第三話『似た者同士』

孝平が佐倉さんとハンカチを買いに行ったその日の夜、孝平から電話がかかってきた。

今日見守ってどう感じたかの確認の電話だったが、正直オレから伝えないといけないことはない。


最初こそ心配していたが、その後はずっと安心してみることができたと伝えると孝平は安堵の声を漏らす。


マジで後から注意しとかないとってなるようなことなかったからな。

佐倉さんの反応にも怪しい部分はなく、ずっと楽しんでる感じだった。

今後も今日みたいな感じでやってれば仲良くなっていけると思う。


確認が終わるとそのまま今日の話へと移り、どのような話をしたか、佐倉さんが可愛かったなどの話を聞くこととなる。


ここまではよかった。

館内に入ってからは二人の会話は聞こえていなかったため詳細は気になってたし、孝平が手ごたえを感じていたことも知ることができた。

問題はカフェの話になってから。


つい正直に話したのが悪かった。



「――へぇ、そんなことしてたんだな。その前に帰ったから見てないけど」

『え!?』



そこからは孝平から恨み文句を言われることとなった。


『ほんと酷いよ! 途中で帰っちゃうなんてさ! 見ててねってお願いしたのに!』

「いや、まあそれは悪かったけど……でも明らかにオレいらなかっただろ。めちゃくちゃ仲良くなってたじゃんか」

『ま、まあ確かに? なんかすごい気が合った感じあったけど』

「だろ?」


別にオレハンカチ買った後のこととか何も言ってないしな。

孝平が自分で行けるって判断した結果があれならマジでオレが何かする必要もないだろう。

今後も孝平らしく佐倉さんと接すればいい。


『意味ないのにそこにいないといけないオレの気持ちにもなってくれよな」

『ご、ごめん……』



なぜか孝平が謝る流れとなってしまったが、話を戻そう。


「聞いてた感じ、佐倉さんには彼氏とかいなさそうに思ったんだが」


男と二人っきりにならないとか言ってたし、あんなに人付き合いにて特徴を発揮する人に彼氏がいるようには見えなかった。

なんなら友達すらいるのか怪しいレベルだったが……今日を終えても孝平の熱が冷めてない辺り、佐倉さんがいい人なことには変わりないんだろう。


『まあはっきり聞いたわけではないけど……多分そうだと思う』

「おお、なら押してそのポジションを獲得しないとな」

『う、うん……』

「多分佐倉さんの場合は友達になれるだけで結構大きいと思うぞ。まずはそこ目標だな」

『そうだね!』

「んで、次の予定は取り付けたのか?」

『えっと……』

「流石にそれはきつかったか」


まあいくら気が合ったといっても、その日初めて会った人かつ好きになった人相手にそこまで積極的に行けないわな。

あんまり積極的すぎても佐倉さんが引くだけかもだし、その辺りは追々だな。


『で、でも連絡先は交換したよ!』

「ナイスだ。今日の最低限のノルマは達成だな。じゃあ早速連絡してもっと仲良くなっていこうぜ」

『え、あ、い、いやぁ……いきなり話と言われても、ねぇ?』

「あー? なんでもいいだろ。今日楽しかったとか今日の話題に出たことについてとか。その辺りは孝平の得意分野だろ?」

『そ、そうだけど……すごい緊張するというか……』


電話越しでも孝平がモジモジしているのが伝わってくる。


「緊張? 今日あんだけ直接話したじゃん。今更な気がするが」

『メッセージはメッセージでまた感覚違うの!』

「な、なるほど」


そんなもんかぁ。

孝平はそういうの気にしないタイプだと思ってたんだが、意外だ。


「ま、最初だけだろそういう緊張は。一度送ってしまえばあとはどんどん話しかけられるさ」

『が、頑張ってみる』

「その意気だ。じゃ、そろそろ切るぞ」

『うん、今日は色々ありがとうね。また明日』

「また明日」


まああれだけ楽しそうにしてたんだし、人慣れしてなさそうな佐倉さんが連絡先渡したってことは少なくとも孝平のことを悪くは思ってないということだろう。

出だしは好調ってことでいいんじゃないかな。





〇▲□★





次の日の昼休み、弁当を食べるオレの前で孝平は頭を抱えていた。


「どう会話していいかわかんないよ……」


佐倉さんとのメッセージルームには最初の挨拶スタンプ以降何も書かれていない。


「まだ言ってんのかよ。いい人な感じだし、気が合ったんだからただの世間話で十分だって」

「うー難しい」


おいおい……助けてもらってからすぐに会う約束して、その日のうちに連絡先までゲットした積極性はどこ行ったんだよ。

それができてメッセージでヘタレるのはよくわからんぜ。

いつもなら自分から話しかけに行ってるだろうに。


「わからんでもないが、メッセージ送りあって仲良くならないと次に繋がらんだろ。もう少しでGWなんだし、それまでに仲良くなってあわよくば遊びの予定取り付けるところまで発展させようぜ」

「うっ……」


オレとしては「そうだね」とすぐに行動に起こして欲しいんだが、孝平は視線を泳がせながら呻くだけ。


「き、厳しい、んですけど」

「ハァ……」


その初々しさは見てる身からすれば面白いが、それで関係が疎遠になったらおしまいなんだが。

全く、仕方ねぇなぁ。


「あ、ちょ」


孝平の携帯を取り、慌てる孝平を無視してタプタプと入力する。


「ほら、つべこべ言ってないでとりあえずなんか送れって。例えばだなぁ――」



『せっかく連絡先交換したのに昨日はメッセージ送れなくてごめん。メッセージ送るのって勇気がいるよね。ようやく送ることができたよ』

『俺の学校には学食があるんだけど、結構おいしいんだよね。今日は肉みそ炒め定食を食べたよ。佐倉さんはお昼ご飯はどうしてる?』



「――いつも孝平はこんな感じに話してるだろ? こっから適当に話し続ければいいんだよ」


孝平にとっては会話を広げることなんて朝飯前なはずだ。

今は昼飯中だけど。


「え゙、まさか送った?」

「おう、送ったぞ」

「うそでしょ!?」

「うそだ」

「うそかい!」


ガックリと机に頭を打ちつける孝平。

激しいな……


いくら親友相手でも流石に勝手にメッセージは送らんぞ?

メッセージじゃなくてメモにそう書いただけだ。


「で、送らないのか? ほんとそんな感じでいいと思うぞ」

「う……じゃあ、使わせていただきます」

「うむ」


観念した孝平はオレの文言そのままでメッセージを送った。


ここから交流が始まればいいが「き、既読ついた!」――はやっ。

女子はやっぱそういうのよく見てるもんなのか?


「あ、あれ。既読はついたけど何も返ってこないや」

「いや今見たばかりだろ。少しは待てよな」

「やっぱ待ち遠しいじゃん?」

こらえ性がないな……それとも孝平の業界では一瞬で返ってくるもんなのか?」

「いやぁ流石に。速い人は速いけどみんながそうってわけではないよ。真人とか中々返ってこないし」

「悪かったな……」


携帯見る癖とかついてないし、仮に見ててもそんなパパパって入力できねぇよ。

むしろ孝平のアレは何なんだ、両の親指でババババって入力するヤツ。

あの速さで誤字が多いとかでもないからすごいよなぁ……


「うーん、返ってこないなぁ。不安になってきた」

「これはオレの勝手な想像なんだが、佐倉さんって割と返信に時間をかけそうじゃないか?」

「ぷっ、そうかも。俺も佐倉さんから返信きたとして、それに返すの時間かかりそうだし」

「似た者同士だな」


行動が似通ってるのならなおさら気負いすることもない。

気楽に交流が進められそうだ。


その後、「返信が来た! ど、どう返そう」と慌てる孝平を微笑ましく思いながら弁当を食べ進めるオレだった。




ちなみに佐倉さんからの返信はめちゃくちゃ長文だった。




――――――――――――

おまけ


孝平のメッセージに対する返信


『メッセージ嬉しいです(にっこりマーク)(赤文字ビックリマーク)私もメッセージ送れなくてすみません。私も勇気が出ず(泣マーク)今後ともよろしくお願いいたします(笑顔マーク)さて、本日はお日柄も良く何をするにも気分が良くなる天気ですね(太陽マーク)こんな日に外でご飯を食べられたらとても気持ち良いのでしょうが、あいにく室内で食べています(不満げな顔マーク)藤本さんはお昼は学食なんですね(驚きマーク)肉みそ炒め定食美味しそうです(グッドマーク)私はお母さんが作ってくれた弁当を食べています。お母さんの弁当はおいしいですが、私もいつかは学食に挑戦してみたいです(気合顔マーク)(力こぶマーク)』


「……」

「……」

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