第二十三話『どうやら体育祭の季節のようで』
誰かさんは色んな意味で充実していた数日だったんだろうが、オレとしては特に何もなく普通の学校生活を過ごしている。
「今日から体育の授業が体育祭の練習になるね」
「中間テスト終わってそんなに経ってないのにもう次の行事か、慌ただしいな」
中学生の時はもっとスカスカだった気がする。
まあその分部活が忙しかったが。
「体育祭力入れているって聞いたし楽しみだなー。今年は何するんだろ」
「今日の一、二時間目は全校で集まって説明とかをするって言ってたな」
「いやー授業が少なくなっていいねぇ」
「それには同意する」
流石に勉強と体動かすのどっちが好きかと言われたら体動かす方だしな。
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説明は体育館で行うということで全校生徒が体育館に集まっていた。
うーむ、全校集会の時も思うがやっぱりこんだけ人が集まると人酔いしそうだよな。
まあこの場に千人以上いるんだもんだもんな、そりゃあ多いわ。
中学の時も集まった時に貧血とかで体調悪くする人いたが、やっぱ人混みが関係してたのかね。
あれで無理ならこの場はもっと無理だろうな。
並んでる間にプリントが回ってくる。
これは体育祭のタイムスケジュールか。
玉入れ、ムカデ競争……なんだこれ?
名前だけじゃわからん競技もあるな。
へぇ、教職員競技とか保護者競技とかある。
何やるんだろ。まあでも大人も競技参加した方が面白いよな。
「はい、今から体育祭の説明を行います」
壇上に三年生が上がり、説明が始まった。
「手元の紙にはスケジュールと各学年が行う競技が書かれています。しばらくの間体育の授業は各学年の種目や集団行動の練習となります」
種目の詳細はまた別で説明されるとのこと。
「体育祭は例年通り赤、青、黄、緑の四つの組に分かれて点数を競います。この後に各クラスをそれぞれの組に案内しますので」
配色は去年のと同じもの。
この学校は三十人の十二クラスだから分けやすい四組になってるのだろう。
三でもいいんだろうが、奇数よりも偶数の方が色々やりやすそうだ。
「雨天時は次の週に予備日を設けていますが、ここ数年体育祭に雨が重なったことはありません。今年も快晴を迎えられるといいですね」
一年生の列からおおーという声があがる。
どうやらこの高校には相当な晴れ人がいるらしい。
熱中症や怪我のリスクを減らすために夏じゃなくて今ぐらいに体育祭やってるって先生言ってたっけ。
雨が降らないんなら六月でも問題ないよな。
それからしばらく体育祭の注意事項が続いた。
恰好がどうとか持ち込むものがどうとかといった、よくある話だ。
「――これで説明は終わりですが、組に分かれる前に校長先生からお話があります。校長先生、よろしくお願いいたします」
「はい、みなさんおはようございます。今年も体育祭の時期が――」
時間にして約三分ほど、校長先生の話は行われた。
「――みなさん、最優先は怪我をせずに楽しむことですので。勝ち負けは二の次で存分に体育祭を楽しんでくださいね」
なんか途中アツく語ってたな。
校長先生こういう催し物好きなんだろうか。
「校長先生、ありがとうございます。では、各組の組長がクラスを呼びますので、呼ばれたクラスはグラウンドに立てられているそれぞれの色の旗に移動してください」
その言葉を受け、ステージ前に異なる色のハチマキを身につけた上級生が並ぶ。
おそらくあれが組長達だろう。
自分の組を知るべく各組長の話に耳を傾ける。
「まずは赤組からだ! 俺が赤組組長だ、みんなよろしくな! 同士となるクラスは――――だ! 熱血パワーで目指せ優勝だ!」
「次は青組だ。皆よろしく。青組のプレイヤーとなるクラスは――――だ。場を見極めてしっかり点を取っていこう」
「次は黄組だね! みんなよろしくね! 一緒の仲間になるクラスは――――だよ! みんな頑張って盛り上がっていこう!」
「最後は緑組ですね~。私が組長です、よろしくお願いします~。お友達となるクラスは――――ですよ~。仲良くしていきましょうね~」
組長達の読み上げが終わり、移動も合わせて体育館がザワザワし始める。
ものすごく特徴的な人たちだったな……
インパクト強すぎて自分の組がどこだったか忘れそうになるレベル。
あれが組長を任されるにふさわしい人材ってことなのか、長とは大変だな……
「では一年生から自分の組の場所に移動してください」
えっと、確かウチは黄組だった……よな?
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グラウンドの黄組エリアに移動する。
「組長さん達、なんかすごかったね。やっぱ組長さんがあんな感じだと組自体の雰囲気もそれに寄っていくのかな? それなら俺は緑組の方が合いそうだ。やっぱみんなと仲良くしたいし」
「孝平はきびきび動くタイプでもないしな」
「そうそう。あののほほんとした雰囲気すごい落ち着きそう。でも真人は黄組でよかったんじゃない?」
「お、当たり」
赤ほど何事も全力でっていうほど気力にあふれているわけでもないし、青みたいにガチで勝ちに行きたいというわけでもないしな。
適度にハツラツとしていて楽しめそうな黄色が一番合ってそうだ。
「そうなると赤が合うヤツって誰なんだろうな」
「確かにあの組長を見ちゃうとねー。ザ・体育会系の人なんだろうけど」
「体育会系はうちのクラスにもいるんだろうが、あそこまで行くレベルのヤツいるんだろうか」
「うーん、どうかなぁ。あ、佐倉さんは絶対に緑だろうね」
「あーまあそうだろうよ」
全く持って同感だ。
孝平と似た者同士だし、本人も友達に飢えている感じだし。
佐倉さんの名が出たことでその親友の姿も浮かぶ。
うーん……いや、アイツも赤ではないだろうなぁ。
感情豊かではあるが熱血って感じではないし。
なんとなく勝ちにこだわりそうなイメージあるから青組かね。
周りを見ると黄組となったクラスが集まりつつあった。
「流石に知らん人ばかりだ。先輩と関わることないしな」
「真人の場合先輩だけじゃなくて同級生すら怪しいでしょ」
「まぁそうだが」
いや、普通クラスメイト以外と交流しないじゃん。
同じ中学出身は何人かいるんだろうが、孝平以外で話せるヤツもいないしな。
「孝平はわかる人いるのか?」
「結構いるよ。あそこの人とか、あっちにいる人とか。大体クラスメイト繋がりでね」
「ふーん」
流石孝平。
オレの普通は通用しないようだ。
そもそもオレ仲が良いって言える人ってどんぐらいいるんだろ。
「イーチ、……うーん」
「何唸ってるのさ」
「……いや、なんでも」
仲が良いと言えるラインがわからん。
まあ孝平いるんだから十分だろ。
「やっぱ先輩たちは髪形も髪色も結構自由だよねー」
「先生の許可さえあれば好きにしていいって校則だもんな」
「先輩達を見るにそこそこ許してくれそうだよね。金髪とかはいないけど」
「それは流石にガラが悪すぎる」
チャレンジぐらいはした人いそうだけど。
「なんだ、孝平ああいうの憧れてるのか?」
「うーん、いつかはやってみたいけど今はまだ勇気出ないなぁ。他の一年生もまだそういうの手を出してないし」
「ふむ」
髪を染めた孝平の姿を想像する。
金髪みたいなオラオラ系は流石に似合わないと思うが、赤系とかは意外と悪くない気もする。
見た目だけだとちと没個性なところがあるから、そういうところで個性を出すのはありだろう。
まあ今の見た目で人気者な辺り、人は見た目ではないってことなんだろうが。
「まあ別に染めなくてもセットすれば印象変わるんじゃないか?」
「んーワックスとかつけるってことよね? ありだとは思うけど、ちょっとめんどい気持ちが勝つかなぁ」
「でもそういう変化があったほうが人の心を掴めたりするんじゃないか?」
「むっ……セットぐらいは考えてみてもいいのかも。染めるのはちょっとアレだしね」
「ま、急に髪染めたら佐倉さんに引かれそうだしな」
それに下手に髪染めたりして誰かさんに突っつかれても面倒だし。
「そう……ってなんで考えてることばれてるのさ!」
「孝平がわかりやすいだけだ」
「はーいみなさんちゅーもーく!!!」
響き渡った声の方に視線が向く。
そこには黄組組長が立っており、その後ろに数人三年生が並んでいた。
姿勢を正す。
さっきまで流れていた緩まった空気が一気に真面目なものになる。
「あ、堅くならなくていいよー。そんなんじゃ心から楽しめないからね! 校長先生も言ってたように体育祭の一番の目的は楽しむことだから。はーいみんな深呼吸してーリラックスー」
組長に倣って何人かが深呼吸をし始める。
「いいねーほら、もっともっと吸ってー」
「吸ってばかりじゃなくて吐かせてください」
そのやりとりに周辺から笑い声が漏れ、緊張感が漂っていた雰囲気が弛緩した。
「親しみやすそうな先輩だね」
「だな」
如何にも快活って感じの人だ。
顔も整っているし男ウケがよさそうな先輩という印象。
「今回みんなにお願いしたいことが二点あるの」
組長が右手の人差し指を立てる。
「まず一点目は応援合戦のこと。やる種目に関してはまた今度にするとして、応援合戦は動きを覚えてもらわないといけないし、全体で合わせないといけないから多めに合同の体育の時間で練習することになるよ。みんなの動きが揃えば揃うほど一体感が出て楽しくなると思うから、頑張って覚えてね!」
組長が話している間に配られていた紙が手元にまわってくる。
「おおーなんかすごい感じ」
「フレーフレーってやるだけじゃないんだな。なんかダンスっぽいのもやるのか」
中学ではこういうのテンプレートが決まっていたしな。
とりあえず声出しとけばいい感じだったけど、流石は高校。
中学よりも自由で遊び心があふれてる。
「紙は行き届いたかな? 今日の後半に早速練習することになるから目を通しておいてね! その時はまず私達がお手本を見せるから、それを見てなんとなく理解してね」
そして組長は右手をそのままに左手の人差し指も立てる。
「で、二点目なんだけど」
「組長、それでは11です」
「え、細かーい。私はいつもこう数えてるでしょ」
「いえ、初めて見ます」
他の三年生も見たことないと首を振っている。
「むーノリが悪いなぁ。おかげで私嘘つきだよ、全く!」
その漫才みたいなやり取りでまた周囲から笑い声が漏れる。
「おっほん! で、二点目はリレーについてだよ。今年のリレーは学年対抗って形になっていて、一学年から七人代表を出して、その学年の中で競い合うことになるんだよ。それぞれの組には各学年から三クラスずつ割り振られているから、その中から七人を決めて、他の九クラスと勝負することになるね!」
つまり一年生もリレーをやるということらしい。
三年生が走るのを見るだけかと思っていたが、各学年の活躍が見れるってことになるな。
「いいかな? それで、この場でできればその七人を決めてほしいいんだよ。もちろん決められなくてもいいんだけど、リレーはバドン渡すところで連携が必要になってくるから、早いうちに決めておいた方がいいと思うんだよね。2週間ってあっという間だし」
まあ毎日練習できるわけじゃないだろうしな。
その組み合わせが集まらないと意味ないんだし。
「よし、話は以上かな! 大丈夫だよね? ね?」
不安そうな顔で周りに確認を取る組長。
近くの三年生が大丈夫という反応を見せたことで笑顔に戻った。
「よしOK! じゃあ早速今から各学年でリレーの代表選手誰にするか話し合ってね! 時間になったらまた声かけるから、一旦かいさーん!」
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