第8話 ノワン理事長
家に帰ってから、封筒を開けていると、兄さんにそれを取り上げられた。
「ラブレターか?!」
と、騒いでいる。
「違うよ」
「ん? 招待状?! ……す、すごいなムエルト!!」
兄さんの話しによると、どうやら、それはこの国で有名な魔法学校への招待状だったらしい。
特別な者しか行けないというその学校に、僕は招待されてしまったようだ。
しかし、僕は行きたくない。
なぜならば、面倒くさいから。
「もちろん、行くんだろ?」
「僕が? 行くわけないだろ」
そう言って、その招待状を捨てようとしたところに、母さんがやってきた。
そして、その招待状を僕から奪い取る。
「光栄なことよ。行きなさい」
だ、そうだ。
最悪だ。
「でも、丁度よかったわー! 十五になったあなたに、学校に通うように言うつもりだったのよね。こんな有名なところから招待されたのなら、絶対にここに行くべきよ! にしても、どこでこんなの貰ったの?」
母はそう言う。
「もし、もしだよ? もし、行きたくないって言ったらどうする?」
僕は、さらっと聞いた。すると、母は、不思議そうに首を傾げて、
「それは、学校に行きたくないってことよね……。そうなると、ルーカスの仕事を手伝うことになるわね。そして、それも嫌だというのなら、あなた一人で頑張って生きていくしかないわ!」
母は優しくそう言った。
それを聞いて僕は絶望した。
ルーカスというのは、僕の父なんだけど、父さんはいつもボロボロになって仕事から帰ってくる。身も心もね。
きっと、金持ちになるということは、それだけ大変ということなのだろう。僕はそんなことしたくない。
そして一人で生きていく、それもしたくない。なぜなら、そんなふうに金を稼いで生きていかなくてはいけないからだ。絶対嫌だ。面倒くさい。一生父さんの金を浴び続けていたい。
なので、
「分かった。僕、学校へ行くよ」
今日は、不運な日だ。
いきなり斬りかかられ、首を絞められ、そして、面倒に招待される。
回避できる道は……、思い浮かばない。
そして、学校に通うことになってしまった僕。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
全体が白で統一されている。
どこを見渡しても、まるで科学室のように真っ白。
入学からしばらく経ったある日。僕はそこに居た。
図書館──これまた真っ白な部屋に、真っ白な本棚がずらりと並んでいる。
「よかった。来てくれたんですね」
本を手に取って見ていたら、白髪の青年に声をかけられた。
どこかで見たような気もするし、見てないような気もするその青年は、僕の持っていた本を、興味深そうに覗いてきた。
白髪の前髪がヒラリと揺れた。
そこから覗く黒色の瞳が異常に黒く見えるのは、他の部分が全て白いからだろう。
「もしかして忘れてますか? 私のこと」
彼は、本から僕に視線を移してそう言った。
……あ!……この人!
殺人現場に居合わせた──。
「……招待状の人?」
僕が思い出してそう言うと、その人は嬉しそうに微笑んだ。
「そうです! ようこそ! 我がエスポワール学園へ!!」
満面の笑みで、僕に微笑みかけている。
こいつが、この学園に通うことになってしまった元凶である。
「あの時はどうも。先生だったんですね」
僕も作り笑いを浮かべて、愛想良くそう言った。
「私は、この学園の理事長です!」
理事長?!
僕が驚いたのは、僕の想像している理事長というのは、かなり年寄りというイメージがあったからだ。
しかし、この人はまだ若い。二十代後半くらいに見える。
「ノワン・エスポワールと申します。驚きましたか? よく驚かれます」
ノワンと名乗った理事長は、そう言って微笑んでいる。取って付けたような笑顔で──。
「……ところで、なぜ僕に招待状を?」
もう一度会ったら聞いてみたいと思っていたことだった。
「君に興味があったからです」
なんて、意味の分からない回答が返ってきた。
そして、僕と理事長の間に沈黙が流れる。
勝手に興味を持たないで頂きたい。犯行現場にて、死体を増やしておくべきだったと僕は後悔した。
「そうですか」
めんどくさい予感がしたので、僕はそこで話を切り、本を読むふりをした。
もう、話しかけなくていいよ。オーラを出して──。
しかし、理事長は無言で、ずっと僕の隣に立っている。
なので、
「僕はこれで失礼します」
相手が去らないのなら、自ら去ればいいのだ。
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