第41話 先のことは考えるべきだが、そうできない時もある

「そいつは、魔族との戦闘の時に、俺の家をめちゃくちゃにした! 助けてくれと頼んでも無視をした! そんな奴にその賞は相応しくない!」


 誰かのその言葉に静まり返る会場。それから、その声に賛同する者も出てきた。ざわざわと騒ぎ出している。


 内容はどれも僕への悪口。


「こいつに、娘を殺された」


 だとか、


「私も、この人が意味もなく放った魔法で夫が死んだわ! 辞めてって言ったのに」


 そんなことしたかな?


 その後も似たような会話が続いた。


 確かに、魔族との戦いで魔法は沢山放ったね。その間に、地上に居た人達に当たったりもしたかもね。


 それに、そういえば、僕が傷を治るところを見られたので、その人達は殺したかな? その家族だったのかな? 気がつかなかったや。


 まさか、生き残りが居たなんてね。面倒だからって、適当にやったのがダメだったかな。


「みな、落ち着くのじゃ、彼は勇敢な騎士団の兵士。そのような住民を危険に晒すような闘い方はせんじゃろう」

 

 王様がそう言った。


「そうですよ! 俺の弟は……確かにちょっと乱暴なところもあるけど、優しいんですよ! たまに!」


 と兄さんが。


 それ、フォローしてるの?


 すると、騒ついた観衆の中から、また声が上がった。


「いえ、王様。それだけではありません。彼は、人間じゃなく、魔族ですよ。なぜなら、俺は見ましたからね、彼の吹き飛んだ腕が魔族と同じように、治る瞬間を! そんな、奴が人間といえますか?」


「そうだ、そうだ! 儂も見たぞ! 傷が一瞬にして治っておった! 人間じゃないんだ! こいつは、魔族の仲間だ!」


「そうだ! それなら、納得がいく! 同じ人間とは思えないくらい、冷たい奴だった!」


 結構面倒な状況になってきた。声が鳴り止まない。なんなら、増えてるし、騒ぎも大きくなってきた。


「どうなんだよ?!」


 人々の視線が僕に刺さった。


 困った。


「人間だと、証明してみろ!」


 なんて声も上がった。王様や、騎士団の奴らも疑惑の目で僕を見ている。なにせ、僕は人望がないからね。


 初めて、もう少し人に優しくすれば良かったと思った。こんな面倒になるくらいならね。


「確かに、私も見た。後で問い正そうと思っていたが、目撃者が他にも居たとはな。これでは収拾がつかん」


 そう話したのは騎士団長だった。


 その言葉に王様も固まっていた。


「誠か? ムエルト・ヴァンオスクリタよ」


 誠か? だって? そんなこと言われたって、証明する術なんてないよね。


「いや……僕は人間です」


 そんな、面白い発言を自分の口から発する日が来るとは思っていなかったよ。


「では、傷が治ったことへの言い訳は? 君が人間であるというのならば、今この場で腕を切ってみせろ」


 騎士団長ーー僕は、騎士団に入った時から彼が苦手だった。何かと、僕への当たりが強かったからね。


 そして、今もこうやって面倒なことを言ってくる。


 いや、本当どうしよ?


「ムエルト……大丈夫。俺がなんとかしてやるよ」


 兄さんが僕の耳元でそう言った。


「騎士団長。彼は正真正銘私の弟、幼い頃から普通の人間です。決して、魔族などではありません! 今まで一度もそんなことは無かったし、きっと何かの見間違いです!」


「ユミト・ヴァンオスクリタ。君は私の目を疑うと? 私の証言を疑うと言うのか?」

 

「いえ……そうではなくてですね。私はただ……」


 と、兄さんは黙った。さすがに無理だな。


 そう思っていたら、


「俺の弟は、そんな悪人じゃない!」


 兄さんのその大きな声に、静まり返る会場。


 僕もびっくりした。


 すると、


「そいつも、魔族だ! 兄ならばそうに決まってる!」


「そうだな! ここまできたら、家族みんな怪しいぞ!」


 住民共がそうほざいている。


「だそうだ。どうする? 君が証明する方法はただ一つ。この場で腕を切るだけ。なに、切り落とせとは言ってない。ただ数滴血を流すだけでいい。簡単だろう?」


 騎士団長はそう言って嘲笑うように僕を見た。そして、彼は鞘から剣を抜いて僕に差し出している。


 そんなに知りたいなら、教えてあげよう。その後のことなんて、こいつらの頭には考えが浮かんでいないようだ。


「そうですね。簡単です」


 僕は、騎士団長に差し出されたその剣を奪って、腕を切ろうとした。


「やめろムエルト!」


 なのに、兄さんが、僕の動きを止めた。


 すると、それを見た騎士団長が兄さんにこう言った。


「二人を牢屋へ。そして、調べろ。多少の暴力は許容する」


 二人? だって? 


 もしかして、その暴力というのは、かつて理事長が僕にしたみたいなあれをしようしているのか?


 僕はどうでもいいけど、兄さんにそんなことが耐えられるわけない。


「仕方ないな、兄さんは」


 僕は、兄さんの手を振り解いでその剣で腕を切った。


 ポタポタと流れる血と、閉じていく傷口。その光景に、うるさかった会場が静まり返った。


「ほら? 治りましたよ? 兄の反応を見てください。これが、僕と同じ魔族に見えますか?」


 僕は、すべての誰かに向かってそう言った。


 すると、また騒つきだして、怒号や悲鳴が飛んだ。


「ムエルト……なんだよ、それ?」


 これは、完全に僕の落ち度だ。もう少し不老不死として慎重に生きるべきだった。


 兄さんの驚いた顔に、なぜか胸が痛くなった。


「正体を現したな、ムエルト・ヴァンオスクリタ! こいつを牢屋へ入れておけ」


 騎士団長はそう言った。

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