第37話 まさかまさかの、犯人は僕だった

「なぜだ? なぜ知っている? まさか、お前ーー」


「いや、違う。僕は、彼女にお世話になったんだ」


 僕はそう言った。


「イザベラ様にか!?」


「そう。かなり、仲が良くてね」


 ーー嘘だけど。


「なんと、羨ましい奴だ!」


 魔族の男は、僕を凄い羨望の眼差しで見つめていた。


「そんなことは、まあどうでもいいんだけどさ。イザベラさんが死んだってこと、他の魔族も知ってるの?」


「ああ、もちろん、もう全ての魔族に広まっている。すでに、何人か人間界に降り立っているはずだ」


 ーーだよね。


 だったら、こいつを殺したとしてももう手遅れか。


「それにしても、なんでこの国なの? 人間なら、他の国にもいっぱい居るでしょ?」


「イザベラ様は、このノスタルジア王国に暫く滞在すると言って、魔界を去った。だから、犯人は必ずこの国のどこかに居るはずだ。そいつを見つけ出すのは難しいだろうから、国の人間全員殺そうという結論に至ったのだ」


「なるほどね……、もし、その犯人を見つけたらどうする?」


「拷問しまくって、痛ぶって、なぶり殺して、ぶっ殺して、ぶっ殺す!」


「あははは。大変だね」


 僕が適当にそう言うと、魔族の彼は表情を凍らせた。


「イザベラ様の知り合いだからと話しすぎたな。しかし、お前も人間だ。俺の殲滅対象に入っている。お前が殺したかもしれんしな。それに、今さっき私情も入った。俺はお前に嫉妬している」


「それは、困ったね」


 僕と魔族の彼が対峙していると、


「伏せろ! ムエルト!」


 と、兄さんが死角から魔法を放ってきた。


 それを、軽々とかわす僕と、魔族の彼。


 そして、彼は僕を見て言った。


「ということで、お前も纏めてここら一帯を吹き飛ばしてやろう!」


 そう言った魔族の彼から、強大な魔力が溢れ出した。本当に、ここら辺をすべて吹き飛ばせそうだ。


 黒い魔力の波が、この村全体を覆っている。


 そして、魔族の彼を中心に、魔法が広がった。


 僕は、面倒なので、駆け寄ってこようとした兄さんを拾って、空を飛んだ。


「な? 何してんだよ、ムエルト! 逃げるのか?」


「だって、あんなの相手にしてたら、疲れるし。面倒くさいんだもん。だから、戻って応援でも呼んできて、そいつらに任せよう」


 なんかさっきから、頭が痛いし、気持ち悪い。だから、早く静かな場所に行きたいんだよね。


 実は、絶賛、馬に揺られて馬酔い中なんだよね。


「せめて、残った村の人たちも連れて行こう!」


「無理だよ、定員オーバーだ」


 というわけで、うるさい兄さんを気絶させて、というか、空を飛んだせいか、気絶させる間もなく兄さんは気絶した。


 そして、道中僕は思った。


 イザベラさんーーあなたはとんでもない面倒を残して逝ってくれましたね、とーー。




 ーーー




 そして、王都に戻ってきた僕たち。


「魔族が、攻めてくるですと?! それは、誠かね?!」


 白髪の無精髭を生やした、お爺さんがそう言った。そんなに大きくなくても良くない? と思うくらいの、椅子に腰掛けて、そのピカピカ反射している頭を輝かせていた。


 彼は、この国の王様。


 そして、その直属の兵士というのが、騎士団。


 本部に戻って、兄さんが状況を騎士団長に伝えたところ、即王様達との会議が始まった。


「はい。北の村へ訪問した際、魔族と名乗る人物と出会いました。彼は、人間を滅ぼすと、そう話していました」


 兄さんは跪いて報告した。僕も、隣で跪かされている。


「それで? その魔族は殺してきたのじゃろ?」


「えっと……、実は……」


 と、兄さんは僕を見た。そして、逃げてきました。と言いかけようとしたので、


「その魔族が、特大魔法で村を吹き飛ばそうとしましたので、生き残った村人と、そして辛うじて生き残った兄さんを連れて、やむをえず撤退しました」


 と、僕が報告した。


「ちょ、おま、ムエルト、なんだよその嘘は……」


 僕の耳元で小声で話す兄さん。僕は無視した。


「では、その魔族はまだ生きておると言う訳じゃな?」


「はい」


 僕は俯いたままそう言った。


「確かに、命を守るという判断は正しいのぉー。我が国の住民を助けてくれてありがとう。感謝する。顔を上げよ、名はなんと言う?」


 僕は、言われた通りに王様を見た。


 そして、


「ムエルト・ヴァンオスクリタです」


 と名乗った。


 すると、王様は僕のことをまじまじと見て、


「お主が、あのヴァンオスクリタ家の次男坊か! 父君から話は聞いておるぞ! 想像よりイケメンじゃの……」


 そう言った。


 それから、咳払いを一つした。


「して、その魔族は、なにゆえ人間を滅ぼすと申しておった?」


 王様が僕に聞いてきた。


「……増えすぎた人間を、減らすとかなんとか、そう言ってました」


 適当にそう答えた。だって本当のことを言ったら、僕のせいにされて牢獄に入れられるかもしれないし。そうなったら、本も読めない。


「なんと、身勝手な?! しかし、魔族とは、平和条約を結んでおったはずじゃがの」


 王様がそう呟いたタイミングに、一人の青年が部屋に走って入って来た。


「た、大変です! 北側の正門が破られました! 何者かが、大軍を引き連れて攻めて来たと! そう報告がありました!」


「な、なんじゃと?! もしや、その魔族か?」


「このままでは、この王都まで攻め入られるのも時間の問題かと……」


「大変です! 北の方角から、強大な魔力の持ち主が一人、すごいスピードでこちらに向かって来ています!」


「な、な、なななななんああああ!!!!」


 王様は光った頭から煙を上げて、倒れた。


「大丈夫ですか!!」


 と、その青年たちに囲まれる王様。


「お前たち、各班に別れて北へ向かえ! 絶対にこの王都に侵入さーー」


 騎士団長の言葉を遮って、何かが落ちてきた。


 頭上に舞う、瓦礫ーー。


 上から何かが、天井を破って落ちてきた。


 砂埃が消えて、露わになっていくその人物。


「探したぞ、小僧。逃げるなんて、卑怯だな」


 赤い瞳がこちらを捉えていた。


 僕の目の前に現れたのは、さっきの魔族だった。

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