第三十六話『いざ相手の学校へ』
ついに来た邂逅の日。
一緒に行くんだからということで昨日も孝平の家に泊まらせてもらい、千代子さんと誠也さんに今日のことを話しながら昨日を過ごした。
駅で集合の場合はワンチャン孝平の寝坊がなくもないが、一緒していればオレが起こすからそういうのはあり得ない。
先に起きていた分オレの方が準備が早いため、一足先に外に出て孝平が出てくるを待つ。
空を見上げ、目を細める。
本日も快晴で、体育祭日和といえるでしょう。
向こうの学校にも晴れ人がいるのかもな、良いことだ。
――さて、と。
なんとなくの対応を考えつつ今日を迎えたわけだが、どうなるんだろうか。
今日が良いものになるかは完全にアイツ次第ということになっているが、結局孝平にはたいした注意喚起もできていない。
せいぜい男を苦手としている人相手だからどんな対応されても寛容にと意向を共有しただけ。
これがどれぐらい意味を成すかはわからんが、あとは孝平に任せるしかないのが何とも歯がゆいところ。
孝平とアイツを信じるしかないな……
ぼーっと待っていると孝平が玄関から出てきた。
「お待たせ」
「おーう、じゃあ行こうか」
孝平は普段は駅まで自転車だが、今日はオレと一緒ということで歩きだ。
別に隣で走るだけだし全然かまわないんだが、急がせてるみたいで嫌だとのこと。
そんな軟な足はしてないんだけどな。
駅への道中、孝平が今日をいかに楽しみにしていたか力説してくる。
それ昨日から耳タコなんだが……
最初から若干テンションが下がるオレだった。
======
駅に着く。
次の電車には余裕があるな、予定通りだ。
「佐倉さんと最後に会ったのはテスト後だったか。結構空いたな」
「そうなんだよねー。お互いが体育祭間近だったってのと、佐倉さんとその親友さんの間でいろいろあったみたいだから機会がなくてね。だから真人に体育祭のこと言われたときはそれ良い案ってなったよ」
「高校で他校の体育祭行くって一般的なのか微妙だったから通るかわからんかったけどな。大学なら普通なんだろうが」
「確かに大学は規模が大きいから見ごたえがありそうよね。まあ小中高どれも外部の人が来られるようになってるんだから問題ないよ」
それもそうか。
「今日以降でなんか会う日を作れればいいんだけどな。今日はそんなに会える機会無いだろうし」
「そうだねぇ。次は何を理由に誘おうかなぁ」
うーんと孝平が考え始める。
なんだかんだ二人が連絡を取り合うようになってもう2ヵ月ぐらい。
やろうと思えば適当な目的で遊びに行けるような関係にはなってるんだろうが、好きな人相手となると気軽にというのは難しいよな。
オレはなんて誘われて出かけてたっけか。
まあ中学生の考えや行動範囲なんか高校生には通用するわけもないか。
思い出すだけ無駄だな。
誘い文句はともかく行きたいところはあるのかと孝平に聞き、それに対して返ってきた場所に肩をすくめたりしながら最寄り駅に着くのを待った。
======
駅を出て少し歩いたところで目的地に到着する。
「ここが佐倉さん達の学校か。結構駅近で通いやすいな」
「そうね。俺達の学校もそんなに遠くないんだけど、バス使うか悩むぐらいの微妙さだからここが羨ましいや」
辺りを見回す。
開会式が始まるぐらいの時間に来たのだが、今の時間にも校門を通る人が何人か見受けられる。
どうやらオレ達みたいな外部の人も結構いるらしい。
浮くことがなさそうで良かった。
「結構もう騒がしいね。まだ開会式の前だよね?」
孝平の言う通り、学校の方から様々な音や声が聞こえてくる。
「時間的にはそのはず。まあオレらの体育祭もそんな感じだったし、どこも似たようなもんなんだろ」
「あ、そうだっけ。あんまり覚えてないや。みんなと話してたのは記憶にあるんだけど」
孝平を見る目が若干細くなる。
そりゃあいろんな人とずっと話してたら周囲の騒がしさはわからんかっただろうな。
オレは一人でぼーっとしてたから辺りの盛り上がりがものすごく伝わってきたけど。
「とりあえず観戦するところを探すか」
「できるだけよく見えるところを見つけたいね」
二人で観戦場所を探す。
既に各地で場所取りが行われており、色んな所にブルーシートが敷かれている。
とはいえ流石に観客スペース一帯を埋め尽くすほどではない。
場所に困るってことはなさそうだ。
しかし、ウチもそうだったが、案外高校でも生徒の家族が来るもんなんだな。
そう思いながら辺りを見ていると、隣で孝平が観戦場所を探すにしてはやたらとキョロキョロしているのに気づいた。
「何をそんな見てるんだ?」
「ん? いや、佐倉さんいないかなーって」
「あぁなるほど。流石にこの中から見つけるのは無理だと思うけどな……」
「まあそうなんだけどさぁ」
組分けされてる中で三学年に分かれるからもう誰が一年生かすらわからん。
しかも佐倉さん小柄だから誰かの後ろにいたらもう無理だ。
「まあ種目が来たらわかるだろ。どの時間の種目に出るのかは聞いてるんだろ?」
「もちろん。その時に見逃さないようにしないとね」
とりあえずの観戦場所を決める。
種目が始まってから見づらいようであれば場所を変えればいいだろう。
開会式が始まったので眺める。
「何か普通の開会式だね」
「多分オレらのがおかしいだけだ」
組長も校長も個性ありすぎなんだよ、ウチの高校。
************
つつがなく開会式が終了し、種目が始まった。
上級生が参加する種目が行われ、生徒や観客の参加者を応援する声に包まれる。
オレ達も個人はわからないまでも、時折声援を送る。
あの二人は赤青緑の中の青組のため、青が主に応援対象になるな。
「次が一年生の徒競走だよ」
「ああ、女子からやるみたいだな」
「しっかり応援しよう! 親友さんとやらも応援したいんだけど、顔がわからないんだよね」
「あー……まあそこは仕方ないな」
並び始めた女子の方に視線を戻す。
すまんな孝平。
オレはわかるから応援しておくよ、心の中で。
◇◇◇◇
女子徒競走がスタートした。
頑張れーといった女子の黄色い歓声が響く。
走るのを得意としていなさそうな女子が多いが、それぞれ必死の表情で走っている。
……なんか男子のテンションの上がりようがすごいな。
さっきまでは男女混合競技で、もちろん声援は大きかったが今のはちょっと性質が違う気もする。
まあ……体操着という薄着の女子たちが必死に走る姿を合法的に見つめられるもんな。
いい眺めとだけ言っておこう。
「佐倉さんだ!」
「お、来たか」
どうやら次の走者として準備している中に佐倉さんがいたのを孝平が見つけたらしい。
多分背格好的にあれかな。
佐倉さんを含む六人の走者がスタートを切り、オレ達の前のカーブに差し掛かる。
「佐倉さん頑張ってー!!!」
「頑張れー!」
当然こちらに気づいた様子もないが、そのままのペースを維持して走り去っていった。
ゴールを見届けたところ、佐倉さんは三位ぐらいだっただろうか。
「一位ではなさそうだな」
「そうだねぇ。でも頑張ってる佐倉さん見れただけでよかったよ!」
「そうかい」
孝平がより嬉しそうにしているのを見てオレも嬉しく思いつつ視線を前に戻す。
次の走者のホイッスルが鳴った。
佐倉さんの後も徒競走は続き、アンカーの順番となる。
「あ、次が最後みたいだよ」
「ここが本命だな」
「女子とはいえ速い人は速いよねー。俺じゃ多分負けちゃうなぁ」
それ前も言ってたなとか思いつつ最終走者を見る。
やっぱそこにいたか、リレーに選ばれたとか言ってたもんな。
リレー出るんだからここも勝って見せろよ!
アンカーの登場で会場の盛り上がりが高まる。
心なしかアイツが出てきたところで男子の声援がさらに大きくなった気がするな。
ピストルの音とともにアンカー達が飛び出す。
練習の成果かアイツはきれいなスタートダッシュを決めた。
若干の差をつけた状態で直線を走り、オレ達の前のコーナーへと入っていく。
「いけー!」
おーと眺めている孝平の横で声援を送る。
スタートダッシュの有利分で前に出てコーナーを曲がっていく。
追いすがってきた別の走者とのインの攻防で狭苦しそうにしていたものの何とか潜り抜け、先頭を取ったままコーナーを抜けていった。
一度抜けてしまえば勝負は決まりと思ったが、しぶとく後ろにくっついている。
少しでも速度を落とせば一瞬で抜かされる、それぐらいの距離感。
しかしアイツはそのままの速度を維持し続けた。
「おっ、抜い……てない!」
「踏ん張った!」
何度かアウトから抜かされそうにはなったものの前には飛び込ませない。
そのままトップを守り続けた結果、アイツは一位でゴールしたのだった。
大きな拍手を送る。
「見ごたえあったな」
「すごかったね! 俺たちの学校の一年生より速かったかも」
「ウチにも速い女子はいたが、どうなんだろうな」
流石の走りだったな。
さぞ佐倉さんも喜んでるだろう。
◇◇◇◇
一年生女子徒競走が終了し、男子の徒競走へと種目が移る。
声援の性質がまた変わった気がするが大きさ自体は変わらない。
順調に進み、大縄跳びや組体操、ダンスといった種目へと移っていく。
ダンスは全組の女子が対象の種目だったためあの二人も参加していたんだろうが、やはりというか大人数の女子から二人を見つけることは出来なかった。
孝平結構本気で残念がってたんだよな……まあ佐倉さん立ち位置教えてくれなかったらしいし、仕方ないんだろうけど。
アイツと二人並んでなら踊って見せてくれたりしないかね。
……余計に無理か。
そんなこんなで観戦を続け、佐倉さん達が出るときはより一層の声援を送りながら午前を過ごした。
――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます