第三十三話『親友以外と遊ぶこともある』

放課後、山口と一緒に集合場所に向かう。

そこに居たのは他クラスの陸上部二人。


結果、集まったのはオレ含めて四人だった。


「二人ともお疲れ様」

「お疲れさまー。誘ってくれてありがとう」

「おう。今日は陸部休みだしな」

「体育祭終わってすぐだし今日ぐらいはな」

「流石に全員は無理だったみたいだったが」


まあ当日にしては集まった方な気はする。


「じゃあハンバーガー屋にでも行って食いながら話そうぜ」

「いいねー」

「じゃあレッツラゴー」


そう言って歩き出そうとすると三人が顔を見合わせた。


「なんか古めかしい言い回しだな」

「それ死語だろ」

「初めて聞いた」


え、マジ?




======




ハンバーガー屋にてポテトと飲み物を注文し、席に着く。

やったね、揚げたてだ。


――美味い!


「いや、何度思い返しても橘からの山口はやばかったわ。橘が一気に加速したのも良かったけど、山口が橘信じて手元見ずに走り出したのかっこよかったよな」

「それに完璧に合わせてバトン渡す橘もだよね。第六が橘でよかった」


そこまで言われると流石に照れてしまう。


「ああまあ……とにかく上手くいってよかった。必死だったから何も考えられてなかっただろうし」


正直走ってた時のことあんまり覚えてないが、ミスなくバトンをつなぐことで一生懸命だったはずだ。

練習の成果をうまく発揮できてよかった。


「結果こそ俺がリード守ったままゴールしたが、あそこで若干のズレがあったら抜かされてたかもしれないからな。それまでの走りも当然大事だったけど、橘と俺じゃないと一位ではなかったのかも」

「大げさすぎ。第一、第二の二人がリード作ってくれたおかげであの形になってる。オレはバトン分の差を維持するので精一杯だったし、あれは全員でとった一位だよ」

「違いない!」

「いえーい!」

「勝利にカンパーイ!」


互いにジュースをぶつけ合い、わははと笑い声を上げる。


いいねぇ、こういうの。

孝平以外じゃほんと久しぶりだな。



楽しそうにしている三人をポテトをつまみながら眺めた。



◇◇◇◇



しばらくリレーの話が続いたが、そこから他の種目の話に移り、何が楽しかった、何で活躍できたという話になっていく。

そして黄組の組長がかわいかっただの別の先輩がどうだのちょっと下世話な話にもなったりしていった。


男子高校生が集まったらやっぱりこういう話にもなるよな。

孝平ともそういう話になることあるし、男子高校生とはそういう生き物ということだろう。


そういう話にもそれなりに積極的に参加したらものすごく意外そうな目で見られた。

イラっとする反応だな……どんな風に思われてたんだか。


まあおかげでちょっと気安くなれたけどさ。



◇◇◇◇



「む……」


ポテトの容器をひっくり返すが何も落ちてこない。

食べきっちゃったか、もうちょっと食べたかった。


「今更なんだが、橘ってなんでそんなに前髪伸ばしてるんだ?」


つまむものがなくなったと残念に思っていると、いきなり山口がそんなことを言い始めた。


「目が完全に隠れてるから表情見えづらいし、すっごい邪魔そうだ。それのせいでイメージと違うってなってるしな」

「ん、そう?」

「そう? じゃねーよ絶対に長いわ」


指摘された前髪に触れる。


うーん、まあ邪魔そうに思われても仕方はないか。

ここにいる三人とも部活の関係か短髪だし、それに比べたら圧倒的に長い。


と言っても、オレとしてはそんなに邪魔とは思わないんだよな。


「中学の時はどうしてたんだ? バスケやってたんだしもっと短かったんだろ?」

「いや、似たようなものだった。本当に邪魔な時はゴムとかで結んでたかな」

「なるほど、ヘアゴム」

「そうそう。傍からだと完全に前が見えてないように見えるかもだけど、オレ目線だとそうでもなかったりする。髪の毛の間から結構見えるから案外不便じゃないんだよな」


まあ慣れもあるんだろうけど。


「へぇー……じゃなくて、切ればいいじゃん。結構見えるって言ったってないよりは見えないわけだろ? 髪をあげれば世界も変わって見えるだろうに」

「いや、別にその必要性を感じないというか」

「ほら、こうやって前髪を上げて「ちょっ、おい!」……わぉ」

「なんだよもう……山口?」


いきなりオレの髪をかき上げてきたと思ったらそのまま固まりやがった。

他二人もなんか黙ってる。


「……なんでそんなにじっと見てくるんだ」


かと思ったらなんか考え込んでるし、行動がよくわからん。


「橘って……結構イケてるんじゃないか?」

「結構ってか……かなり?」

「うん、イケてる」

「は? ってかもういいか?」

「わ、悪い」


頭を振って髪を整える。


「ふぅ。んで、何がイケてるって?」

「いや、橘の顔だよ顔。お前、イケメンだったんだな」


何だいきなり。


「よくよく見てみれば小顔だし鼻筋しっかりしてるし整ってるもんな。そして隠れてた目はパッチリとした切れ長の目という。ギャップがすごいわ」

「いやキモイキモイ! 真顔で何変なこと言ってんの? 男にそんなこと言われても気持ち悪いだけだわ!」

「そんな変でもないぞ。俺もそう思うし」

「異議なし」

「はあ!?」


普通に鳥肌立った。

コイツらまさかソッチの気はないだろうな?


「本当に素直な感想だぞ。まさか漫画でよくある、眼鏡を取ったら美少女だった、みたいな展開を現実で経験するとは思わなかったわ」

「前髪をめくったらイケメンでしたってか」

「走ってる時とかも顔は見てないもんね」

「……」


その内容にうんざりしていると向こうが呆れたように表情を歪める。


「なんでそんな微妙そうなんだよ。褒めてるんだぞ? お前の顔イケメンだなって」

「それは理解してるが……そう言われても気持ち悪いだろ」

「えーなんでよ」

「俺達への当て付けか?」

「おい、どういう意味だそれ」


「イケメンじゃないだろ」、「はっきり言うなおい!」とぎゃーぎゃー騒いでる三人は無視する。


いやまあ孝平とかからも言われたことあるからその認識はあるんだが、にしても反応が大袈裟だ。

外を歩いてたら珍しくもないレベルだろうに。



◇◇◇◇



色々言い合って息を切らした三人だったが、それを整えてから山口が話を戻した。


「とりあえずマジでイケてるって。多分髪ちゃんと整えるだけでモテるんじゃないか?」

「何だモテるって。別に顔が良くてもそんだけでモテるほど女子は単純じゃないだろ」


そりゃあアイドルになれるレベルとかなら見た目だけでモテることもあるのかもしれんが。

それこそあの女は外歩いてるだけで人の視線集めてわけたし。


とはいえアレぐらいのインパクトありきの話だろう。


「そんなもんだと思うけどなぁ」

「男は顔だってどこかで聞いたことあるぞ」

「ふぅん」


まあ中身が伴わなかったらモテても長続きするわけがない。

好かれるには中身がいいのが大前提だ。


だから孝平はモテて当然と思ってるんだが……何でだろうなぁ。

別に見た目だって悪いものじゃないだろうに。


「ま、俺らはそんな経験するわけないからわからんけどな」

「くっそ言い返せねぇ……」

「で、切らないのか?」

「とりあえず切る予定はない」


そう言うと三人そろって残念そうな声を出した。


「この明らかに陰キャの見た目の奥にあの顔が隠れてるってなぁ、どんな少女漫画だよって話。絶対ギャップウケ狙えると思うんだが」

「そんなギャップいらない」

「なぁ、写真だけ取らせてくれよ。クラスの女子に見せるからさ」

「い、や、だ!」


いいだろーと再度前髪をあげようとしてくる山口をかわし続けた。





************





駅で三人と分かれ、電車に乗る。

電車に揺られながらぼーっと景色を眺めていると孝平からメッセージが送られてきた。


『山口君達とはどうだった? 楽しかった?』

『今電車で帰るところ。楽しかったぞ』

『それは良かった! 何したの?』

『バーガー屋行ってずっと駄弁ってただけだ』

『へぇ、どんな話をしたの?』


なんかすごい聞いてくるな。

そんなに気になるか?


『なんでそんなに細かく確認するんだ。親か』

『俺は親じゃなくて兄だよ。親は俺の父さんと母さん』

『別にリアルに寄せなくていいんだよ』


ご両親を巻き込むな巻き込むな。

あの人たちなら本当にそういう扱いしてきそうだから。


嬉しそうにそれを受け入れてくる二人の姿が想像できてしまい、ゲンナリとしてしまう。


というかなんでオレが弟なんだよ。

世話してたとかなら明らかにオレの方が兄度高いと思うんだが……納得いかん。


『まあそれはいいとして。何話してたの?』

『最初はずっとリレーの話だったな。リレー組で集まったんだし』

『はいはい、真人が速かったとか話してたんだ』

『そこから他の種目の話に発展して、あとはちょっとしたプライベートな話とかしたな』

『うわ、なんかエッチな話とかしたんでしょ! うわーその場にいたかったなぁ!』


なんで濁したのに伝わってんだよ……


『エッチいうな。そんなディープな話はしてないぞ』

『聞きたかったなぁ。にしても随分盛り上がったんだね!』

『結構盛り上がったな。打ち上げの時に聞いたような話をもう一度聞くことになったし』

『しばらくは体育祭系の話題が続くだろうね、今が一番アツいし。んでそれだけ? 他には他には?』


更なる深掘りに思わず口元を引き攣らせる。


ほんと詳細聞いてくるな……

そろそろ打つの面倒になってきたんだが。


『髪の話をしたわ。髪切ったほうがいいって言われた』

『山口君達も孝平がイケメンだって気づいたんだね!』

『どこかから見てたのか?』


え、まさか店内にいた?

オレ達がやってることやり返されてた?


『見てないよ! でもそういう流れになるだろうなって。やっぱりみんなそう思うよねぇ』


んだよビビらせやがって……


『ビフォーアフターの差が大きいから良く見えるだけだろ』


髭もじゃの人がひげ剃っただけで清潔感めっちゃあるように感じるのと同じだろうよ。


『そんなの周りがどう思うかだよ。変に広まってハードルだけ上がらないといいね』


うげ、それは面倒だ。


『広まるほどの話題性はないだろうが、変な尾ひれがつくのは勘弁だな』

『まあその時はちゃんと真実を伝えてあげるよ』

『いや、なんなら孝平が真実を曲げそうな気がするんだが』

『おっと、ご飯の時間だ。今日の話はまた詳しく聞かせてもらうよ! じゃーねー』

『(棒人間が手を振るスタンプ)』


孝平のヤツ逃げやがった!


てかまだ聞くのかよ……マジで友達のいない弟に対する兄でも気取ってんのか?

中学時代にも孝平以外と遊ぶことなんてたまにあっただろうに、何が珍しいんだが……



ハァとため息をついて携帯をしまう。


そのタイミングで電車が停車するが、まだ自分の駅ではないため降りはしない。

近くの席の人が立ち上がり、降りていった。



あと何駅だっけかと考えながら辺りを眺めていると、おじいさんがチラチラとこちらに視線を送っているのに気づく。


ん、オレなんかしたっけ……ああ、席か。

オレが座ると思ってんだろうか。

すまんね、オレ電車であんまり座らないタイプなんだわ。


次の駅は、とつぶやきながらそこを離れるとおじいさんが移動し、その空席に腰を下ろした。



ああいう時にスマートに席を譲るにはどうすればいいんかね。

わざとらしくどうぞってやっても逆に気を使われそうだし。


やっぱ一番はその場から離れることか。さっさと動けばよかった。





そのまま立ちっぱなしで電車に揺られ続けていると、自分の駅に止まったため電車を降りる。



今日は山口たちのおかげでいつもより濃い一日だったな、ほんと感謝だ。

さて、家に帰るにはまだ早いし、これからどうするか。


「また楽しいことがあればいいな」


そう呟き、明日以降に期待を寄せた。




――――――――――――

作者より


ここまで読んでいただきありがとうございます。

特別大きな区切りというわけではないのですが、作者が仕事で多忙につき、今後は今までのように毎日更新は出来なくなります。

次の更新は明後日の土曜日となり、その後も隔日更新を習慣付けていきたいと思います。


更新頻度は落ちてしまいますが、これからも話を読んでいただけると嬉しいです。

また、評価や感想は常に歓迎しておりますので、何卒よろしくお願いします。

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