第十一話『テストは倒せたがゾンビは倒せない』
孝平が佐倉さんと勉強した日から時が経ち、本日は中間試験最終日。
「んー終わったー!」
「ふぅ、これで肩の荷が下りたな」
今、最後のテストが終了した。
勉強の甲斐あってわからないと感じたところはあまりなかったように思える。
良い結果が期待できそうだ。
「良い点とれそうか?」
「わかんないけど、赤点は絶対に無いと思う!」
「半分は解けてるってことか、ナイス」
「努力が実を結んでよかったよー」
まあそこそこ勉強したんだし、それぐらいはとって欲しいって思いもあるが。
「これで明日土曜とかならよかったんだけどな」
「まだ三日あるのめんどいよねー。まあそのおかげでこの二日分に集中できたわけだけど」
「善し悪しだな」
それでもやはりテストが終わったのは大きい。
気持ちに余裕をもって日々を過ごせる。
しかも今日は午前中の二科目で終了。
おかげで昼前なのにもうフリーだ。
「オレはもう学校出るつもりだが、孝平はなんかあるのか? 部活があったり?」
「いや、ないよ。今日の飼育部の作業は先生が担当してくれるってさ。テスト後だからゆっくり休めって」
「おお、良い先生だ」
先生もテスト後だから色々やることあるだろうに。
「動物たちと触れ合うのもいいけど、流石に今日は何もしたくないよ……」
「……しかし、未だに飼育
どちらかといえば委員会の仕事に思える。
動物の世話を部員で持ち回ってやるっていう部活だからな。
「飼育してる動物は学校のじゃなくて先生の管理下にあるからね。学校が責任を持ってるわけじゃないから顧問として責任が持てる部活動にしたんだって、前も言ったじゃん」
「や、中学は学校管理だったからどうもな」
どこか呆れた様子の孝平に頭をかく。
要は先生の趣味を無理やり部活動に昇華させたってわけで。
孝平からでへんてこな活動をする部を生徒が立ち上げてわちゃわちゃする漫画があるってのは聞いたことあるが、先生側とはいえ似たようなことが現実で起こるとは。
変わった先生だこと。
「じゃあ帰るか」
「あ、どうせならゲーセン寄って帰ろうよ!」
「いいね、行くか」
「やったね! いっぱいぶっ放そう!」
そう言って銃を撃つ構えを見せる孝平。
よし、ゾンビをボコボコにしてストレス発散といこうか。
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ゲーセンに行く途中。
先日聞いたことを確認する。
「そういえば今週やるんだよな、慰労会というかお疲れさま会」
「うん、佐倉さんたちの学校はちょうど金曜日が最終日だからね。それでテスト乗り越えたご褒美として、佐倉さんが気になっている食べ物をランチで食べに行くんだ」
「ふんふん」
「で、その後はなんか買いたいものがあるらしくて。それに付き合うって感じかな」
今回の予定は佐倉さん提案で立ったもの。
向こうから誘ってくれるのであればもう秒読みと思えてしまうが、そうでもないらしい。
孝平曰く、異性間でも仲が良ければそれぐらいのことは普通にやるとのこと。
友達の中にも色んな深さがあるってことなんだな。
「佐倉さん、乗り越えられるかね」
「あはは……まあ昨日のテストは大丈夫だったらしいよ」
「……土曜日にやけくそになってないことを祈ってるよ」
赤点決定慰め会ってのも悪くないかもだが……流石に気まずい。
孝平はうまくいってそうだから余計に。
「きっと今も勉強してるんだろうし、テスト終わったとだけ伝えておこうかな」
「こっちは終わったってマウントとるなよ」
「ぷっ、真人相手ならそれやったんだけどなぁ。さすがに佐倉さんにはやめとくよ」
オレにはやるのかよと思いつつそんな孝平を想像してみる。
『テスト終わりました~まだ勉強なんてしてる人なんていないよねぇ?』
うんウッザ。
いくら孝平でもウザすぎてデコピン案件だわ。
「調子乗って変なやり取りしてなさそうで安心した」
「失礼な、メッセージ送るときも会う時も俺なりに考えて行動してるんだからな! 恥ずかしい姿は見せてないつもりだよ」
そう断言する孝平にジト目を向けそうになるのをなんとか抑える。
あんだけ挙動不審になっときながらよく言うぜ。
「そうかそうか、悪かったよ。その調子で頑張ってな」
ツッコむわけにもいかず、とりあえず表面上は謝っておく。
まあ佐倉さん自体は気づいてなさそうだから問題なしか。
別のヤツに隣でドン引きされるからもう少し分かりにくくして欲しいが。
「でも最近佐倉さんの様子が変わってきてる気がするんだよね」
「ほう」
「前の日曜日佐倉さんとテスト勉強しに行ったじゃん? そこで話してたら急に敬語外して話してきて、かと思ったらすぐ敬語に戻るみたいなことしててね」
「うん? よくわからんが、敬語が外れてきてるのは良いことじゃないか?」
素が出てきてるってことだろ?
仲が深まっている証拠だと思うが。
「そうなんだけど、内容が内容っていうか。例えば、この問題難しいんだよねって話をしたら、『えーそんな問題もわからないの~? ……あっごめんなさい私もわからないですほんとすみません』ってペコペコし始めるみたいな」
「お、おお?」
その態度の落差に思わず耳を疑う。
急にすっげぇ軽口叩くじゃん。
え、佐倉さんの素ってそんな感じなの?
「他にも、今までは隣に座った時とかも微妙な距離あったんだけど、勉強教えてる時とかすごい距離詰めてきて、それに気づいてめっちゃ離れるみたいなことしてたし」
そんなことあったのか、二人して気づかなかった。
ちょっと見たかったな。
「そんな感じで変化を感じたな。まあ疲れてぐったりする姿とか見せてくれたし、少しは気を許してくれてるってことだと思うんだけど」
「そうだとは思うが。なんか控えめそうな佐倉さんからは想像できないな」
「だよね。思わずグッときてしまったよ」
「孝平はなんでもいいんだな」
「う、うるさいよ!」
======
ゲーセンに到着し、早速ガンシューティングゲームに手をつける。
序盤は何とか進められていたが――
「真人! そっちいったよ!」
「やべ、数多すぎ……!」
「任せて!」
ゾンビの大軍に押し切られそうになったところを孝平がすべて打ち殺す。
相変わらず孝平すげー。
「ほんとゲームでは頼りになるよな」
「むっ、なんか言葉にトゲを感じるよ」
「いやそういうつもりではなかったんだが」
しばらくテスト勉強で情けない姿見てたからつい、な。
「真人大丈夫!?」
「ちょい無理無理無理! ……うわぁ、やられた。ここからはコンティニュー不可か」
くそぅ……今回もボコボコにされてしまった……
「よくも真人を! うぉぉお、唸れ俺のエイムぅぅぅ!」
「全然外さねぇ……腕をあげたな」
結果、孝平は最終ステージをほぼ一人で突破するのだった。
「いぇーい」
「どんだけやりこんでんだよ」
「まあちょくちょくね。じゃあ次は音ゲーやろうか!」
「お、ダンスするやつなら負けねぇぞ」
「うっ、ここぞとばかりに俺の苦手分野を出してこないでよ」
運動神経はオレの方がいいから動く系なら孝平に勝てる。
それ以外は全然だけど。
「ちょ、おい、これ反射神経だけじゃどうしようもないだろ!」
「ふふん、まだまだだね真人。音ゲーは譜面を覚えてから始まるんだよ」
「オレそんなガチ勢じゃないからな!?」
うわわわ、見てから反応できる量じゃない!
あ~
「うわぁ、スコアボロボロ……」
「よーしSランク! 音ゲーはカンニングだよカンニング!」
「テスト終了日に聞く言葉じゃねぇなそれ」
「次はこの曲で行こうかな」
「ちょっとは手加減してくれ……」
「ふっ、ほっ、ここっ!」
「わ、ちょ、その態勢、キツイ……!」
「おい孝平、動きが硬いぞ!」
「なんで、ハァ、真人ダンス、やってるわけ、でもないのに、ハァ、そんなに、キレがいい、の、さ!」
「へへへ。フィニッシュっと!」
「ハァ、ハァ……やっと終わった……」
孝平がぐったりとした様子でベンチに座り込む。
おいおい、たかが一曲踊っただけでそんなに息切れしてるのかよ。
「ほんと体力ないな」
「俺は真人みたいに走り込みとかしてないからね!」
「誘っても来ないじゃん。来てくれるのなら一緒に走るのに」
「いくら真人の誘いでもそれは嫌だよ……そもそも朝早すぎるし」
「ちぇ、まあ無理強いはしないけどさ」
一緒に走れたら楽しそうなんだけどな。
「というかこれもカンニング必須なのによくできるよね」
「いやしたじゃん、カンニングっての」
「二、三回見るだけで対応してるのは流石としか言えないよ……」
「動き込みなら覚えやすい」
さっきの曲のポーズをいくつかとってみせると孝平が拍手をしてくれる。
このゲームはポーズさえあっていればOKのシンプル仕様だからな。
身体で覚えればいいだけだ。
譜面だけとかシステムが複雑なゲームは無理。
「あー疲れた。一旦休憩!」
「ちょうどお昼の時間だな。飯食いに行くか? それとも帰るか?」
「うーん、帰って昼食食べてそこから家で一緒にゲームしてもいいんだけど、せっかくだし外で食べたいかなぁ」
「オレも孝平の家に行くのは決定事項なんだな」
「?」
そんな当たり前でしょって顔するなよ。
断る理由はないけどさ。
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ファミレスにて、注文した物に手をつけたところで思い出す。
「そういえばお疲れ様会では何か食いに行くって言ってたよな。何食うのか聞いてるのか?」
「それがね、なんかステーキ屋に行きたいんだって」
「ステーキ!?」
想像だにしない食べ物が出てきて思わず声が出てしまう。
周りの人がこっちを見てきたので頭を下げる。
え、昼から?
しかも女の子が?
「食べるのが好きってのは前聞いたけど、そんなにガッツリ行くのか?」
「いやまあステーキ屋だからってたくさん食べるとは限らないと思うけどね。勉強の時のお昼ごはんはオムライス食べてたけど、別に大盛りとかじゃなかったし」
「ああなるほど、おいしいステーキをちょっとだけって感じか」
「そうそう」
なんか通みたいな感じだ。
食べるのが好きってだけでなくちゃんとおいしい店を探すタイプなんだな。
「昼からステーキねぇ……そんなのやった事ないな」
「俺も昼はないかな。夜なら外で食べるけどね」
「ま、そうよな。しかし、そういうちょっとお高い食べ物に手を出すっての、なんか一歩大人になった気がする」
「確かに、中学の時じゃお小遣い少なくてそんなことしたくてもできないもんね」
いやまあオレはそうだが、孝平の場合食べたいって言えばお金出してもらえるだろうに。
裕福な暮らししてるのにその辺りの感覚がズレてないのは教育の賜物なのかね。
「いくらぐらいするんだろうな」
「まあランチだからちょっと高いぐらいだと思うよ」
へぇ、そうなのか。
ならオレでも問題なさそうだ。
そう考えたところでそもそもおかしいことに気づく。
……何故俺は行く前提で考えているのやら。
まだ全然回数重ねてないのに。
どこかの思考実験もびっくりの学習速度だわ。
まあどうせその内メッセージ飛んでくるんだろうけどさ。
「佐倉さん美味しそうに食べるって言ってたけどそれだけなのか? ここが美味しいみたいな食レポとかしないのかよ」
「うーん、ただ美味しいっていうだけかなぁ」
なんだ。
テーブルの向かいでそういうのしてきたらめっちゃ面白いのにな。
「そんなことされたら流石に笑っちゃいそう」
「とか言って、孝平はどうせ可愛く思うだけだろ」
「うっ……否定できない」
「ふーん、青春だねぇ」
「にやにやしないでよ! ほ、ほらご飯食べるのに集中しないと」
「ふっ、なんだそりゃ」
変な誤魔化し方。
************
昼飯後、ゲーセンに戻ってレースゲームをやることになったわけだが――
「ちょ、おい! オレを狙いすぎだろ!」
「気のせい気のせい。真人がたまたまそこにいるだけだよ。あ、またごめーん」
「コイツぜってぇわざとだ!」
さては孝平のヤツさっきからかったの根に持ってんな!
わざと後ろに順位つけてアイテムぶつけてきやがる。
「早く前行けよー」
「いやぁ、真人は速いなぁ。あ、ごめんなさーい」
「孝平テメー!」
「いぇーい一位だー!」
「クソがぁ……」
結局ひたすらボコボコにされて最後の最後に順位も抜かされた……
屈辱的すぎる。
「いやぁ気持ちいいなぁ。また音ゲーやろうかな」
「疲れたしオレはパスで。しばらくやってるの見てるわ」
「え、そう? なら何回かやろうっかなー」
ダンス踊ったら速攻でバテるくせに音ゲーとかガンシューティングとかは疲れ知らずで無限にやってるのほんと意味わかんねぇ。
何回かやっただけでオレはもう精神的疲労がすごいよ。
得意不得意でこうも体力の減りようが変わるんだな。
「うぉぉぉお!」
「うわぁ……」
動きが早すぎる。
もはや手元の動きに残像が見えるレベル。
何やってるのか全く分からん。
しばらく孝平の音ゲーをぼーっと眺めていると携帯が震えた。
『土曜日の朝にここに来なさい。店の予約は既にとっているわ』
『(集合場所のマップ)』
ほら案の定来たよ。
てか席予約済みか、気が利いてることで。
ハァ、今週も尾行か。
音ゲーに集中している孝平を視界にいれる。
……ま、孝平が佐倉さんと楽しんでる姿を見る理由付けになるからいっか。
結局その日はゲーセン後も孝平の家でゲームをやることになり、対戦ゲームでもひたすらボコされたのだった。
折角テストが終わったというのに、ゲーセンでも家でもボコボコにされるという中々に辛い一日。
最初はゾンビ相手にストレス発散するつもりだったのになぁ、ゲームって難しい。
――――――――――――
おまけ
孝平の家にて。
「いぇーい、また俺の勝ち―!」
「うぅ、つえぇ……」
マジで一回も勝てねぇ……
「ちょっと孝平! また真人くんを虐めてるの!?」
「か、母さん。いやこれは遊んでるだけであって」
「ごめんね~真人くん。ちょっと貸してもらってもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
「私が相手よ」
「望むところだー!」
数戦後
「ま、参りました……」
「ふん、他愛無い。そんなんで真人くんを虐めてるんじゃないわよ」
「す、すみません……」
「ありがとうね~真人くん。また孝平が虐めてきたらすぐ私に言ってね?」
「は、はい。ありがとうございます」
なんで孝平の家族はみんなゲームがうまいんだ……?
藤本家のゲーム上手さ序列
母親≧父親>>>孝平
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