第三十七話『友達の友達=気まずい』
午前の種目が終了し昼休みとなる。
ついにこの瞬間が来てしまったな。
校舎の入口で合流する約束になっているとのこと。
「なんかワクワクするね。普段とは違う学校にいるって」
「結構建物とか敷地とか違うもんな。歩き回るだけでそれなりに楽しそう」
とはいえ校舎の中は立ち入り禁止だろうからそんなことはできないけどな。
できるとしたら文化祭の時ぐらいか?
まあ見る機会は無いだろう。
合流場所に向かいつつ孝平に佐倉さんを探してもらう。
佐倉さん視点ではオレは初対面だからな。
オレが知ってるそぶりを見せて怪しく思われるのは避けないと。
さて、校舎の入口ってことで来たわけだが、この辺りで本当にあってんのか?
「あっ」
場所を疑っていると孝平が声をあげる。
孝平の視線の先を見ると、笑顔で手をブンブン振っている佐倉さんが目に入った。
「こっちこっち~」
「佐倉さーん」
その横で微妙そうな顔をしているヤツもいる。
とりあえずあまり見ないようにして孝平に任せよう。
「いつまでやってる」
「うっ」
孝平と佐倉さんがずっと手を振りあってるので脇をつっつく。
「あ、ごめんごめん」
「ったく、頼むぞ?」
「わかってるよ」
というわけで、初の対面だ。
あんまりそんな気はしないがな。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いや、大丈夫だよ。場所間違ってなくてよかった」
「よかったよかった。……で、そ、そちらの人が?」
「うん、隣にいるのが前から話に出してた俺の親友だよ。ほら」
声がかかったので前に出る。
「はいよ。ソチラが聞いてた佐倉さんかな。オレは橘真人、よろしく」
「よよよ、よろしくおねがいしまっす! わ、私はしゃくらまよいですので、あの、その……!」
わー相変わらずだなー。
「舞宵、落ち着いて、深呼吸よ」
「ふぅーーーすぅーーー」
「はははっ」
挙動不審な佐倉さんを見て孝平が笑いの声をあげる。
最初は孝平に対してもこんな感じだったもんな、なんだか懐かしいわ。
「そ、その、ごめんなさい……」
「大丈夫、孝平からそういう感じってのは聞いてたから。佐倉舞宵さん、よろしくね」
「は、はい!」
未だに落ち着いているようには全く見えないが、この言葉をかわせれば十分だ。
そのまま後ろに戻り、改めて二人を見てふと気づく。
こうしてこの二人を隣り合わせで見ると、佐倉さんの目がすごいまんまるとしていることがわかるな。
隣の女も目は大きいが、目の形なのか黒目の関係なのか佐倉さんの方が大きく見える。
これも幼い印象を助長させてるんだろう。
目が大きいこと自体はものすごく歓迎されることのはずなんだが、噛み合いってのは難しいもんだな。
「で、お隣さんが佐倉さんの――」
そこで孝平の言葉が止まった。
その口の形のまま、佐倉さんの横の方を向いて目を見開いている。
さては今初めてアイツの顔を認識したな……
やっぱりかと内心で溜息を吐く。
「あ、うん! ほら、咲希ちゃん」
「はいはい……白石咲希よ」
そう短く告げた。
孝平は未だ硬直している。
少し強めに肘をあてる。
「うぐっ――ハッ! ご、ごめん、白石さんね。よろしくね」
「ふん……」
孝平の様子に呆れるように視線をずらし、コチラを向く。
「よろしく」
「……よろしく」
誰が見てもわかる、気まずい空気。
佐倉さんはそんなやり取りに苦笑いを浮かべていた。
いいから早く進めようぜ。
「孝平」
「あ、こ、これからどうする予定?」
「え、えっと。昼休みだからご飯一緒に食べようって思ってるんだけど」
「そっか! 食べよう食べよう! どこで食べるの?」
「え! ど、どこだろう……?」
場所考えてなかったなこれ。
「ハァ……あっちが空いてそうだったわよ」
「ほんと!? じゃあそっち行こう! 咲希ちゃん案内して!」
「はいはい」
二人が歩き始める。
その後ろを追いつつ、二人に聞こえない声量で話しかけた。
「孝平、あの親友とやらに見惚れてたろ」
「うっ……ハイ」
「言わんこっちゃないだったな」
結果はアイツのガワの勝ち。
大番狂わせもない、つまらない展開だ。
「真人はそういうのなかったの!? ものすごく綺麗な人だったよ?」
「うるさいぞ孝平。まあ確かに綺麗だとは思うが、あんな反応するほどではなかったな」
「マジか……うぅ、やってしまった……」
落ち込んでいる孝平から目をそらす。
すまん孝平。
オレの場合は初対面が特殊な状況だったから見惚れるもなにもなかったんだ。
最初のオレとしての印象は完全なる不審者。
それ以降要所要所で綺麗だなと思うことはあるものの、さっきの孝平みたいにピュアな心で受け取れなくなっちまった。
なんとなくそれを残念と思いつつ、空いていた場所とやらに移動する間孝平を慰めるのだった。
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二人についていくと、人が少ないスペースにたどり着いた。
「この辺なら空いてるわね」
「そうだね。でも地べたか……」
道中で多くの人がブルーシートを敷いてご飯を食べていた。
オレとしても地べたにそのまま弁当を広げるのは勘弁してほしいところ。
――しかし今回は問題ない。
孝平が背負っていたリュックサックを下ろす。
「持ってきてるから大丈夫!」
そう言ってブルーシートを取り出し、地面に広げた。
「わぁ、ありがとう! 全然考えてなかったよ」
「いえいえ、役に立ってよかった」
ブルーシートを持っていくことは事前に決めていた。
持ってくるのは当然孝平だ。気の利く男をアピールできるからな。
オレが持ってきても何も意味がない。
……うん、何やらコチラを睨みつけてきてるヤツがいるな。
好きな人へのアピールぐらい見守ってあげてくれ。
何も口を挟まないのは察してくれているからなんだろうが、吐けない思いをオレに向けんなよな。
孝平がブルーシートを敷き終えたので靴を脱いでその上に座る。
「サンキューな」
「うん」
全員が座ったところでそれぞれ昼食を取り出す。
向こうの二人も弁用を持ち込んでいるようだ。
自分の弁当を開く。
「いや~今日の弁当楽しみにしてたんだよね~真人作の弁当!」
「そんな大層なもんでもないけどな」
「見て見て咲希ちゃん。今日はママが唐揚げ入れてくれたの!」
「へぇ、わざわざ揚げてくれたのね」
「うん!」
当然それぞれであれば問題なく話せる。
本来であれば孝平と佐倉さんも問題なく話せているはずだ。
しかし――
「えっと……」
「その……」
「「……」」
――現状はこれ。
孝平ですらこの微妙な雰囲気を払えていない。
というか、孝平らしく振舞えていない。
やっぱりアイツの存在が足枷になっている様子だ。
さて、どうするかな。
孝平の口からはえっとー、あのーという意味のない言葉が漏れるだけ。
佐倉さんは隣にしきりに視線を送っており、明らかに助けを求めているのが伝わってくる。
視線を送られている当人は無関心を装っており、現状が好転する要素はない。
このままじゃ弁当を美味しく食べられるわけもない。
まあそもそも誰も弁当に手をつけようとしていないが。
しかし、思った以上に気まずい雰囲気になったもんだ。
初対面同士を引き合わせるなんて孝平にはお手の物だと思ってたが。
相手が好きな人と男を苦手としているその親友という、どちらに対しても気が抜けない人となると流石にキャパオーバーしてしまうってことなのかね。
――よし、仕事を全うしますか。
「佐倉さん」
「ひぅ!」
ビクッと肩を上下させる佐倉さん。
「一方的に話を聞いてて申し訳ないんだけど、孝平からいろんなところに行って仲良くしてくれてるって聞いているよ。孝平は何か迷惑をかけていないかい?」
「ま、真人?」
何様だよと思いながら声をかける。
「い、いえいえ全然全然! む、むしろ私の方がその、ものすごく迷惑をかけていると言うか、その、なんというか……こ、この前も咲希ちゃんにプレゼント渡そうとしてたのに何を渡せばいいかわからなくて、咲希ちゃんのことを全く知らない藤本君に相談しちゃったし……」
「ああ、何か買いに行ったって話は聞いてたけど、プレゼントだったんだ。孝平さんよー、女の子へのプレゼントなんて何か良いアドバイスできたんですかー?」
わ、我ながらわざとらしいが棒読みになってないだけマシだ。
白々しいという視線は断固無視させてもらう。
「ちゃ、ちゃんと俺なりにアドバイスしたよ! 何が好きかとか一般的なプレゼントはどうとか抱き心地とか一緒に考えてさ。佐倉さんも微妙な反応してなかったからちゃんとしたアドバイス出来てたと思う!」
「へぇー。どう? そのプレゼントは喜んでもらえた?」
「そ、それはもう! 喜んでくれましたとも! ね、ね? 咲希ちゃん」
「え、えぇ……大切にしてる、わよ?」
そのぎこちないの反応しづらいからやめてくれ。
「ほほー、親友さんには好評だったわけだ。孝平のセンスが良かったおかげかな?」
「いやいやいや!」
「ちょっと、選んだのは舞宵って聞いたわよ。その男の功績にしないでちょうだい」
「そ、そうだけど、クマのぬいぐるみにたどり着いたのは藤本君のおかげなんだよ! だからほら、咲希ちゃん!」
「え、あー……」
いやオレを睨むな。
最終的に流れをそこに持っていったのは佐倉さんだぞ。
少しの間何も言わないでいたが、佐倉さんの視線にアイツは仕方なさそうに口を開いた。
「…………その、迷惑かけたわね」
「い、いえ! 喜んでもらえたなら何よりです!」
「……敬語はやめてもらっていいかしら、気持ち悪いから」
「ご、ごめんね! ちょっとどう話せばいいかわからなくて」
「ふぅ……別にいいわよ」
「あ、ありがとう!」
少しではあるが言葉を交わすことができてうれしい様子。
孝平ならもう少し話せば適切な距離感もつかめるはずだ。
「もー咲希ちゃんってばー。藤本君気にしないでね?」
「うん、大丈夫だよ」
「ふん」
おお、佐倉さんがなんか保護者みたいだ。
感心しながら佐倉さんを見ていると佐倉さんがコチラに顔を向けた。
「――あ、あぅえぅ……」
一瞬で頼れそうな保護者像が崩れた……
「あー佐倉さんはその辺り厳しいって話聞いてるから。慣れたら外してくれるんで問題ないよ」
「は、はい。お気遣いありがとうございましゅ……」
オレと佐倉さんに関しては一切進展がないものの、とりあえず気まずい空気は消え去った。
これでようやくお弁当タイムに入れるな。
良かった良かった。
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