第40話 好奇心と探究心は周りを見えなくする
そして、それからも攻防は続いた。ある程度、力を出しても死なない相手は初めてだったので、僕は何気に楽しかった。
僕は、面倒でも楽しいことならするんだよね。
彼は本当になかなか死なない。
僕と同じで傷が治るらしい。そういえば、イザベラさんもそうだったね。魔族はみんなそうなのかな?
これまでに、魔導書で読んだ魔法を試せる機会なんて、滅多になかった。でも今は、何度でも起き上がるゾンビが僕の相手だ。ある程度、皮膚のかけらを残しといてやれば、復活してくれる。
だから、沢山魔法を試したんだ。
それが、まあまあ楽しかった。僕も僕で、魔族からの攻撃を、もろに受けて、腕を損傷したり、血がそこらから、吹き出したりなんかしてたけど、気にせずに遊んでいた。
そして、なんだかんだ、魔法の打ち合いをしているうちに、人の多い場所まで来てしまっていた。大勢の視線が僕たちに集中していたらしい。視界に人が入るまで気が付かなかった。
「遊びは終わりにしないかい?」
ヴァイスがそう聞いてきた。
「そうだね」
気づけば街が半壊しているが、魔族のせいにしておく。
「お互い本気で行こうじゃないか。最後に聞きたい。名はなんという?」
ヴァイスは攻撃の手を止めてそう聞いてきたので、僕もその手を止める。
そして、
「ムエルト。君は、ヴァイス……なんちゃらさんだね。覚えておくよ」
なんちゃらさんは、くすくすと笑ってから、
「ヴァイスハイトだよ」
と力強く名乗った。
そして、お互い最大の魔法を展開した。僕らを中心に広がる魔力の円。それが、ぶつかり、衝撃波が広がった。家屋を投げ飛ばし、燃えていた炎が消える程の突風が吹き荒れた。
僕と、彼の魔法が同時に放たれた。
轟音と共に、爆風が広がった。
そして、視界がクリアになるころ、目の前に広がったのは陥没した地面と、その中心に倒れているヴァイスハイト。
「ーーガハッ!!」
そう言って血を吐き出した。それから、嬉しそうに微笑んだ。少し、気持ち悪いと思ったね。
「ムエルト、僕はきっとお前のことを忘れないだろう。認めるさ。お前は強い。さあ、殺せ」
そして、彼は諦めたように天を仰いだ。
銀髪の彼の瞳に、僕の青い魔法が映っている。
「ねぇ、一つ、提案なんだけどさ」
「ーーなんだ? なぜやめる?」
僕は彼に翳した手を下ろした。
「君、魔界を統べる者だとか、なんとか言ってたよね?」
「ああ、これでもね」
「じゃあ、やっぱり君が一番強いんだね?」
「そうだよ。これでもね」
僕は、彼を殺してしまうことをなんだか、勿体なく感じた。面倒なことは嫌いだけど、楽しいことなら残しておきたい。今後のためにもーー。
でも、彼以外の弱い魔族と戦うのは面倒だから嫌だ。
だから、
「じゃあ、君を見逃す代わりに、一旦引いてくれる?」
僕は、そう頼むことにした。それならば、僕は面倒を犯さずに、楽しみも取っておける。僕の長い人生に置いては、こんなにも有能な的当てを失う訳にはいかないしね。
彼は驚いた顔で僕を見た。
そして、
「それは、無理な頼みかもね。彼女の仇のために、人間を滅ぼすと、皆と約束したから」
そう言った。
「なら、君を殺さないといけなくなるよ?」
彼は黙った。
「正直僕は、君と仲良くしたいね。だけど、君達が人間を滅ぼしたいっていうなら、僕は君を殺さないといけない。滅ぼすなとは、言わない。ただ、今じゃなくて、もう少し後にして欲しいんだ」
「後?」
「そうだなー……今から80年後くらい? そしたら、好きなように滅ぼしていいし、その時なら僕は邪魔をしない」
「なぜ、80年なんだ?」
「80年も経てば死んでるから」
「お前がか?」
「いや、僕の兄さんが」
「は?」
「だから、80年後にまた来てよ。それまでは、一時休戦ってことでさ」
ヴァイスハイトはしばらく黙ってから、分かったと素直に頷いてくれた。
やっぱり、暴力で支配するのが一番簡単かもね。
ーーーーーーー
という訳で、この国に攻めてきていた魔族たちは、ヴァイスハイトの命令によって一時退散した。
僕との約束、守るか知らないけど、80年後に彼らにまた会うことになるだろう。その時に、また遊ぼうと思う。
それまでは、僕もしばらく家族ごっこを続けることにする。何気に気に入っているんだよね。今の家族は。
そして、その後、北の住民たちは王都に避難してきた。なにせ、魔族のせいで街が崩壊してしまったからね。
そういえば、僕は王宮に呼び出された。
なんでも、魔族と戦った勇敢な兵士達に表彰を送るだとかなんとか。
街の住民も大勢集まっていた。
もちろん兄さんも居たし、他の騎士団も沢山居た。
人人人、って感じで、この国の住民みんな居るんじゃないかってくらい多かった。
僕の父さんと母さんも招待されたんだけど、父さんは仕事で隣国だし、母さんもそれに着いていっていない。兄さんは残念がっていたけど、僕的には居ない方が良かったね。なんか、うるさそうだし。
僕らは、王宮の外にある広場でその順番を待っていた。なぜ面倒くさがりの僕がこんな場所に来たかというと、賞金が貰えるからだ。
「次、ムエルト・ヴァンオスクリタ。前へ」
と呼ばれた。そして、起こる拍手。
僕はなんとなく、笑顔を作ってから、なんとなくお辞儀をしてその場を凌いだんだけど、なぜか悲鳴があがった。
「お、お前は……! 王様! そいつはダメです!」
観衆の中からそんな声が沸いた。誰か知らないけど、何か叫んでいる。
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