第10話 基礎は大切だよ、何事も。うん。
「ちょっと、タキ君! わたし達の出番、なかったんですけど!?」
「ごめん、チャンスだと思ったからさ……」
「わたしはいいけど、バルクがあの調子よ?」
バルクは、頭がぱっくりと裂けた
俺としては、牽制と隙作りのための初撃としてアレを放ったつもりだったのだ。
まさか、あんな威力だとは思わなかった。
「なに、飛ばした、です?」
メアリー先輩が興味津々といった様子で、俺に小首をかしげる。
なんというか、年上なのに小動物的可愛さがあるお人だ。
「これ。購買部で鎧修理の際に出た端材を譲ってもらったんだ。金属製だから、飛距離と威力があがると思って」
俺がさっき放ったのは、武具の修理などで出た細かい金属の端材をピンボール大に叩いて丸めたものだ。
石ころなどが確保できないときの為にいくつか携行していたのだが……まさか過ぎる威力だった。
「それにしても、すごかった、です。びっくり」
「俺もだよ。いったい、どうなってるんだろう」
どうも
そりゃ、
「お、お前ら……!」
「無事でよかったです、ゲルシュ先輩」
「オレの邪魔しやがって!」
「え」
ゲルシュ先輩の口から飛び出した言葉に、思わず唖然とする。
助けてやった、と言うつもりもないがまさか責められるとは予想外だった。
「実績があれば、オレだって冒険者資格くらい余裕なンだよ!」
「タキ君がいなきゃ死んでたかもしれなかったのよ!?」
吼えるゲルシュ先輩に、アリスが眉を釣り上げる。
「うるせぇ! 何だってそんな得体のしれないモヤシの肩を持つンだよ!」
「友達で命の恩人だからよ! だいたい、いつも私に付きまとってどういうつもりなの?」
「……」
アリスの問いに答えず、ゲルシュ先輩は俺を睨みつける。
え、この流れで何で俺に
おかしくない?
「あなたは、実力不足、だった。ちゃんと、お礼を言ったほうが、いい」
「メアリー……てめぇまでモヤシの肩を持つのかよ!」
「タキは、すごい。あなたが、命を救われたのは、事実」
「どいつもこいつも……ッ」
顔を赤くして鼻息を荒くするゲルシュ先輩だったが、しばらく俺を睨みつけたまましばらくすると、舌打ちをして踵を返した。
ううむ? 結局のところどういう事なの?
冒険者資格が今すぐ欲しかったってことなのだろうか……?
今日の俺の感想としては、学園でしっかりとカリキュラムをこなしてから、きちんと卒業して冒険者資格を取得した方がいいと思うのだが。
そうじゃないと、こんなよくわからないまま危険な魔物討伐に駆り出されるからね。
基礎は大切だよ、何事も。
「なんや、感じ悪い先輩やな」
「いつもあんな感じよ。ほんと、何がしたいのかよくわからないわ」
「ゲルシュは、少し、視野が狭い」
散々な言われ様のゲルシュ先輩だが、今のところは俺も同じ感想だ。
あの人が、余計なことをしなければ投石一つでつつがなく終わっていた可能性もあるし、なし崩し的に戦闘を始めることもなかった。
今回は、首尾よくいったが……余計なリスクを背負わせてくれたことは許しがたい。
「ほな、死体回収して帰ろか。これもわいが持っといたらええか?」
「頼むよ、バルク。助かる」
「ええんやで。このくらいは働かんとな」
もしかすると、うっかり
せっかくトラウマを乗り越える機会だったのに、少しすまないことをしてしまったかもしれない。
「今回も、タキ君のおかげで無事だね」
木立から水辺に戻る道すがら、アリスがそんなことを言いながら笑う。
些か過大評価に思えるが、こんな風に言ってもらうのは悪くない気分だ。
「そう言ってもらえると助かるよ。俺は
「タキは、指揮もできてた、です。ほんとに、初年次? 実は、二周目?」
……留年も転生もしてませんよ。
「そう言えば、イッパンコーコーセーってなんなんや?」
「えっ……あー……俺の故郷での、学生のことだよ。『普通の人』ってこと」
セーフ、セーフだよな?
嘘は言ってないし、不自然でもない。
「そうなんか。まぁー……言うても、タキは普通やないやろ」
「ん。ちがう、です」
「特別だよねー。何でも
『【悲報】俺氏、普通ではなかった』というタイトルがふわりと脳内をよぎるが、慌てて俺は首を振る。
「まさか、運が良かっただけだよ。今日だって、できれば魔物退治なんて引き受けたくなかったし」
「どうして、引き受けた、です?」
メアリー先輩が興味津々といった風に俺を見上げる。
「なりゆきかな。断りづらかったのと……いま俺にしかできないことがあるって言われるのが、ちょっと嬉しかったんだ」
「意外に、ピュア」
くすくすと笑うメアリー先輩に、俺は苦笑で応える。
青臭い感覚だというのは、自覚しているけど、俺だって男の子なのだ。
「なぁ、タキ。ちょい頼みがあるんやけど」
「? どうした、バルク」
「今後もわいをパーティに置いてくれんやろか」
「あ、ずるい。わたしが先に提案しようと思ったのに!」
むむむ、と顔を突き合わせる二人に俺は首をひねる。
「え、そういうつもりだったんだけど……もしかして、そう思ってたの俺だけ?」
「だよね! タキ君にはわたしがいないと!」
「なんや、心配して損したわ。今後ともよろしくやで」
そう笑う二人を見て、俺も心底安心する。
アリスがいないと俺はきっと色々とポカをやらかすだろうし、バルクのような男友達が一緒ならきっと慣れない異世界学園生活は楽しいに違いない。
そんな俺達に並んで、メアリー先輩が小さく手を上げる。
「ボク、も」
「先輩、二年次生ですよね?」
「メアリーと、呼んで。合同の時は、ボクも、一緒がいい、です」
期待のこもった目で見上げられた俺は、大きくうなずいて答える。
「もちろん。よろしく、メアリー」
返答に満足したらしいメアリー先輩は、ふわりと顔をほころばせるのだった。
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