第43話 心からそう思えたら
僕は、手錠を外して魔法を展開した。
この手錠が、あの手錠じゃなくてよかったと思った。
そして、僕に放たれたその魔法を魔法で打ち消した。
「やはり抵抗するか! 分かっていたがね。予想の範囲内だ。傷が治るバケモノを、手錠一つで従わされるなどと思っていない。みな、例のものをかけろ」
騎士団長は右手を挙げて何かを合図した。すると、天井の幕が開いた。
眩しい灯りが一気に注がれる。僕はその眩しさに一瞬目が眩み、そしてその後、目が焼きつくほど痛くなった。
「はなてー!!」
そして、次々と打ち込まれる魔法。
僕は、目の再生が追いつかなかった、辛うじて見えるようになった視界も一瞬にしてまた暗闇に戻る。その繰り返し。
「はははははは! この魔法は、敵の視界を奪い取るためだけに作られた国家魔法だ。機密事項だから、魔導書にも載ってない秘密の魔法なんだよ。だから、いくら魔族の君でも抵抗の仕様がないだろう?」
「兄さん?! 無事か?」
返事がない。
天井に向かって魔法を放っているが、なにも変わらない。
それに、無闇に魔法を撃つわけにもいかなかった。なぜなら、兄さんに当たってしまうと思ったから。
どうしたらいいのか分からない。
もう、面倒くさい。
「どうする? 視界を奪われ、ボロボロにされてーー。それにしても、君がいかに化け物かが分かったよ」
腹の立つ騎士団長の嗤い声が聞こえた。
腕が飛んでも、足が飛んでも、胴体が割れても、目を焼かれても、頭が飛んでも、しかし、僕は死なない。
やはり僕は、まだ生きたいとは思えないらしいね。
それは、そうだ。
こんなの、もう疲れた。
もう、どうでもいい。
全部どうでもいい。
もう、いやだ。
もうやめたい。
終わりにしたい。
逃げたい。
やめたい。
死にたい。
どうしょう? 兄さん。
その時、攻撃が止んだ。
いや、攻撃は止んではなかった。
「ムエルト……大丈夫……俺が」
暗闇で兄さんの声がした。ぼやけて見える兄さんは、僕を包み込むようにして攻撃から守ってくれていた。
「兄さん? ダメだよ。どいてよ! 僕は死なないんだ。僕、不老不死でさ、どれだけ刻まれたって、どれだけバラバラになったって死なないんだよ! だから、どいて!」
いつもは、弱い兄さんのくせして、離そうと思っても離せない、そんな強い力で僕を抱いていた。
「兄さん! やめろ! どけよ!」
「全員やめーーーー!!」
騎士団長がそう言った。そして、なぜか攻撃は止められる。
「これだよ、これ! こういうのが見たかったんだよ! いい瞬間だ! 少し待ちましょう!」
「兄さん?」
兄さんは倒れた。
光は消えて、僕の視界は戻った。
僕は、兄さんを起こして揺すった。
まだ、大丈夫ーー。
目から血を流した兄さんの瞼が少し開いた。
「……ムエルト、大丈夫か? ……見えないから……教えてくれ」
大丈夫ーー。
「兄さん、僕はすごく元気だよ。兄さんは……大丈夫。兄さんも、まだ、大丈夫……死なないよ」
「はははははは!! どこが? そんな、ボロッボロのボロ雑巾みたいになっちゃってー! さすがは、金持ちの家の子だなあ!?」
「兄さん、僕が全部終わらせるよ。そしたら、家族みんなで隣国へ引っ越そう?」
大丈夫ーー。
「……たのしみ……だな」
兄さんはまだ息がある。
さっさと片付けて、病院へ運べばなんとかなる。
絶対なんとかなる。
僕が助ける。
こんなところで死なない。
僕も、兄さんも。
死んでやらない。
僕は、天井に隠れていた、魔法使いを殺した。
これで、僕の視界は奪われない。
「くそ! やれ!」
そして、放たれる魔法。
僕も魔法を放つ。
いつの間にか、この空間には多勢の魔法使いが集まっていた。
ざっと、100人くらい。いや、もっといるかもしれない。
四方八方から魔法が飛んできている。兄さんを守りながら戦うのは難しいが、不老不死の僕は攻撃を避ける必要がないから、その分楽だ。
僕は、自分の身体を盾にしながら兄さんを庇い、そして、魔法を放っていた。
この世界に防御魔法があればいいのにと思った。
そして、続く攻撃。
僕は倒れた。
でも、大丈夫。
僕は不老不死だから。
「は?」
しかし、なぜか僕は倒れたまま起き上がれなかった。
いつもなら、そうなってもすぐに回復して起き上がれる力が湧いてくるのに、なぜか、苦しい。そして、痛みも消えない。
「あとちょっとだ! みな、がんばれ! 魔族を殺せ!」
誰かのそんな声も、遠のきそうになる。
何かがいつもと違う。
いつもなら、意識もすぐ回復するのに、なぜか変わらない。
このままじゃ、死んでしまう。
そしたら、兄さんを守れない。
兄さんともう一度、話したい。
くだらないいつもの勝負だって、今日はまだしていない。
僕はまだ死にたくない、今死ぬわけにはいかない。
ーーーーえ?
死にたくない?
僕は、死にたくないと思ってしまったんだ。
こんな、肝心な時にそんなくだらないことを思っていたなんて僕はとことん使えない。
死にたい、死にたい、死にたい、死にたい。
だめだ……傷が治らない。
思ってるのに、ちゃんと、死にたいって思ってるのに。
僕の傷は治らない。
痛い。
苦しい。
辛い。
このままでは、兄さんまで死んでしまう。
「兄さーー」
僕の視界に、飛ぶ魔法。
それは、僕を超えて兄さんに当たった。
そして、飛び散る赤ーー。
「兄さん!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます