必中必殺の〝魔弾の射手〟~冒険者学園に転入した俺氏、ちょっと無双気味~
右薙 光介@ラノベ作家
第1話 転校先は異世界学園でした
「えっと? ここ、どこなわけ……?」
新天地に着いて、最初に俺の口から漏れた言葉がこれだ。
そりゃそうだろ?
目の前に広がってるのは、どう見ても外国の風景で……いや、外国かどうかすら怪しい風景で、見たことのない大型爬虫類が馬の代わりに荷車を引いていたり、それを操ってる人の耳がやけに長かったりするのだから。
周囲を歩く人だって、妙に古風な格好だったり腰に長剣を携えていたりしてどうにもおかしい。
「なあ、親父殿。ここって日本じゃないよな?」
「ああ。ここはファルラン大陸西部地域、『
「それ、どこ……? 海外? ヨーロッパ的な?」
「まぁ、そんなもんだ」
いやいや絶対に『そんなもん』なわけないよね?
どう考えても、地球じゃないでしょ!?
……いやいや、待て。落ち着け、俺。
こういう時はパニックになってはいけない。
まずは深呼吸、そして情報の整理だ。
俺の名前は
十七才。ピチピチの男子高校生。
得意科目は現国。特技はソロキャンプと
……よし、自己認知はばっちりだ。
今のところ、俺の正気はちゃんと仕事をしている。
おかしいのは父とこの景色だってことは理解した。
ええと、それで。
前を歩いているスーツ姿のおっさんは、
俺の親父殿──御年三十八才。よれよれの元サラリーマン。
その親父が、突然「お父さんは脱サラしました」という衝撃発言をしたのがおよそ一週間前。
それで俺は住み慣れた東京と数少ない友人たちに別れを告げ、親父と一緒に田舎に引っ越すことになったわけだが……これはどうしたことだろうか?
田舎どころか別世界に来てしまっているようなのだが?
「どうした、タキ」
「どうしたもこうしたもないよ。ここ、マジでどこなの? スマホ、電波ないんだけど」
「あー……サービス提供範囲外だな」
そりゃそうだろ。
どこをどう見たってばっきばきの異世界なわけだし。
ここでアンテナがびんびんに立ったら逆に怖いわ。
「まあ、細かいことはいいじゃないか」
「相当大雑把な細かさの定義で話さないでもらおうか、親父殿」
大きなため息を吐きつつ、目の前に広がるもの珍しい風景に視線を巡らせる。
背後を振り返れば、先ほど通った巨大な城壁。
歩く大きな通りの左右は、露店が立ち並び外国人と呼ぶにはユニークすぎる姿かたちの人々が、思い思いに商売をしている。
……む?
そういえば、どうして俺は言葉や文字がわかるんだろう?
大阪生まれ東京育ちの俺は、学習要綱に従って数年の英語教育を受けてはいるが、それをまるで使いこなせない平凡系男子である。
だというのに、俺は耳に入ってくる言葉をちゃんと理解できているのだ。
しかも、それが日本語でないとはっきりわかる。
「そろそろつくぞ、タキ」
「ん?」
首をひねる俺が父の声に視線を上げると、巨大な塔のように見える建物が目に入った。
町に入ってからずっと見えていたが、こうまで巨大とは驚きだ。
「あれ、マンションか何か?」
「いいや、あれはこの『学園都市ウォンス』の由来となっている、『学園』だ。明日からお前が通う学校だな」
「は?」
「父さん、ちょっといろいろやることがあってな。明日から寮に入ってもらうから」
「へ?」
「まあ、海外留学みたいなものだと思って楽しんでくれ」
がはは、と誤魔化し笑いじみた反応をしながら俺の肩を叩く父。
色々と聞いてないんですけど──?
◆
「……という訳で、転入生のタキ君だ。みんな仲良くするように」
「タキ・ネヤガワです。よろしくお願いします」
やけに背が低い初老の教師──ピルポ先生に紹介され、俺は軽く頭を下げる。
その先では、なかなか個性豊かなクラスメートたちが俺を見ていた。
まずは俺と同じ姿をした人間。
長い耳をして美形揃いのエルフ。
髭を三つ編みにした年齢不詳のドワーフ。
猫耳を生やした猫人族に、鱗に覆われたリザードマン。
他にも半透明な人影や、ぱっと見は植木にしか見えない者もいる。
……なかなか国際的な面々。
ただでさえ若干コミュ障気味の俺なんだけど、ここでやっていけるんだろうか?
「質問!」
不安が湧き上がったその瞬間、しゃきりとした様子で手があがった。
そちらに視線を向けると、きらめく金髪に青い瞳の少女──おそらく人間族──がこちらを興味深げな眼で見つめている。
「はい、アリス君」
「タキ君の専攻科はどこですか?」
「そういえば、聞いてないね。どうなんだい? タキ君」
ピルポ先生にそう振られるも、俺は首をかしげるしかない。
朝に何もかもわからない状態でこの教室に案内された俺は、実は寮の場所すら知らないのだ。
もはや放任主義というレベルを超えて、置き去りにされた気がしないでもない。
「ふむ。この様子だと……まだ決まっていないようだね」
「決まってないというか、何も知らないというか、そもそも混乱中というか……いま、ここに自分がいることすらも、飲み込めてないんですよね」
俺の正直な言葉に、ピルポ先生がどこか優しげな目をする。
やめてくれ。そういう同情が詰まった視線は。さすがに悲しくなってくるじゃないか。
「しかし、まいったね? 専攻科が決まらないと、今後に差し支えてしまうね。普通は入学時に決めるものだが、何も言われなかったのかね?」
「ええ、何も」
待合室に通されたかと思ったら、父は軽い様子で「じゃ! 時々は様子を見に来るからな」と言い残して消え、その直後に部屋を訪れたピルポ先生によってここに連れてこられた。
あまりにもスムーズかつ強引な流れに、俺はただただ茫然と立ち尽くして現在に至っている。
「では、軽く説明しようかね──コホンッ」
咳払い一つして説明を始めたピルポ先生曰く、『ウォンス学園』には七つの専攻科がある。
すなわち……
──商売や経営を学ぶ『商人科』。
──貴族子息が法や領地経営を学ぶ『法政科』。
──様々な魔法道具の開発を目指す『錬金術科』。
──魔物討伐や遺跡探索の専門家を育成する『冒険者科』。
──魔法の研究と習得を主とする『魔術科』。
──騎士や兵士の予備役にもなる『軍事科』。
──それらのどれにも属さず独自の道を進む『自由学術科』。
……である。
本来は入学時にいずれかの専攻科の試験を受けるそうだが、俺は受けていない。
先生によると「好きなとこ選んだらいいんじゃないかね? ワイルドカードだね。お得だね」とのこと。
試験をスルー出来るのはありがたいが、あまりに適当が過ぎる。
「それで、どの専攻科が希望かね?」
「え、いま決めるんですか?」
「いま決めないと、君の今日の寝床は芝生の上になるけどね」
おっと、なかなか世知辛い話になってきた。
しかし、どの専攻科もピンとこない上に俺向きと思えるものがない。
なめるなよ、こちとら生粋の日本人だぞ!
「うーん……」
普通に考えれば、『商人科』か『自由学術科』だろうか。
「個人としては『冒険者科』がお薦めだけどね」
悩む俺に、ピルポ先生がにこりと笑って軽い様子で言う。
いやいや、冒険者ってあれでしょ?
ファンタジー小説に出てくる『なんでも屋さん』でしょ?
俺、魔物となんて戦えないよ? 超絶パンピーなんだから。
「ちなみにどうして?」
「だって君、一番興味ありそうな顔してたじゃない?」
……そりゃ、確かにちょっと興味はあるけど。
俺とて男の子であれば、「ファンタジー世界に異世界転移したら、冒険者は鉄板でしょ!」とか心の中ではしゃいじゃったりはしたけど!
「ま、とりあえずそこにしとけばいいんじゃないかね? 嫌なら後で変えたらいいんだし。ね?」
「あ、はい。じゃあ、そうします」
「だ、そうだよ、アリス君。同じ専攻科だから、あとで案内してあげてね」
ピルポ先生の言葉に、先ほど手を挙げた女子生徒がニコリと快活に笑った。
******
あとがき
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本作は『第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト』に参加中です!
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