第42話 僕が死ねばすべて解決するらしい

「ムエルト・ヴァンオスクリタ。お前を死刑とする」


 というわけで、三日間大人しく牢屋に閉じ込められていた僕に告られた刑は、死刑という極刑だった。


「王様! それは、酷すぎます!」


 兄さんがそう言った。


「すまんが、この三日で彼への罪は増える一方じゃ。住民から色々苦情が寄せられておる。魔族と名乗る者を、生かしておくわけにはいかんのじゃよ」


「そんな……」


 兄さんが僕の前でそう落ち込んでいる。


 僕は、王宮内にある、真偽の間にて手錠を嵌められ、円形の広間の中心に立たされていた。


 僕を見下ろすようにして、知らない人達が座っている。


 そこには、例の騎士団長もいた。


「王様! 提案がございます」


 案の定そいつが手を挙げた。


「なにかね。ノイズ・バルト君」


 騎士団長は、席を立ち僕の前にやってきた。


 そして、


「彼には、兄がいます。私はどうもその兄も疑わしくてかないません。その疑惑を拭うためにも、彼の兄に死刑を執行して貰えばよろしいかと」


「ふざけんな!!」


 と、兄さんは席を立ち降りてきた。


「俺に弟を殺せと? あなたはそう仰るのですか?」


「そうだ。そうすれば、君への疑いは晴れる」


 兄さんは騎士団長の胸ぐらを掴んだ。


 すると、騎士団長は剣を抜くと、それを地面に投げた。そして、兄さんを突き飛ばして言った。


「拾いたまえ。そして、それで弟の首を刎ねろ」


「そんなことはしません!」


 兄さんはそう言った。


「ならば、君も弟と共にあの世へ送ってあげよう。いいですね? 王様」


 そう騎士団長は、王様を見上げた。王様は、困ったように僕から目を逸らして答えた。


「ノイズ君。そこまでにしておかぬか? ムエルト君の死刑は、専属の死刑執行人にやらせればよいじゃろう。それに、お兄さんの方はーー」


「王様、私との約束をお忘れですか?」


 不敵な笑みを浮かべた騎士団長のその言葉に、王様は黙った。


「あ、ああ。君の好きなようにするとよい」


「ふふっ。ははははは! ……おっと失礼。これは、発作です」


 王様のその言葉に、彼は馬鹿みたいに笑った。


 そして、騎士団長は僕の耳元でこう呟いた。


「私は、ヴァンオスクリタ家が嫌いでね。君たちみたいな金持ちで綺麗な奴らを見てると、俺、すっげー殺したくなるんだ」


 騎士団長は僕を見てニヤリと嗤うと、落ちていた剣を兄さんの足元まで蹴飛ばした。


「さあ、早く。でないと、君も死刑にしてしまうぞ」


「構いません。しかし、弟の死刑は決して許さない」


「君のような、親のコネでのし上がっただけの、弱い人間の言うことを誰が聞くと思う? お得意の金で解決するか? しかし、君たちの両親はまだ隣国から帰ってないようだよ?」


「俺が、なんとかする」


「なんとかする? できないだろう。所詮、金持ちなのは君達の親。子供の君らにはなんの価値もない。金魚のフンだ」


「なに?」


 睨み合う二人。


 面倒な騎士団長だ。


「さあ、早く殺せ。ユミト・ヴァンオスクリタ!!」


 騎士団長の声が響いた。


 兄さんは動かない。


「兄さん。僕を殺せ」


「は? 何言ってるんだよムエルト?」


 面倒だからと、すべて魔法で吹き飛ばしてしまえば、今この場の面倒は凌げるだろう。


 でも、それじゃ何も解決しない。


 この国の住民には僕が魔族だという嘘が広がっているのだからーー。


 僕の家族である兄さんも、母さんや父さんまでも疑われるかも知れない。そしたらこの国にいられなくなってしまう。


 僕はそれは嫌だ。僕は何気にこんな国でも気に入っているのだ。なぜなら、魔導書を書く作者がこの国には沢山いるからだ。彼らとお別れしたくない。


 ならば、兄さんに僕を殺させてその疑惑を拭うしかない。


 しばらく死んだふりをして、ことが収まったらその後またこっそり、兄さんたちとこの国で暮らせばいいのだ。簡単だ。


 ということで、


「大丈夫。僕を殺すんだ」


「なにを馬鹿な……? ムエルト、お前正気か? 死ぬんだぞ? お前がいくら傷が治るからって、死なないわけじゃないだろ?」


「……」


 いや、死なないんだけどね。しかし、今この場でそれを言うわけにもいかない。


「俺は、お前が好きだ! 大好きだ! 可愛い弟なんだ! ずっと……一緒にいたいよ! だから、殺すなんてできない!」


「子供じゃないんだから、泣くなよ。いいから、僕を殺して。それだけで兄さんの疑いは晴れるんだよ?」


「それだけ? お前、俺の気持ちが分からないのか? 弟を殺せと言われて、弟からも殺してと言われる、それが、『それだけ』なわけないだろ?!」


 兄さんは、相変わらずの優しい目で僕を見る。そして、泣いている。


 まったく、面倒くさい兄さんだ。


「もういい。不快だ。君たち、仲がいいんだな。私はそんな兄弟愛が見たいんじゃないんだよ! もっと、お互いがお互いを傷つけ合う、そんなものが見たかったんだよ」


 騎士団長は血走った目で僕を見た。そして、剣を拾い上げるとそれで僕を殴った。


 血が床に飛び散る。


「何をするんですか?!」


 兄さんが騎士団長の腕を掴んで言った。


「ここに居る誰も私に逆らえない。逆らうのは、金持ちのお前達だけだ。さあ、私の可愛い部下達、彼らの死刑を執行しなさい」


 騎士団長の命によって、その部下たちが魔法を展開した。


「やめろ、お前たち!」


 兄さんが止めるが、誰も従わない。


 従う筈ないよね。


 こうなってはもう、僕も反撃するしかない。

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