めっちゃいいヤツな親友に可愛い彼女ができるのは当然だ！

第一話『親友に好きな人ができたらしい』

この高校に入学して2週間程経った。

最近にぎやかになってきた教室内を横目に窓の外を見る。

「真人、おはよう」

少しは慣れてきたかなとつぶやいていると聞き慣れた声が耳に入ってくる。

「ん、おはよう孝平」

開いていた本を閉じ、声をかけてきた親友の方に向く。

その際に時計に目をやると、SHR開始ギリギリを示していた。

「やけにギリギリだな。いつもはもうちょっと余裕あるのに」

「うん、ちょっと登校中色々あってね。それについて後で話したいんだよ！」

「へぇ、なんだろ」

朝からやけに興奮した様子で体をウズウズさせている。

今すぐにでも話したいというのが伝わってくるが、とても休み時間に話せる内容量じゃないということで、昼休みを待つこととなった。

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昼休み、学食にて昼食をとる。

オレは弁当なのでここで食べるのは適切ではないのだが、幸い学食の席には余裕があるためオレのような人がいても問題ない。

弁当を広げて孝平を待つ。

「お、今日は焼きサバ定食か。うまそうだ」

「真人の弁当も相変わらず美味しそうだね」

「おう」

いただきますと挨拶をして食べ始めてすぐ、孝平が話を始める。

「で、朝言ってたことなんだけどね」

「うん、どうしたんだよ」

「じ、実は俺……」

「うん」

「す、好きな人ができた」

「ふーん……」

ご飯をもぐもぐと食べる。

そうかそうか、好きな人ができたか、へぇー――

「――ぶっ！？」

「だ、大丈夫！？」

ゲホッゲホッとむせるオレに孝平が水を差しだしてくれる。

「い、いや大丈夫。え、いまなんつった？　すきなひと？」

「う、うん。好きな人が出来たんだよ」

「ま、まじか……」

わたくし橘（たちばな）真人（まひと）15歳、親友からの突然の告白に驚愕する。

だって結構長い期間この親友、藤本（ふじもと）孝平（こうへい）との付き合いが続いてるが、一度も好きとかそういう浮ついた話聞いたことなかったし。

孝平のヤツ人気者の癖して恋愛方面では全然モテなかったんだよな。

飛び抜けていいヤツなのに、周囲も見る目がないぜ全く。

で、なんだ、そんな恋愛のれの字もなかった孝平に好きな人？

マジで何があったんだよ。

「ず、随分と唐突な話じゃねぇか。さては漫画みたいなことでもあったな？」

「え、真人って実はエスパー？　実はそうなんだよ」

「当たってるんかい」

冗談だったのに。

漫画みたいなことというとパンを咥えた女子高生と正面衝突とかが定番だが。

そんな予想をしつつ、孝平が説明の説明に耳を傾けた。

「うん、今日の朝のことなんだけどさ――」

≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈

『ふんふーん』

いつもの通学路。

孝平は自転車に乗って鼻歌まじりに走っていた。

といっても周囲はちゃんと見ており、道があれば速度を落として確認する。

そんな正しい安全確認した上での登校であったが――

『いぇーいぼくがいちばんのりー！』

『はっ！？』

――突然、思いもよらない場所から小学生が孝平の目の前に飛び出してくる。

小学生が通って来たのは建物と建物の細い隙間で、それこそ小学生ぐらいでなければ通れないような空間だった。

当然そんなものを予想できるはずもなく、孝平は驚きで目を見開く。

『え、うわぁぁ！』

『くっ』

「そんな感じで小学生を轢きそうになっちゃって」

「急展開すぎる」

「すっごいびっくりした。でもなんとか体は動いてくれて、その男の子とは別の方に自転車乗り捨てて避けることができたんだよ。その代わり思いっきりこけたけど」

「おおすげぇ」

「でしょ」

『っ……いてて……』

『うわーん！！！』

轢かれそうになっていたことを理解した小学生が大声を上げて泣き出した。

孝平は足をひきづりつつその小学生のもとに向かう。

『だ、大丈夫？』

『う、うん。でもお兄ちゃんが……』

『俺は大丈夫だからね。でも今度からは飛び出さないようにね』

そう言って小学生の頭に手を伸ばして笑みを浮かべる。

頭を撫でられた小学生は泣き止み、孝平に頭を下げた。

『う、うん……ごめんなさい』

『気を付けてねー』

小学生を見送ったところで孝平は取り繕っていた表情を戻した。

『ぅう、結構痛い……』

「謝れるのは偉いな」

「そうだよね。もうあんなことしないといいけど」

「で、本当に大丈夫だったのか？」

「いやぁ……男の子にはかっこつけたんだけど、結構がっつりすりむいちゃってさ。ちょっと立ち上がれなかったんだよね」

その場にうずくまる孝平。

立ち上がれず苦悶の表情を浮かべることしかできない状態だったが、そんな孝平に手を差し伸べる人物がいた。

『ああああの、だ、だいひょうぶでしゅか！？』

『え？』

『え、えと、その、あの、あ、あひとか、すりむいちゃってるんじゃ』

『あ、あはは。まあ』

『そ、その、わたひ、これ！　消毒液！　持ってるので！』

その人物は手に持った消毒液をずいと近づける。

『は、はい』

『その、足、みせてくだひゃい！』

≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈

「――って感じで、多分格好的にはおんなじぐらいの高校生だったと思うんだけど、そんな女の子が心配してくれて、その上すりむいた膝とかを消毒して絆創膏まで貼ってくれてさ！」

「お、おう良かったな」

なんかその女の子、すげぇ噛み噛みだったような……？

「てか傷見せてくれよ。そんなに激しくこけたのか？」

「別にスピード出してたわけじゃなかったんだけど、咄嗟すぎて受け身とれなくてさ」

孝平がズボンや袖をまくると複数個所に絆創膏が貼られていた。

うわ、結構大きい傷もあるし他にもいろんなところ怪我してんだな。

服に穴があいてないのは制服が頑丈なのか孝平の体が脆いのか。

「中々だな。名誉の負傷ではあるが」

「そうだけど、我ながらいっぱい怪我しちゃったなって感じ。真人なら転けずに対処してそうよね」

「どうだろうな。とにかくそんなのなら一回保健室行った方がいいんじゃないか？」

「うーん、どうしようかなぁ」

まあ昼休みまで平気そうにしてたんだし、今更かもしれんが。

しかし、よくこんなに色んな絆創膏持ってるもんだな？

随分女子力高い人だ。

「っと、話がそれたな。じゃあその女の子ってのが？」

「あ、うん。通りがかってる人はそれなりにいたんだけど、話しかけてきてくれた人はその女の子だけでさ。だから余計にうれしくて、余計に魅力的に見えちゃったというか」

「がっつり一目惚れしてるねぇ」

おーおー完全にホの字だなこりゃ。しっかり出来上がっちゃってるよ。

絆創膏といいその行動といい、随分できた人だなぁ。

「可愛かったなぁ……」

そう言ってうっとりとした表情を浮かべる孝平。

あんな顔をする孝平は初めて見る。

恋する男の顔といえば聞こえがいいのかもしれないが、若干気持ち悪くもあるな。

「まーしかし本当にべったべたなことで」

「い、言わないでよ、自覚してるんだから。制服見る感じ同じ高校ではなさそうなんだけどさ」

「他校の女子高生か。となるとなかなか会おうと思っても会えないな」

「大丈夫！　傷口を消毒してもらったときにハンカチもあててもらったんだけど、それで汚しちゃってさ。お礼も兼ねて新しいハンカチを買いに行くことになってるんだよね」

「おお！」

コヤツやりおる。

恋愛経験ないのに積極的だ。

「それが今日の放課後？」

「そう。どうやら同じ駅使ってるみたいで、そこで17時に待ち合わせしてるんだよね」

「そういえばそういうことになるか」

孝平は家から最寄り駅まで自転車で移動して、学校までは徒歩移動だからな。

オレらが住んでる地域に高校はないし、その人も駅に向かう生徒ということになる。

「じゃあ住んでる場所はそんなに遠くなさそうだな。いいね」

「そんなわけで、放課後にまた会うことになったんだけどさ。ちょっとお願いがあるんだよ」

「ん、どうしたよ」

「その……助けてほしいんだよね」

「助け？」

うん？

女の子と会うだけで助けることなんてあるか？

「その、好きになった女の子と二人っきりってのはものすごく不安と言いますか。友達の女の子と二人になることはあったけど、今回のはそれとは全然違うし。だからちょっと見守っててほしいというか……」

「はい？　見守ってどうするんだよ」

「変なとこあったら指摘してほしいなーなんて」

「し、指摘？」

孝平の頼みに思わず首を傾げる。

「……どうやって？　隣にいるわけにもいかんだろ」

「ほら、通話つなげてイヤホンつけて指摘してもらうとか」

「それってワイヤレスイヤホンとかがないと難しくないか？　孝平そういうの持ってないだろ」

道ゆく人がそういうのをつけてやり取りしているのを見たことある。

あれ突然喋り始めるから普通にびっくりするんだよな。

「あ」

「もしあったとしても、ずっとイヤホンつけてる人は心象悪いと思うがな」

「そっかぁ……」

個人的にはって話だけども。

たとえ何も流していなかったとしてもこっちの話聞こえてなさそうだし、外そうぜって思う。

「だろ？　だから見守っててもできることは――」

「お、お願いだよぉ！　トイレ行った時とかに相談できるだけで安心するからさ！」

「……そういうもんか？」

「そうだよ！　恋愛経験あるんだから助けてよぉ！」

恋愛経験て、中学時代のたかが数ヶ月程度のを経験にカウントしていいものか？

まあそれで多少でも落ち着けるってのなら断る訳もないけど。

「落ち着いてくれ。もちろん手は貸すつもりだ」

「ほんと！？」

「と言っても相談で度々席外してたらそれこそ印象良くないからな？　取り繕わないで孝平らしく話せばいいんだよ」

親友の贔屓目抜きにしても孝平はいいヤツだ。

だからこそ友達も多いんだし。

孝平が自分らしくしていれば誰相手でも好印象だろ。

「うぅ……できるかなぁ」

定食を食べる手は止まってないものの、漏れる声はとても情けない。

孝平が人との関係でこんなに悩んでるのも初めて見るな。

それだけその女の子を好きになったってことだろうか。

「まあそんな不安そうにするな、相談には乗る。取り繕わないとは言ったが、最低限相手の好感度を稼げるような立ち回りはしないとだからな」

「好感度？　真人ってギャルゲーやったことあったっけ」

「ゲームの話じゃねぇよ」

まずは現実を見ることから始めてくれ。

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後書き

以前書きやめたものの設定を見直して書きなおしました。

あらすじは物語の導入部分なので、その範囲のお話は毎日投稿する予定です。

またその後も定期更新する予定なので、よければ今後の話も読んでいただき、欲を言えば評価・感想などをして頂ければ嬉しいです。