入りしすぎてしまったということなのかな。

あのままじゃ超えてはいけないラインを越えることになりかねなかった、か。

ってことは主に私に問題が……い、いや、お互い様よ！

あいつのフォローに問題があったことに変わりはないし。

ま、まあ今回は不問にしてあげようかしらね！

ほんとあいつが絡むとモヤモヤすることが多くて困るわ、もう。

◇◇◇◇

集合場所に戻ると何故かクラスメイトに「なんか良い事あった？」と聞かれた。

なんだったんだろう、ムカつくことばかりだったというのに。

一山超えた達成感でも出てたのかしら。

さて、この形容し難い何かは午後の種目にて発散しないとね。

ぐっと拳に力を込めた。

あ、なんか可哀想な小動物みたいにわぁわぁ言ってるから舞宵に聞くのはやめてあげて。

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