第13話 異世界の街並みはすごい
「おお、これは……すごいな」
さっきからそれしか言ってない気もするが、仕方あるまい。
異世界というのは何もかもが、訳が分からなくて目新しい。
だというのに、なんとなく日本で見たようなものも存在していて驚くことばかりだ。
「はしゃいでる、ね」
「まあね。俺の故郷とは何もかも違うからさ」
「どんな、故郷、なの?」
メアリー先輩に問われて、俺はふと考える。
日本をこちらの住民に説明するとき、どんな風に言えばいいのだろう。
「俺にとっては、少し息苦しい場所だったかな」
「そう、なんだ? じゃ、ウォンスに来れて、よかったね?」
「そうかも。最初はびっくりしたけど、俺にはこっちが合ってる気もする」
なにせ、俺がせっせと摂取していたゲームやラノベの栄養素がここにはあふれている。
普段から「ファンタジーからしか摂れない栄養素があるんだ!」なんて豪語していた俺としては、夢のような場所と言っても過言ではない。
もちろん、さっきみたいに妙に現実的だったりするが。
「ほんで? 最初はどこや?」
「『ウィザーズ・パッチワーク』に行きましょ」
アリスの言葉に、バルクとメアリー先輩が首をひねる。
俺は聞きなれないので、それが何なのかよくわからないが。
「わるないけど、最初がそこかいな?」
「タキの欲しいもの、あるです?」
「え、どうだろう。まず俺はそこがどこなのかすらわからないんだけど……」
「行けばわかるわよ。ほら、ごーごー!」
俺の右腕を抱きこむようにして、アリスが引っ張る。
この距離間の近さは異世界ならではなのかもしれないが、どうにも慣れなくてどぎまぎしてしまう。この、触れる柔らかさとか。
「む。ボクは、こっち」
「メアリー先輩!?」
アリスと同じようにして、俺の左腕を抱きこもうとするメアリー先輩だったが……背丈の差がある。
つまり、手のひらが柔らかな部分に触れてしまった。
半ば固まっていると、ゆっくりと俺を見上げた先輩が頬を染める。
「……えっち、です」
「誤解だ! これは冤罪だ!」
「もう、何してるのよ」
「俺は何もしてない!」
そんな風に学生らしくやや騒がしく学園前通りをしばし歩いて、数分。
辿り着いたのは、大通りに並ぶ店の中でも、いっとう大きな店だった。
ガラス張りのショーウィンドーもあり、俺にとっては物珍しいものが並べられている。
「冒険者資格取得祝い、ここで買おうと思って」
「え、いいの?」
「このくらいさせてよ。わたし、命を助けられてるんだし」
アリスがにこやかに笑う。
あの日、怪我をさせてしまったのは俺なのに。
「タキ君に【
何だったっけ……と少し考えてから、俺はそれに思い当たる。
「ああ、あの四次げ──……」
「あかん! それ以上はあかんで!」
「あかんのか?」
「あかん。それはなんかあかん気がする。とりま、店入ろうや」
何故か止められてしまった。
バルクは妙なところで勘が鋭いところがあるからな……。
納得いくようないかないような不思議さに包まれながらも、店へと足を踏み入れる。
「これは──」
息をのむ、という表現がまさにぴったりだった。
あまりにファンタジーがすぎる!
剣や槍、斧などの武器。
盾や兜、帽子などの防具。
そして、得体のしれない……しかし、胸がわくわくする謎の道具類。
それらが所狭しと並べられている。
これは『異世界に来てテンションが上がった瞬間ランキング第1位』を更新だ。
「おや、いらっしゃい。何をお探しですか?」
俺が感動してきょろきょろと挙動不審になっていると、カウンターの奥から店主らしき人影が姿を現した。
長い耳に若い容姿……エルフ族だ。
これにも感動はするが、クラスメートにもエルフはいる(まだ話したことがない)。
歓喜に飛びあがるのは何とか抑えられた。
「【
「ほう、それは幸運ですね。いい巡り合わせかもしれませんよ」
アリスの言葉に、店主が棚の一つを指さす。
そこには、小さなポーチのような鞄が一つ、飾られていた。
「昨日に入荷したばかりの新作です。製作者はあの〝魔道具信者のレイニース〟ですから信頼のおける逸品ですよ」
「あのレイニースの新作!?」
アリスが目を輝かせるのを見ると、貴重な逸品なのかもしれない。
俺にはさっぱりわからないけど。
「耐火、耐水、防塵完備でモノ自体も丈夫ですし、容量だって荷馬車一つ分はあります。内部時間停止機能もありますので食料品も腐りませんよ。これ以上の【
「でも、お高いんでしょう?」
俺の少し冗談めかした言葉に、店主が苦笑いを浮かべながらうなずく。
「ええ、まあ。ただ、これは幸運なことだと思いますよ。【
「これ、ください」
店主のセールストーク中だというのに、アリスが購入を決めてしまう。
「アリス!? これ、お高いって言ってたぞ? 値段も聞いてないじゃないか」
「んー、〝魔道具信者のレイニース〟の作品で新作だったら……金貨七十枚ってところかしら?」
「さすが、ミルフレッド家のお嬢様はお目が高い。こちらは金貨六十九枚となっておりますよ」
「了解。ここでつけていくからポーチベルトも一緒にお願い」
「承りました。そちらはサービスさせていただきます。少しお待ちください」
会釈した店主が、カウンターに引っ込んでいく。
金貨六十九枚と言えば、相当な価値だ。
ええっと、金貨一枚が日本円にしておよそ1万円くらいなので、約69万円。
そんなものを、ぽんとプレゼントされるとさすがに固まる。
「ア、アリス……?」
「お祝いはどーんっとしなくっちゃ、ね?」
「そうは言っても、これはさすがに……」
「助けてもらったお礼も兼ねてるんだし、これでも足りないくらいよ? それに、もう買っちゃったもんね」
悪戯っ子のように笑うアリスに、少し気圧されていると店主が【
「それでは、こちらをどうぞ。よい冒険を」
「あ、はい。ありがとうございます」
曖昧な笑みで受け取って、ぼんやりしているとアリスが【
なすがままの俺は、驚きすぎて口から軽くエクトプラズムが出そうになっている。
「うん。似合う似合う。やっぱわたし達のリーダーなら、このくらいのものは持ってなくっちゃね!」
「うらやましい、です」
「これで大将の『弾丸不安問題』も解消やな」
口々に褒めてくれるのは耳に入ってくるが、どうも現実味がない。
女の子にプレゼントをもらうのも初めてなら、こんな高いものをプレゼントに貰うのも初めてだ。
「さ、それじゃあ、次に行きましょ! 今日はまだまだ周るわよ」
どこか上機嫌なアリスに手を引かれて、おぼつかない足取りの俺は学園都市の街並みへと繰り出すのであった。
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