第四話『交流は極めて順調』
孝平が佐倉さんにメッセージを送ってから3日が経過した。
「んで、その後どうなんだよ」
「なんとか会話は続いてるよ」
「流石」
量も大事かもしれんが、一番は定期的にやり取りすることだからな。
「というか佐倉さんめっちゃ既読早いんだよね。ほとんどすぐ見てくれてる」
「へぇ、マメなのかね」
「どうなんだろう。まあ返信内容は相変わらずだけどね」
そう言いながら苦笑いを浮かべる孝平。
少しだけ会話内容を見せてもらうと、その内容に思わず声を漏らしてしまった。
「ううむ……」
佐倉さんからは絵文字が大量に使われた長文で返ってきている。
初日と何も変わっていない。
ものすごく頑張って返信考えてくれているのは伝わってくるが、苦笑は避けられない内容である。
聞くに、唯一の友達かつ親友ともほとんど直接話すため、メッセージを使うことはないとのこと。
慣れてないのなら仕方がない……のか?
何にしても、あのキョドり様から察せられる通り、コミュニケーションの類は総じて苦手としているみたいだな。
「あんまりそういうところは突っついてあげるなよ?」
「わかってるよ。俺は話好きだし、向こうが慣れてないってなら話しまくるだけだから!」
そう言って力こぶを見せる孝平の表情は力強く、とても頼もしく見えそうだ。
もっともオレにそう映ることはない。
「とても第一声に悩んでた人の発言とは思えんな」
「うるさいよ真人。人生最大の緊張と言っても過言じゃないレベルだったんだから仕方ないでしょ」
「ふーん? まあいつもの孝平と違ってて逆に面白かったけどな」
孝平は本来初対面の人相手にも平気で話しかけられるヤツだからな。
オレと孝平が仲良くなるきっかけも孝平からだし。
だからまさか惚れた相手だと急にコミュニケーションに難が生じるとは思わんかったぜ。
「メッセージだと余計に考えちゃうから送れなかった、ねぇ」
「そうそう。履歴に残っちゃうから会話以上に気を遣わないとだしね」
確かにいつでも見返せるとなると失言も残ってしまうのか。
「ちゃんと考えてるんだな」
「意外そうな顔しないでよ、失礼な!」
孝平が不満げに腕を前に組む。
やべっ、顔に出てたか。
「すまんすまん」
「もうちょっと申し訳なさそうな顔してほしいんだけど。髪で隠れてても俺にはわかるんだからな! そういう時は顔に出していいんだよ?」
さぁ、と詰め寄ってくる孝平から視線を外す。
「いやぁ順調そうで何より」
「スルーしないで!?」
「いつ予定が立つか楽しみだ」
「いい風にまとめても誤魔化せないからな!」
その後はぎゃーぎゃー言う孝平をいなし続けた。
〇▲□★
二人のやりとりが始まって2週間程経ったある日の夜、孝平から吉報のメッセージが届いた。
『やったよ真人! 佐倉さんと会うことになった!』
『おーよかったな。ついにデートだ!』
『デートじゃない! やめてよ!』
『(棒人間が怒っているスタンプ)』
『え、何そのスタンプ』
めっちゃいいじゃん。
そのままスタンプのことを聞いたら怒られたので話を戻す。
『いい感じに仲良くなれてるんだな』
『うん、好きとか抜きにしてもなんか話しやすくてさ』
仲が深まった証拠に、最近は佐倉さんから話を振ってくることも出てきているらしい。
その流れで今回の予定を取り付けることができたとか。
孝平は聞き上手でもあるからな、きっかけ作りはそこまで難しくなかっただろう。
ちなみに最初は長文メッセージが当たり前の佐倉さんだったが、最近は短く連続で返す手法を身につけたようで。
長文返信がなくなって見やすくなったと思った反面、あれはあれで面白かったからちょっと残念だった。
『いつだ?』
『GWの日曜日!』
うわ、なんだかんだGWに間に合わせてやがる。
流石やるときはやるヤツだ。
『(拍手のスタンプ)』
『ありがとう。今回は前行ったところの映画館で映画見ることになったよ』
『へぇ映画。二人で?』
『うん。気になってる映画あるって話になって、流れで誘ったらOKしてくれたんだ』
書いてあるメッセージを理解したところで小首をかしげる。
……よく佐倉さんOKしたなそれ。
いくら仲良くなったとはいえ、付き合ってもない男女が休日に二人っきりで映画見に行くもんなのか?
個人的にはやってることが恋人と大差ない気がするんだが……
これもう完全にデートだろ。
『ちょっと恐ろしくなってくるな』
『何が?』
『いろいろ順調すぎて怖いって話』
『あー』
直接会うのはこれで三回目というのにこの距離の近さ。
孝平の手腕が優れているのは当然として、佐倉さん側の何かも手伝ってそうだ。
順調なのは大歓迎だが、近すぎて遠くなるなんて変な事態には陥らないでほしいぜ。
『改めて、距離感間違えんなよ』
『そうだね、ちょっと浮かれてたかもだから気を引き締めるよ』
『流石孝平だ。まあ向こうから来る分にはいいんだけど』
『来てくれるかなぁ』
『その結果何が出てくるかはわからんが』
あのキョドり様を見てると佐倉さんが何してくるか正直予想がつかないというか。
突拍子のない行動をとってきてもどこか納得できそうになってしまう。
『「仲良しの証です!」って抱きついて来たらどうする?』
少し時間を空けて返信が来た。
『もちろん紳士的に抱き返しますとも』
『全く信用できんなぁオイ』
本気でそう思ってるならノータイムで返してほしいもんだ。
『失礼な、好きな人とのそれなんて聞いたら誰だって妄想するでしょ! むしろ話振った真人が悪いまであるよ!』
『そ、そうか……すまん』
『ちなみに身長差でいい感じだった』
『キッモ、オレの謝罪を返せ』
メッセージを見る目が冷ややかになったことが自分でもわかる。
発言が男子高校生すぎるだろ。
『冗談は置いといて、どんなことでも佐倉さんからやってくれたら俺は嬉しいよ』
『……まあ孝平なら好きな人が何やろうがオールオッケーで受け入れてしまいそうだな』
『そ、そうかなぁ』
『(照れている棒人間のスタンプ)』
『や、全然褒めてないからな?』
やっぱ孝平は孝平でなんかズレてるなぁ。
佐倉さんもズレてるような気がするし、二人揃ってお似合いだことで。
それにしても、本当にセンスのあるスタンプだな。
どうやったらそれ使えんの?
〇▲□★
そんなこんなで日曜日当日、オレは孝平たちが合流する場所に来ていた。
や、別に今回は見守ってほしいとか頼まれてないけどさ。
ほら、やっぱ気になるじゃん?
前回と違って一日デートなんだから二人が会って気まずそうにしてないかとか変な行動とらないかとか。
いや、マジでつける気はないから。最初の反応見たら退散するから!
……オレ、誰に言い訳をしているんだ?
自分でも理解できない脳内思考に困惑していると、その間に孝平と佐倉さんが合流する。
声は聞こえないが、孝平の所作と顔を縦横にぶるぶる振っている佐倉さんを見るに――
『ごめん、早く来たつもりだったんだけど待たせちゃった?』
『いえ全然全然! 私もここに来たばかりでした!』
『ならよかった、今日の映画楽しみだね』
『は、はい』
『映画までまだ時間あるし、お昼ご飯食べに行こうか』
『い、行きましょう!』
――みたいな感じかな?
相変わらず若干キョドってる佐倉さんだが、前に比べればまだ余裕があるように見える。
表情が強張っている感じもないしな。
孝平は……なんかすごいテンション高めだな、表情が爆発してる。
ある意味余裕はなさそうだ。
そんな感想を抱いていると、佐倉さんが恥ずかしそうに身を捩り始めた。
あれは……照れている?
さては孝平のヤツ、その服似合ってるね、みたいなこと言ったのか。
やるじゃん。
場合によっては嫌そうにされてもおかしくはないが、佐倉さんは照れるだけでそんな様子はない。
服褒め作戦大成功だな、別にそんな作戦立ててないけど。
孝平に倣って佐倉さんの格好に目を向ける。
膝上ほどの細めのスカートに対し上は全体的にダボっとした服となっており、そのメリハリのあるシルエットによって彼女の可愛らしさが引き立てられている。
小柄な容姿も手伝ってああいったゆるめのコーデはピッタリな印象を受けるな。
まあ可愛いという方向性だと幼さも同時に感じてしまうが……まあ孝平と並んでも浮いているとは思わないから問題ないだろう。
よし、この調子なら今回も心配なさそうだな。
二人の様子を確認できればこれ以上ここにいる意味はない。
さて、余計なことにならないうちに別のところに行くか……ん?
目的を達したためその場を離れようと二人から視線を外したところ、何やらコソコソとしている女性が視界に入った。
身を低くして隠れながら孝平達をじっと見つめている……?
前にも似たようなシーンに遭遇した気がする。
――そうだ、ハンカチの日だ。
「あれ、しかも同じ人じゃね?」
一目でわかるほどの美人だったため記憶に焼きついていた。
美人は記憶に残るもんだな。
しかし、前回も今回も二人を見ているのはおかしい。
不審人物の可能性も視野に入れつつ女性のもとに近寄る。
その女性は近づくオレに気づくことなく、孝平達を見ながら割と大きな声で呟いた。
「ちょ、ちょっと。そんなに近づいていいと思ってんのあの男」
近い……?
その言葉に疑問符を浮かべつつ二人の方に視線を向ける。
二人は合流した立ち位置から動かないまま今も会話を弾ませている。
人にはパーソナルスペースと呼ばれる、その人を不快に感じないでいられる物理的な距離が存在するが、二人の間には少なくとも人一人分はスペースが空いており、友達関係として逸脱はしていない。
恋人とかじゃなければ大体あんなもんだと思うが……
女性の価値観を理解できないでいると、区切りがついたのか孝平達が移動し始める。
「ま、まさかそのまま行く気!? あの距離感普通じゃないわよ!?」
え、いや、普通じゃん、普通に歩いているだけじゃん。
別に肩を寄せ合っているわけでもない。
なんだこの人。
「やっぱり直に話して説得しないと……」
やば、立ち上がった。
マジで行く気かこの人。
そんな余計な真似を許すわけがない。
「あの、ちょっといいで――」
「ひぇあ!? ……な、なによ、今忙しいのよ!」
……いきなり声をかけたとはいえ、そんなにびっくりするもんか?
――怪しいな。
「明らかに不審な行動をしてますが、何してるんですか?」
「え、不審?」
疑いの言葉をかけると女性はその勢いを失い、両手をあちらこちらに動かしつつしどろもどろに言葉を並べ始める。
「あっ、いやその……別に私は怪しい者じゃ……ちょ、ちょっと事情というか用があると言うか……」
そんな様にさっきまで怪しんでたのになにやらほっこりとしてしまうオレ。
これだから美人ってのはズルい。
とりあえず落ち着くまで眺めておこう。
――――――――――――
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