第36話 犯人を捕まえろ

「行くぞムエルト!」


 ボクハ、街のパトロールをシテイル。


 人々の平和を願い。そして、安全な日々を過ごして貰うために……面倒くさ! どうして僕がそんなことしなくちゃいけないんだよ。


 騎士団ーー彼らのモットーはそれである。僕のモットーとはかけ離れている。到底僕の所属するべき組織とは思えない。しかし、仕方がない。賄賂は受け取ってしまったのですから!


 父のコネによって、ある程度の地位まで上り詰めていた兄さんと、ただ当てもなく、街をぶらついていた。


 兄さんのその腰から提げられた剣。その姿は、まったくもって様になっていなかった。


「いやー、ムエルトが居てくれると心強いな!」


 と、そんな兄さんがウキウキで喋った。その横で、僕は沈む気持ちを、父さんに貰った賄賂を思い出して、気分を上げた。


「兄さん。パトロールは、もういいんじゃない? 街は、ほら、見ての通り平和だよ?」


 と、指差した先で、たまたま強盗が発生した。


「あ」


「事件発生だ!」


 と、兄さんが駆け出す。


 そして、兄さんがやられて、僕が魔法で解決。


「今日も街の安全を守ったな!」


 満足気に兄さんは言った。


 そうーー僕の日常は、最近こんな感じになってしまった。


 そして、騎士団本部に戻った僕たちに、任務が告げられた。とある村で救援信号が放たれたので、その村へ行って状況を把握してこい。的なことを、騎士団長が言っていた。


 ここ最近はこんなことが続いている。いつも、駆けつけると、すでに殺人が行われた後で、何の収穫もなく死体を回収して終わりという感じだった。


 きっと今日も、無駄足で終わるだろうね。


 という訳で、僕は、兄さんと、その子分たちと共に、暇つぶしをしに向かった。


 僕たちは、この国の最北部に位置する村へとやって来た。そこは、僕の住む王都と違って何も無い場所だった。


 すごく遠かったし、馬に乗るのも疲れた。飛んでいけばいいものを、この人たちはなぜかそうしない。なので、僕もそれに倣った。


 ポツン、ポツンと並ぶ家。というか、家だったもの。今は、ボロボロに崩れ果てていた。


「またか……ひどいな。一体誰がこんなことを」


 兄さんは、涙を流していた。いちいちリアクションの大きい兄さんだ。


「誰かいますかー?」


 そう言うのは、兄さんの部下の女性。兄さんと違って、その格好は、様になっていた。


 他の部下たちも、それぞれバラバラになって家屋を探索している。


 僕も、テキトーに歩いて回った。


「騎士団の方かね? 助けておくれ、お爺さんが挟まっておるんじゃ」


 よぼよぼのお婆さんが、僕の前に現れてそう言った。


 えー、面倒くさいな、なんで僕?  


 とか思ってたら、


「きゃぁぁぁーー!」


 と、いいタイミングで、後ろの方から誰かの悲鳴が聞こえた。


「なんだ? みんな、戦闘準備!」


 兄さんのそんなでかい声も聞こえてきた。


 これは丁度いいということで、


「ちょっと待って、誰かの悲鳴が!」


 とかわざとらしくお婆さんに告げて、その場を立ち去った。


 兄さんたちを見かけたので、後を追うと、その現場には、泣き喚く小さな女の子と、赤い瞳で女の子を睨みつけている男が居た。


「待てっいい!! その女の子から離れろ!」


 兄さんは、腰から剣を抜いてそう言った。部下たちも、それに倣う。僕は、面倒なので、何もせずにただ眺めていた。


「人間か?」


 その赤い目の男性は、そう呟くと僕らの方に視線を向けた。


「お前が連続殺人の犯人か!?」


 兄さんがそう聞くと、そいつはニヤッと笑ってその女の子を魔法で瞬殺した。それは、一瞬の出来事だった。


 そして、言った。


「うじゃうじゃウジのように沸きやがって、お前らも纏めて殺してやるよ」


 そして、襲いかかってきたその男。


 順番に、五人は存在していた部下たちが、血を空中に撒き散らして、一瞬で倒れた。


 残ったのは、みんなに守られて残った兄さんと、後ろのほうに居た僕だけ。


「貴様っ!! なぜこんな酷いことをするんだ!」


 兄さんはそう怒鳴った。


「なぜ? 殺したのは、お前たち人間が先だろう?!」


「どういう意味だ?」


 兄さんがそう聞いた。すると、そいつは、語り出した。


「俺の大好きだったイザベラ様……彼女の魔力の反応が消えたんだ。人間の中の誰かが、イザベラ様を殺した」


 彼はそう言った。僕の知り合いと同じ名前だなーとか思いながらも、黙って聞いていた。


「誰か?」


 兄さんが聞いた。


「誰か分からない。だから、この国の人間全員、皆殺しにするという判断が下った」


「なに? そんな無茶苦茶な!?」


「無茶苦茶ではない。俺たち魔族にとっては簡単なことだ」


「魔族、だと? お前は人間じゃないのか?」


 兄さんは驚いてそう言っている。


 そういえば、僕の知ってる魔族の彼女も、イザベラって名前だね。でも、まさかこの人の言ってる人とは違うよね? 


「俺は、イザベラ様の配下だった魔族のダルタリオスだ」


「本当に魔族? あれは、想像上の生き物では無かったのか?」


 兄さんは、さっきから驚いた顔しかしてない。


「想像上だと? 確かに、そう思うのもおかしくは無いだろう。好んで人間界に行っていた魔族は、イザベラ様ぐらいだったからな。俺が止めていれば……ああーーイザベラ様! イザベラ様! 会いたいよ! イザベラ様の魔力の反応が消え去ったと知った時には、俺は、俺は! 早く会いに行っていれば良かった! くそっ! 死ねーー!!」


 と、男は、兄さんに襲いかかった。黒い魔法を放つ。


「俺だって、伊達に騎士団やってる訳じゃない!」


 と、兄さんはそれを剣で受け止めようとしたので、


「うわぁぁあああ! 何するんだよムエルトぉーー!!」


 僕は兄さんの首根っこを掴んで後ろに投げた。そして、その魔族の放った魔法を、拾い上げた剣で跳ね返して、その男に詰め寄った。


 そして、彼の首を剣で刎ねようかと思ったが、殺す前に少し気になったので、まさかねと思い、一応確認のため、念のため聞いてみた。


「ねぇ、そのイザベラさんってもしかして、長い黒髪で赤い目をした女の人?」


「い、いつの間に?」


 と言って、彼は僕から距離を取った。


 そして、


「そうだ。なぜ、お前が知っている?」


「へ、へぇー」


 ーーそうだった。こいつが言ってるのは、僕の知ってる、僕が殺したイザベラさんだった。

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