第二十八話『突然立った遭遇フラグ』

今日は体育祭前日の準備日。

準備日は一日全てが体育祭のテント張りや垂れ幕準備などにあてられることになっている。


「孝平、これ持ってくぞ」

「うん、せーの!」


テントの脚パーツを二人で抱える。

一人でも持っていけそうだが、効率は結局変わらなさそうだ。


「ふぅ、こんなに色々準備するんだね」

「看板とかも作ってるしな。流石高校、中学とは手の込みようが違う」

「装飾もしっかりしてるしね。これは盛り上がりそう」


明日への期待が高まるな。



◇◇◇◇



パーツを運んでいると、孝平がそうそうと話を切り出した。


「この前佐倉さんの親友さんの話したじゃん?」

「あーあったな」

「あれからその親友さんの話をたまに聞くようになったんだけど、すごい頑張っているみたいだよ。合同練習以外にも個人的に走りこんだりしてるんだって」

「ほほう、流石元陸上部」

「そうだよねぇ。……あれ、俺それ真人に伝えたっけ?」

「――! っとと!」


パーツを落としかける。

なんとか持ち直すことができた。


「だ、大丈夫!?」

「ああ、悪い。つまずいた」

「転ばなくてよかった」


動揺が体に出てしまった、危ない危ない。


「えっと、知ってるってことは聞いたことあったんだろ。それか最近陸上部とよく絡んでたから混ざったか」

「んーまあどっかで話したんだろうね」


……何とか誤魔化せた、か?







――――あ、焦ったぁあ!


うっかりぽろっと反応してしまったわ。

気を付けないと。


しかしアイツそんなに気合入ってるのか。

どうせ走るのならそこらの男には負けてられないってことなのかね。


「その親友さんと真人、競争したらどうなるんだろうね」

「うーん、元とはいえ短距離やってたのなら負けそうだけど」

「え、そんなに女の子って速いの? 俺ならともかく、真人なら身体能力で勝ると思ったんだけど」

「身体能力で勝ってても足が速いかは別だろ。まあ向こうがどのくらい速いかわからないし」

「そういうものなんだ」


とりあえずアイツに関してはあんまり引っ張らない方がいい。

どのぐらいオレのことを話題に出してるかは知らんが、下手なこと言ってアイツに伝わって面倒なことになるのは避けたいし。


「そういえば佐倉さんを体育祭に誘わなかったのか」

「うーん、別に来てもらえてもそんな話せるわけじゃないからねぇ。大半は組の待機場所にいることになるだろうし、気まずいかなって」

「確かに」

「あと佐倉さんのところは来週が体育祭だし」


連続で体育祭ってのも飽きるだけか。


「ふーん。孝平はどうするんだ? 向こうの体育祭行くのかよ」

「あ、どうしよう。そもそも行くとかそういう話にもならなかったんだけど、別に俺は行ってもいいかなとは思うんだよね」

「いいじゃん。急に現れたらびっくりするだろうから、会うなら事前に伝えておいた方がいいだろうけど」


会わないなら別に誰が行こうが関係ないだろうがな。


「行こうかな……? ちょっと考えてみるよ」

「貴重な会えるチャンスはものにしておけよ」

「うん。あ、せっかくだし行く時は真人も一緒に行こうよ。一緒に応援しよう!」

「え」


あー……そりゃあそういう話になるか。

これどうしよう。


別に会う時まで一緒にいなければ大丈夫か?


「あれ、もしかしていつもの入れちゃってる?」

「いや、入れてない。会う時はオレどっかいけばいいか?」

「え、そんな気にしなくていいよ。佐倉さんに真人を紹介したいしね」

「そ、そうか。孝平がいいなら……」

「うん! 来週の予定確認しておかないとだ」


う、うーん……ほんとどうしよう。

佐倉さんと会うってことは確実にアイツともその場で対面することになるよな。


どういう体で会えばいいんだ……?

行くってなったらアイツと相談しないとだな……



っと、話しているうちにいつの間にかこれが最後か。


「よし、じゃあこれ持っていってテント立てるぞ」

「はーい」


よいしょよいしょと最後のパーツを運ぶ。


懸念事項が上がってしまったが、一旦は明日の体育祭に集中するとしますかね。





→====+





約一週間後に体育祭を控えたある日。


「え、藤本孝平から体育祭に行っていいか聞かれた?」

「うん。特に面白いことないかもって返したんだけど、それでも大丈夫だからって」


休日遊びに行くだけに飽き足らず、こっちの学校行事にまで足を運ぶですって?

私生活に加えて学校生活にまで侵食しようとするなんていい度胸じゃない。


「舞宵が断ってるのに食い下がるなんて、何を考えてるのかしら」

「いや、断ってはいないけど……。せっかく来てくれるのにあんまり話せないのは申し訳ないかなって」

「あら舞宵。私がいるのにそんな時間を1秒たりともあげると思っているのかしら」


あえてそんなことを言ってみると舞宵はわかりやすく慌て始める。


「ちょ、ちょっと!? 藤本君のこと少しは認めてくれたんだよね?」

「まあ有象無象とは思わないようにしてあげたけど」

「え、それなのに?」

「そうね。さっきのは冗談よ」

「わかりづらいよ!? ていうか絶対冗談言ってる顔じゃなかったと思うんだけど……」


そう言って不満そうに唇を尖らせた。


あっと、舞宵ったら拗ね始めちゃってる。

これぐらいにしとかないと舞宵を怒らせちゃうわね。


「それで、舞宵はどうしたいのよ」

「え? ええと……私としては来てくれたら嬉しいなーって」

「へぇ」

「咲希ちゃん?」

「何も言ってないわよ」

「じゃあその不満そうな顔少しは隠してくれない?」

「舞宵、話が進んでないわ」

「私悪くないと思うんだけど!」


続きを催促すると舞宵はウガーと頭を抱えた。


「もう……ほら、もう高校生だしママ達わざわざ見にこないじゃない? あ、でも咲希ちゃんのところは違うか」

「いや、予定があるから来ないみたいよ」

「あれ、珍しい」


何でその日なんだと二人そろって床で泣いてたのは流石に引いたけどね。


「とりあえず家族が来ないってことは応援してくれる人いないってわけで。それだとちょっと寂しかったから、藤元君が来て応援してくれるのなら嬉しいなって」

「ふぅん。応援なら同じ組の人がしてくれると思うけど。私も応援するし」

「咲希ちゃんはそりゃ当然だけど、同じ組の人は私個人を応援してくれてるわけじゃないと思うから……」


舞宵自身を応援してくれる人がたくさんいてほしいってことか、そんなこと思ってたのね。


藤本孝平だと嬉しいってのは気分としては微妙だけど、舞宵の正直な思いを聞いてからは冷静な気持ちで受け止められるようになっている。

前みたいにその名でカッとなることはもうないわ。


「……まあ舞宵が来て欲しいと思ってるのならそれが大事だと思うわよ」

「え、いいの!?」


目玉が飛び出る勢いで驚く舞宵。

気持ちはわかるけど、そんなにオーバーに反応しなくても……


「舞宵の思いをもう踏みにじるつもりは無いわ。不健全なことならもちろん止めるけど、体育祭来るぐらいは至って健全だし」

「そ、そうだよね! 良かった~。また咲希ちゃんと喧嘩することになるかなって身構えてたよ」

「え、喧嘩する気満々だったの?」


争いも辞さない覚悟だったなんて……

喧嘩するほど仲がいいなんて言うけど、こんなことで喧嘩してもとても仲が良くなるとは思えないかららやめてほしいわね。


「そ、それで、いつ藤本孝平と話しに行くつもりなの?」

「まあ話すとしたら昼休みとかかなぁ? ママ達と会う時もそういうタイミングだったし」

「そうよね。じゃあその時私はどうしようかしらね」

「え、一緒に行こうよ。咲希ちゃんさえ良ければ藤本君に紹介したいし。会って話せば藤本君がどんな人か伝わると思うから!」

「……紹介、か」


どうしたものかと考え込む。


舞宵には言えないけど、藤本孝平のなんとなくの姿は傍から見ることで把握できている。

今後もそれは繰り返していく予定で、あいつから話を聞けばもっと藤本孝平の人物像は見えてくると思う。


ただ、直接会って話した方が人となりを理解しやすいのは当然で、一度会ってしまえば今後本人に直接問いただすことも可能になる。


私がちょっと気まずく思うだけで会わない理由はない、か。


「……男の人と話さなきゃいけないのは嫌?」


舞宵が気遣ってくれるが、大丈夫と首を横に振る。


「いえ、いいわ。この目で見て藤元孝平に審判を下してやろうじゃない」


これはまたとないチャンスよ。

実際に会っておけばいざってときに舞宵を説得しやすいだろうし。


「ほんと!?」

「ええ」

「やったー! ――って、審判? なんか藤元君を悪い人と決めつけてない? いきなり飛びかかったりしないよね?」

「いや、会って早々肉体言語ってどんな野蛮人よ……」


思わず口元を引きつらせる。

文明的で理知的な私がそんなことするわけないじゃない。


「え? でも咲希ちゃん色々聞きたいだろうし」


聞きたいことはまず体に聞くってこと?

だからなんでそんな物騒な発想に……いや、これなんか勘違いしてる気がする。


「もしかして食ってかかるって言いたかった?」

「あ、そうそう! ――ハッ、い、言い間違えただけだからね! でも、咲希ちゃんなら飛びかかることもありそう」

「えぇ……私のことなんだと思ってるのよ」


中学時代のことで私が武闘派だとでも思わせてしまったのかしら。

普通にそういうの自信が無いからやめてほしい。


「ハァ……まあいいわ。藤本孝平、覚悟しておく事ね」


藤本孝平と会うのはもっとあいつから話を聞いてからだと思ったんだけどね。

私との会話でボロボロになる無様な姿を舞宵に見せてあげるわ。



ふふふ、と心の中で藤本孝平への嘲笑を浮かべていた私だったが──







「あ、そうそう。体育祭には藤本君の親友さんも来るみたい」

「え゙っ」







──笑みを浮かべる余裕は舞宵のその言葉で吹っ飛んだ。



「さ、咲希ちゃん!? なんか聞いたことない音がしたけど?」

「いやー気のせいじゃない、かなー?」

「そ、そうかな……?」


お、落ち着くのよ私。


――あいつが来るですって?

藤本孝平に会わないといけないのに、更にあいつと舞宵たちの前で会わなきゃいけないの?

どんな顔して会えっていうのよ!


「へ、へぇ、親友さんね。前言ってたリレーに選ばれた人かしら?」

「あ、そうそう!」

「陸上部じゃないのにそれ並みに足が速いって言ってたわね」

「おおーよく覚えてるね」

「ん゙っ!」


だ、大丈夫。

舞宵はただ感心してくれてるだけ。


「ま、まあ私だし? なるほど、相手も親友と一緒に来るという事ね。いいわ、迎え撃ってやろうじゃない」

「戦おうとしないで!? 向こうも親友さんを紹介してくれるってことだから、全然友好的な話が出来るはずだから!」

「そ、そう。ならいいわ」


な、何がいいのかしら。

自分で何を言ってるのか分からなくなってる。


流石に舞宵が怪しんできてるから立て直さないと。




っていうか不味い、断るタイミングを逃した。

藤本孝平には会っておきたいとはいえ、あいつと同時は気まず過ぎるからちょっと考え直したかったのに。


「咲希ちゃんなんか調子変?」

「いや大丈夫よ。警戒対象が増えたことに少し動揺しただけ」

「警戒って……咲希ちゃんの事情に親友さんは関係ないんだから変なことしないでよ?」

「そ、そうよね、ははは……」


関係大アリなんだけどという思いは笑って飲み込むとする。


「気を付けるわ」

「うんうん」

「ち、ちなみに今からやっぱり会うのやめるとかは……」

「え?」

「いえ、何でもないデス」


うん、覚悟を決めよう……


「……? あ、できれば藤本君と最初から仲良くするつもりで話してほしいんだけど」

「それは藤本孝平次第ね」

「もー」


舞宵が頬を膨らませるが、生憎こちらから隙を見せるつもりはないわよ。

対応については直接見て藤本孝平の判断材料が増えたら考えてあげよう。



……それはいいとして、ほんとあいつのことどうしよう。

なんとかなる、かしら?




――――――――――――

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