第39話 なんか、強そうなの出てきたよ

 本格的に始まってしまった魔族の侵略。よく考えたら、これは僕のせいだった。いや、僕のせいじゃないな、イザベラさんのせいである。


 しかし、こうなっては、仕方がない。


 僕は、僕の財産を守るためにも少し頑張ることにした。国が崩壊しては、魔道書も読めないし、金があっても意味ないからね。


 ということで、僕は取り敢えず兄さんを探した。兄さんの魔力を追っていると、王都から北にある、ノースという街までやってきた。


 やはり兄さんは、騎士団としてその魔族が攻めてきたという、北へ向かっていたらしい。


 もちろん今度は、馬でなく、空を飛んでいったので、体調は抜群だ。


 しかし、案の定ピンチの兄さんを目の前にして、少し頭痛がしたね。


 同じ人の形をした敵が、住民を襲っている。そんな状況に投げ込まれていた。


 他にも、騎士団の人達が剣を持って戦っている。


「死ねーー!!」


 と、剣を持った人ーーおそらく魔族が、そう言って兄さんに襲いかかった。


 なので僕は、その魔族の剣を蹴り飛ばした。空中を舞って、それは、地面に突き刺さる。敵は僕を見て、兄さんも僕を見た。


「無事だったか、ムエルト!? お前なら大丈夫だと思っていたがな!」


「……」


 僕が兄さんに呆れていると、


「また、人間が増えた? 一体どれだけ増えたんだ?」


 とその敵が襲ってきたので、僕は適当に魔法を放って殺した。


 それからも、人だらけで鬱陶しかったので、一旦魔法で周囲を吹き飛ばした。


 悲鳴が上がってから、ガヤガヤとうるさかったその場は、静寂を取り戻した。


「おいおい、ムエルト。仲間まで一緒に吹き飛ばしてどうする? 敵を倒さないと」


 と兄さんが困ったように言った。


「死んでないんだから、いいでしょ?」


 そして、一時の静寂も束の間、開けたその空間に一人の男が現れた。


「南の方から莫大な魔力を感じたが、その魔力の持ち主がこんな子供だったなんてね」


 その銀髪の青年がそう言った。いかにも怪しいその瞳。


「何者だ?」


 兄さんがそう聞いた。


「僕は、魔界を統べる者ーーヴァイスハイトだ」


 彼は、清々しくそう名乗った。胡散臭い見た目にぴったりなその言動。


「まったく、キリがないね」


 僕がそう呟くと、銀髪の青年は僕を見た。


「ダルタリオスの魔力が消えた。殺したのは君かい?」


「違うって言ったら、帰ってくれるの?」


「そうだな、どっちにしろ人間は皆殺しだね」


 ヴァイスなんちゃらさんは、不敵な笑みを浮かべると、転がっていた剣を手に取った。そして、兄さんを無視して、真っ先に僕の元へと向かってくる。


「ムエルト! これを使え!」


 なんて言って、兄さんは格好つけながら、僕に向かって自分の剣を投げた。


 内心要らないかなと思いながらも、一応それを受け取った。


 そして、ヴァイスなんちゃら……長いから、ヴァイスは、上空から大きく剣を振り下ろした。


 僕はそれを剣で受け止め、そして跳ね返す。


 その勢いで、胸が大きく開かれた彼のそこへ、僕は魔法を打ち込んだ。彼は、後方に吹き飛び、そこらの壁に激突した。炎の中に崩れた瓦礫と共に、彼は埋もれていた。


「終わったか?」


 と、兄さんが。


「たぶん、まだーー」


 案の定、ヴァイスは勢いよく瓦礫から飛び出すと、また僕に向かってきた。その距離は一瞬で詰められる。彼の魔力は先ほどより増していた。どうやら、彼もまだ本気ではないらしい。


 また同じように振り下ろされた剣を、また同じように跳ね返そうとしたができなかった。


 重くのしかかるその剣が、僕に近づいて来る。僕は身体を横にずらし、彼の剣を下に滑らせてそれを避けた。続けて半回転し、彼の背後に回って蹴りを入れる。


 彼はよろけて地面に手を着いた。


「面白い! さすが、ダルタリオスを殺しただけはある。こんな気分になったのは、初めてだよ。正直、平和条約が破られて僕は嬉しい! だって僕は、ずっとこういうことがしたかったんだ!」


 ヴァイスはそう言って魔法を放った。僕はそれを魔法で撃ち返す。その衝撃で当たりに爆風が巻き起こった。


 そして、その爆風の中から、彼の拳が飛んできた。それは見事に僕のガードした腕にヒットした。殴られた僕は、後方に吹き飛び焔に包まれた瓦礫に突っ込んだ。


「ムエルトーー!! 大丈夫かっ?!」


 兄さんの声がした。


 まったく、面倒だと思った。


「まだ死んだりしないだろう? 僕ともう少し、遊ぼうか?」


 そんな声も聞こえた。


 僕は、纏わりつく瓦礫を魔法で吹き飛ばした。炎も消え、足場もよくなった。


「ムエルト!」


 僕は、そう呼ぶ兄さんを見た。


 まったく、兄さんはいつも邪魔な場所にいるね。


「さあ、続きを始めようか?」


 ヴァイスは、また不敵な笑みを浮かべている。僕は、そんな彼と距離を詰めた。そして、魔法を放ち、視界を眩まし、そして、思い切りその顔を殴った。


 彼は、砂埃の中を吹き飛んで、地面を転がった。


「なんか、スッキリした」


 僕は、一言そう呟いて、それから地面に転がっている彼を、思い切り遠くに蹴飛ばした。


 そして、兄さんから離れた場所で戦闘を開始した。住民が僕たちを見て悲鳴をあげたりしていたが、しばらくすると、静かになっていた。

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