エピローグ

「パーティ『メルクリウス』! 諸君らを、『迷宮攻略ダンジョン・アタックコンテスト』の選抜メンバーとして選出する!」


 モリアール校長が、高らかにそう宣言する。

 大講堂には、様々な分野の学生と教師たちがぎっしりと詰まっていた。

 目的は、今回の襲撃事件の表向きの概要説明と、その褒賞に関する式典が行われていたのだが……呼び出された俺たちを待ち受けていたのは、そんな言葉だった。


 大講堂のやたらと目立つ中央位置で、固まる俺たち。

 バルクはともかく、俺やアリスはあまり目立つのが好きな性質ではない。


「なんや厄介なことになったで。ワイは金だけもらえたらそれでよかったんやけど」

「事前アナウンスなしで急に呼ばれたと思ったら、こういう事か……」


 これが、ただの指名なら普通に断っていたと思う。

 しかし、こんな場所でこのように宣言されてしまえば、拒否権はないに等しい。


 なにせ、俺たちは『実績』を上げてしまっている。

 魔貴族の撃退を二回。得体のしれない大型魔獣の討伐を一回。

 しかも、防衛戦の戦闘については、騒ぎを聞きつけた複数の生徒が目撃してしまっている。

 俺が虹の投石紐スリングでゲルシュ・サウルスを斃したところも。


 つまるところ、この指名に異を唱える者がいないということだ。

 おれ達以外に。


「参ったな……」


 この学園のシステム的に、あの戦闘も何かしらの単位になるだろうってことはなんとなく予想していたが……この状況は、少しばかり予想外だった。

 そも、『迷宮攻略ダンジョン・アタックコンテスト』は挙手制だったはずだし。


「やっぱり『メルクリウス』かよ!」

「異議なし!」

「あいつらなら優勝も狙える……!」


 そんな言葉があちこちから聞こえる中、俺たちはただただ困惑していた。

 実績の欲しいバルクは喜ぶかと思っていたが、俺たちと同じく微妙な表情だ。


「どうする? 大将」

「アリスの事もあるし、あまり表に出たくない」

「せやな。単位実績は十分やし、ここは断っても――」


 そんな俺たちを傍目に、アリスが金髪を揺らして一歩前に出る。


「やるわ!」


 そう高らかに宣言する恋人に、些か驚いて無言の視線を送る。

 そんな俺の視線に軽くウィンクを返したアリスが、力強い瞳で壇上のモリアール校長を見上げた。


「他のメンバーもよろしいかの?」

「アリスがやるってなら、俺もやりますよ」

「ボクも、おけ」

「みんながええなら、ワイもかまへん。いつか挑戦したいとは思ってたんや」


 俺たちの言葉に頷いたモリアール校長が、大講堂に集まる歴々をぐるりと見渡す。

 そこから異論が出ることはなかった。


 ◆


「アリス、どうして急にやる気になったんだ?」


 大講堂から寮への帰り道。

 その道すがら、俺は疑問を口にする。


「あはは、ごめんね。でも、挑んでみたくなったの」

「『迷宮ダンジョンコン』に?」

「ううん、あたしの運命に」


 輝く金の髪をさらりとなびかせながら、アリスが笑う。

 その美しさに、思わず息をのんだ。


「ただのアリスとして、みんなで――『メルクリウス』で、もっと先まで行きたいなって思った。わがまま、かな?」

「いや、いいさ」


 そう返事をして、笑う。

 俺にしても、思うところがあったから。

 そう、どうやら俺は……一般男子高校生ではなく、webで流行の量産型異世界転移系主人公らしい。


 自分自身、あんな『力』を揮えるなんて知らなかったし、思いもしなかった。

 しかし、それは俺の中にずっとあったのだ。

 せっかくなら、神様かなにかワンクッションはさんでスキル説明もしてくれればいいのに。


「また、ヘンなこと、考えてる」

「変なのは仕方ない。異世界人なんだぞ、俺は」

「タキは、タキ」


 くすくすと笑うメアリーに軽く苦笑を返す。

 それは、まさに真理なのだろうと思ったから。


 俺が異世界人だとか、アリスが魔王の生まれ変わりだとか、バルクが特殊なドワーフだとか……俺たちにとっては、些事も些事。

 要はこの先をどう楽しむか、生きていくかの方が大切なのだ。


 それを考えれば、今回のモリアール校長の宣言はいい機会なのかもしれない。

 この世界で生きていく俺は、もっとこの世界に前向きになる必要がある。

 俺には、守るべき大切な恋人と仲間がもういるのだ。

 いつまでもゲスト扱いな気持ちでいるわけにはいかない。


「よし、やるか。せっかくだから優勝目指して頑張ろうぜ」

「お、大将。やる気やな!」

「やるからには上を目指すのが男ってもんだろ」

「わかってるやん。モテるで!」


 バルクと拳を合せて、笑い合う。


「ちょっと、メアリーの事はもういいけど、これ以上モテないで!」

「ボク、許された」

「ちょっと諦めただけ! タキは渡さないからね!」

「ふふふ、やがてはボクの、ものに、なる……!」


 両腕をアリスとメアリーに抱かれて、思わずぎくりと固まる。

 やはりこの柔らかな感触には、慣れない。

 例え、もう一線を超えた非童貞だとしても。


「こりゃ付け入るスキがないで……まあ、大将は人間やし、そのくらいでええんかもな」

「そうよ。タキはあたしで十分なんだから!」

「ボクは、諦めない……!」


 好きなことを口にする三人に苦笑しつつ、帰り道を行く。

 そう、帰り道……ここはもう俺の居場所なのだ。

 それを自覚すると、何やら腑に落ちるところがあった。


「がんばろう。それで、これからもよろしく」


 決意表明なのか謝意なのかよくわ狩らない言葉を口にして、俺はこの世界で生きていく決意を新たにするのであった。










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あとがき

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ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます('ω')!

本作は『第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト』に参加中です!


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必中必殺の〝魔弾の射手〟~冒険者学園に転入した俺氏、ちょっと無双気味~ 右薙 光介@ラノベ作家 @Yazma

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