第7話 天気の良い日には、面倒が訪れる

 不老不死──。


 不老不死になることは、僕にとってそれは、終身刑に近いものだと思っている。


 そんなものを、どうして受け入れられるだろうか? 


 だから、僕は何も考えない。敢えて触れない。忘れる。


 それしか、現実から逃避できる方法がないから──。


 そして、自分のした行いを後悔したくない。


 だから僕は、頭を空っぽにして日々を過ごした。


 今日も、気分を紛らわすべく適当に街を歩いている。


 天気のいい、晴れた昼下がり。街は今日も騒々しい。


 しかし、今日はやけに騒々しい。


 なぜなら今、僕の目の前で戦闘が行われているからだ。


 黒髪で青い目の女剣士が、白い衣に身を包んだ男性に攻撃されている。


 いい勝負だが、恐らく女剣士の負けだろう。かなり、消耗してきている。


 それを取り囲み、騒ぎ立てている街の人達。


 僕はその横を通り過ぎ、歩き出す。


 後方で、歓声が上がった。恐らくどちらかが勝利したのだろう。


 僕は歩みを止めずに、歩く。


 しかし──。


「成敗!」


 と、白い衣を着た男が、いきなり背後から斬り掛かってきた。僕はそれを首を捻って避ける。


 そして、面倒なので無視をして歩き続ける。


 しかし、そいつは僕の目の前に回り込んできた。その手には大剣が握られている。


「逃げるな! 無視するな!! 戦え!!!」


「嫌だ。面倒だ。それに、いきなり斬り掛かってくるって、どうかしてるよ? なんで、僕なの? 他にも人はいっぱいいるでしょ?」


 僕らの側を、恐る恐る通り過ぎて行く通行人。僕は、それを指差してそう言った。


「黒髪で青い瞳をした人間がいたら、すぐに襲い掛かれとマリアから言われた。だからそれを実行しているまで」


「誰それ? あなたも誰?」


「我か? 我は、クルーエル教団のバノス・フォードというものだ! 成敗っ!!」


 白い衣の男が大剣を僕に振り下ろす。風を切る音が街中に響いた。


 僕はその大剣を、魔力を込めた二本指で摘んで投げた。


 彼はよろけて体勢を崩す。


 人も悲鳴をあげて去って行った。


「なぁっ!? つ、強い! まさか、お前があの強い人か?! マリアが探していた……あの!?」


 かなり、動揺しているようだ。


「人違いだよ」


 嫌な予感がしたので一応そう言っておく。


「くそがぁっ! こんな、ヒョロっとした男を、マリアは探していたのか。くそがぁっ! 我の手で成敗してやる!」


 白い衣の男は、大剣を拾いに行くと、また戻ってきた。


 そして、それを振り下ろす。


 風を斬って、空を斬って──。


 しかし、僕に当たることはない。


 息を荒くして、顔を強張らせて、斬り掛かってくる。


「くそっ! 避けてんじゃねぇーよ?!」


 かなり、弱い。


 そんな遅い攻撃ならば、僕は避けれる。


「もう、終わり」


 面白くないので、僕はその鬱陶しい彼に魔法を放った。


「?! なにっーーーー?!」


 あたりに突風が吹き荒れ、ゴミ屑が宙を舞った。


 そして、そう叫んで僕から遠ざかっていく白い衣の男。


 大剣ごと彼は、吹き飛んでいった。


 それも、かなり遠くへと──。


 近くにあった森の中へと、姿を消してしまった。


「かなり飛んだな〜」


 しかし、僕はここで考えた。


 彼を生きて帰せば、もしかしたら、そのマリアさんという人に事情が伝わって、面倒な事になるかも知れない。


 一応死んだか確認してこよう。


 芽は早めに摘んでおいた方がいいからね。


 なので僕は、自分で飛ばしたものを自分で探す。という馬鹿なことを始めた。


「強くやりすぎたー。探すの面倒くさーい。おーい。死んでる? 死んでるならいいんだけど……」


 僕はできるだけ大きな声で言った。しかし、見当たらない。


 しばらく、歩き、探し回る。


「居ない……。はぁ……、もっと向こうかな?」


「……くっ!」


 その時、近くの茂みから呻き声がした。


 寄ると、そこには荒れた地面、少量の血痕。


 そして、大剣と、白い衣の男が落ちている。


「やっぱり、まだ生きてた? 面倒くさいね」


「マリアは……渡さない。我の……女……だ」


「……何か勘違いしてない?」


 彼は、放っておいても死にそうな息をしている。


 ま、でも念の為ね。


「……ガハっ!」


 僕は、その落ちていた大剣を男の胸へと突き刺した。骨を砕く鈍い音がして、それは地面に貫通した。


 土の地面に、赤が染みて、黒く広がっていく。


「これで、面倒なことは回避できたよね?」


 と思ったその時、茂みからカサカサと音がした。


「──?!」


 奇声を発して、女性が一人、茂みの中から走って僕に向かってきた。


 髪を乱した、清潔感の全く感じられないその容貌。


 どうやら、錯乱しているらしいその女性に、いきなり、頬を殴られた。僕は地面に倒れて、そしてなぜか、女性に殴られ続けている。


 え? なに? 誰? 


 こいつの知り合い? 


 え、キタナイ。


「やめなさい」


 そんな、軽い声が聞こえた。見ると、白髪の青年だった。病気かと思うくらいに、真っ白な肌をしているその青年。


 僕に馬乗りになって、僕の首を絞めているその女性を見てそう言っている。それから、僕に視線を向けた。


「申し訳ありません。大丈夫でしたか? つい、いつもの発作で……」


「ゴホッ、ゴホッ!」


 女の人は、ようやく、僕の首から手を離した。


 やっと、空気を吸えた。死ぬかと思った。


「おや?」


 ──あ、忘れてた。


 白髪の青年は、その黒い瞳で僕の隣に転がっている死体を見た。


「君が殺したんですか?」


 青年は、表情を変えずに僕を見てそう聞いてきた。


「まさか……僕は殺してないです。初めから死んでいたんですよ」


 もちろん、嘘を吐く。


 流石に無理があるかなーと思った。でも、もしバレても、こいつらも一緒に隣に寝かせてあげたらいいだけの話だ。


 と、そう思っていたのに、


「そうですか」


「え?」


「え?」


「いや……何でも」


 意外と信じたみたい。


 そして、その死体が視界に入っていないかのようにその青年は、僕に封筒を渡してきた。


「……これは?」


「招待状です」


「招待状? なんの?」


 その封筒を見ていたら、いつの間にか青年は女性を連れてどこかへ消えてしまっていた。


 ──ナニコレ?

 

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