第34話 自由を手に入れたが、やはり面倒に支配される

 そうそう、僕は、学校に行かなくて良くなった。行きたくても、学園が廃園になったのでは、仕方がない。


 そんなふうにして、僕はしばらくの休日を謳歌していたが、ある日、母さんに途中入学する学校を何個か候補に挙げられた。


 が、もちろん嫌なので、僕は暇つぶしにも、その学校なり、学園なりを破壊して回った。


 そしたら、またある日、母さんが、


「あなた、呪われてるのかしらね? あなたに紹介した学校が全部不幸な閉鎖を遂げたわ。可哀想に……」


「そうだよ母さん! 僕は呪われてる! だから、学校に行かない方がいいんじゃないかな?」


「そうね……、きっと神様がそう教えてくれているのよね! ムエルト、あなた学校に行くのを辞めなさい」


 と、なった。


 さすがは、僕の母さんだ。


 こうして、面倒を逃れた僕は目的達成のため、今日も街に出かけている。


 そして、別の理由のためにも、僕は家にいたくない。


 そんなこんなで、さっき、たまたま入った街の本屋に、たまたま僕の探していた魔導書があったので買った。


 少し、気分が良くなったので遠出しようかと思う。


 空を飛んで、隣町まで来た僕だったが、やはり面倒ごとに巻き込まれた。適当にかたをつけて、適当に歩いていると、いつの間にか夜になった。


 しかし、僕は家に帰りたくない。なので、今日は宿に泊まることにしようと思う。


 と、足を止めた僕の前にたまたま適当な宿があった。


「ま、ここでいっか」


 僕は、その高級ではない宿の扉を開いた。


「いらっしゃい! お兄さん!」


 キキキーと錆びた扉の音と共に、少女が僕を出迎えた。


 髪を三つ編みに束ねた、僕と同じ歳くらいのその彼女。


「一泊ですか? 五万ゼニーになります!」


「ぼったくり? こんなボロい宿で五万ゼニーも取るの?」


「はい! その代わり、ご奉仕しますよ!」


 一泊五万ゼニー。僕の住む王都なら、もう少しいいところに泊まれるような値段だろう。なのに、こんなボロい普通の宿で五万ゼニーも取るとはねーーこの満面の笑みの少女が、胡散臭く思えた。


 しかし、他の宿を探すのも面倒だと思った僕は、いつもの、まあ、いいか。という考えで、結局金を払い、その宿で泊まることにした。


 案内された部屋には、ベットが一つ。僕の家のベットとは比べ物にならない程にボロくてボロい。


 やっぱり面倒でも別の宿を探せば良かったかな、と後悔しながら、僕はそのベットに腰掛けた。というか、ここしか座る場所が無い。そして、やはりふかふかでは無い。しかし、ここまでしても、僕は家に帰りたくないのだ。


「あー疲れたー! ま、たまにはこんなボロい場所で過ごすのも悪くないかな?」


「お兄さん!」


 なんて強がりを口にしたところへ、さっきの少女がガバッとドアを開けた。


 ボロいのでもちろん鍵など無い。プライバシーもなにもあったものじゃない。


「ノックくらいしてよ。なに? なんか用かな?」


 僕は、その無駄に明るく元気な少女にそう尋ねた。そして、少女は、許可をしていないのに、部屋の中へずかずかと入ってきた。


 そして、目の前に立ち、僕を見下ろした。


「ご奉仕をしに来ました」


「ーー?」


 少女は、いきなり僕をベットに押し倒した。


「何してるの?」


「男の人は、これをすると喜びます」


 笑顔の少女が、僕のシャツのボタンに手を掛けるーー。


「やめろ」


 僕は、その少女の細い腕を払いのけた。


「なんでですか?」


 驚いた様子で僕を見下ろす少女。


「勘違いしてるみたいだから、言っておくけど、僕はそういうことをして欲しくてこの宿に泊まったんじゃないよ? だから、どいて」


 すると、少女は渋々僕から離れた。そして、さっきまでの明るさを消したその表情は、暗く俯いた。


 そして、なぜか知らないけど、今度は刃物を取り出した。


「死んでください」


 と、一言呟き僕に襲いかかってきた。


 僕は少女の手首を掴んでそれを止める。


 やはり、この宿にするべきでは無かったと後悔に溺れた。


「ーー!! 離して!」


「離して! じゃないよね? 意味がわからないんだけど、ここってアトラクション付きの宿だったの?」


 僕は、暴れる少女の腕を掴んだままそう言った。すると、少女が、僕の手に齧り付いてきた。地味に痛いその攻撃。


 僕は、少女を突き飛ばした。


「ーーきゃっ!!」


 地面に倒れた少女は、まるで、僕が悪いことをしたみたいにして、僕を睨み上げている。


「君は一体何がしたいの?」


「あなた、金持ちでしょ? だから、この私が快楽と引き換えに金を貰いに来たのよ! なのに、それを拒むから、殺してお金を奪うしかないじゃない?」


 少女は乱れた服を整えると立ち上がってそう言った。そして、魔法を展開した。


「こんな狭い部屋で魔法なんか使ったら、この宿潰れちゃうよ?」


「そうはならないわよ、だって私強いから」


 僕は、抑え込んでいた魔力を少しだけ放出した。日頃は、面倒ごとに巻き込まれないためにもその魔力を抑えている。


 しかし、今回は逆のようなので、その魔力を解放した。


「ーーっ!? なによ? 強かったの? こんな詐欺みたいなことして、私を騙したのね? 許せないわ」


 と、余計訳のわからない面倒なことを言った彼女。


 そして、僕のその行動に何も意味はなく、少女は魔法を放ってきた。


 僕にそれが当たる。服が少し破けて、血が少し出た。しかし、もちろん治る。


「あ、服は治らないんだった」


 そして、まだまだ続く少女の鬱陶しい攻撃。


 そうーー僕は最近こうやって攻撃されても、それを無駄に避けないことにした。なぜなら、面倒だから。あの一件以来、僕は攻撃を避ける意味がないことに気づいた。当たっても痛いだけだし、避けるのが面倒だし、なら避けなくていいじゃん。という、僕にぴったりの戦い方だ。ま、周りに目撃者が居ない時に限るけどね。


 しかし、服が治らないのは不便だな。


 そんなことを思っていると、目の前で少女がなんか、震えてた。


「なによ、あんた! 全然効いてないじゃない! しかも、無傷? え? ていうか、治って……」


 と、言っている。


 攻撃を避けない相手は、別に殺してもいいと思う相手だ。だって、傷が治るところを見られるんだからね。


「君は、面倒くさいね」


 僕は、魔法を展開した。少女の足下に、青黒い魔法が広がった。


 そして、それは爆ぜた。


 ついでなので、宿もぶち壊しておくことにした。


 そしてーー崩壊していく建物。


 僕の目の前には、原型をなくした宿が建っていた。そこらに、宿の一部だったものが散らばり、ついでに赤く染まったさっきの少女も倒れてる。


「ま、こんな宿なら潰れたほうがいいもんね」


 ということで、僕のプチ旅行も、面倒に幕を閉じた。

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