第14話 学校に怪談はつきもの

 あれからリアムは、怪我で学校を休み続けている。


 もちろん僕は、次の日から行った。


「ねえねえ、ムエルト! 私の家にも書庫があるんだけど……来ない?」


「行かない」


 授業の合間に、クロエは僕の席にやって来てそう話す。


 彼女は水色の髪をした、僕の嫌いな生徒。


 リアムが休んでいる理由を聞かれたので、クロエに話したらそう言われた。


 もう、書庫で釣られたりしない。


「じゃあ、ムエルト! この学園に怪談があるのを知ってる?」


「知らない」


「今日一緒に、その謎を解き明かしに行きましょうよ!」


「行かないよ」


「良かった! じゃあ、授業が終わったら待ってるわね!」


 そう言って、クロエは去って行く。


 ちょっと待って僕は行かないから。


 っていうくだりは、入学してから結構繰り返しているんだ。


 それから、もう僕は諦めた。


 クロエは、僕をむりやり面倒なことに巻き込むのが好きな奴だった。


 どう回避しようとしても、さらに付き纏ってくるので、それはそれで面倒なのだ。


 さっさと終わらせた方が早い。


 授業が終わり、帰宅の時間になる頃。


 やはり、クロエは僕を逃さない。


 このくだりも入学してから、結構繰り返した。


 早く逃げようとする僕を、彼女はいつも阻止するのだ。


「よーし! 校内デートってことね!」


 クロエは、嫌がる僕の腕を掴んでいた。


 彼女の手を振り払い、家にダッシュで帰るとする。すると、なんと家まで着いてくるのだ。


 学習した僕は、彼女からは逃れられないと悟り、最近は大人しく従っている。


 ゆらゆらと揺れるその水色の髪の毛が、僕に纏わりついてきて鬱陶しい。


 そして、その場所へと導かれ、僕は地下一階までやってきた。


「ちなみに、その怪談がどんなのか気になるでしょ?」


「別に」


「それはね……」


 クロエは、聞いてもいないのに怪談について語り出した。


 その内容は、この地下から呻き声が聞こえるというものだった。


 地下には、実験室と、資料室、それから立ち入り禁止区域があった。


 実験室などに出入りする生徒が、その声を聞いて噂を広めているらしい。


「それで? 僕たちはどこに行くの?」


「もちろん、全部調べて回るのに決まってるでしょ!」


 ──だよね。


 時間がかかりそうだ。


 さっさと終わらせて、早く帰ろう。


「何もないわね……」


「ないね」


 実験室と資料室を覗いてみたが、思った通り何もない。


「ねぇ、ムエルト。あっちにも行ってみない?」


 クロエがそう言って嬉しそうに指差すのは、立ち入り禁止の場所だった。


「はいはい」


 そうして、僕達は立ち入り禁止のロープをくぐった。長い通路だった。そして、その扉の前に来た僕達。


 そこだけ、他とは違う造りになっている。白い扉に鍵が掛けられていて、開けることはできないようだ。


「鍵が掛かっているわ」


「みたいだね」


 しかしクロエは諦めない。


 なんて、好奇心が旺盛な子なんだろう。バダバタと扉を叩き出した。


「何してるの?」


「誰かいるかなって思って! でも、やっぱり居ないみたいね、つまんない!」


 クロエが頬を膨らませて、不満顔をしていた。


 その時、何かが聞こえた。


「ムエルト? 今何か聞こえなかった?」


「うぅ……」


 呻き声がした。


「きゃーーーー!!!」


 クロエが叫んで僕に抱きついてきた。


 ──驚くなら最初から来なければいいのに。


「なになになに? 怖い! やっぱり怪談は本当だったのよ!」


 クロエが、今にも泣きそうになっている。


「君たち! そこは立ち入り禁止だよ?」


 その時、後方から声が響いた。


 クロエはそれに驚いて、また悲鳴をあげた。


 振り返って見ると、そこに居たのは理事長だった。僕たちを見て、眉間に皺を寄せている。どうやら怒っているみたいだ。


「り、理事長! あ、あの、これはその……えっと……ごめんなさい!!」


 クロエがそう言った。


「どうしてここに?」


「えっと……今、私たちの間で怪談が流行っていまして……。それで、少し……」


「怪談? 君もそういうことに興味が?」


 理事長は、僕を見た。


 もちろん否定した。


「まあ、いいです。もう来てはいけませんよ?」


「でも理事長! 怪談は本当でした! なにか聞こえたんです! 呻き声みたいな……ね?」 


 と、言ってクロエが僕を見た。


 すると、理事長が、


「ここには、何もないですよ。それに、誰もいません。ここは、ただの空き部屋です。気のせいじゃありませんか?」


 そう言って微笑んだ。


「そうですか……」


 クロエが残念そうに肩を落とし、それからもう一度理事長に謝罪した。


 僕も謝罪をさせられて、帰ろうとしたらなぜか僕だけ呼び止められた。


 クロエは先に帰り、僕は理事長と二人、その扉の前に居た。


「意外と子供っぽいんですね」


「僕じゃなくて、クロエのことですよね?」


 理事長は小さく笑った。


 ──なんか、ムカつく。


「そういえば、リアム君ですが……最近怪我をして休んでいるそうですね。何かあったんですか?」


 理事長が、笑顔を解いてそう聞いてきた。


 これでも理事長なので、全クラスの事情は知っているらしい。


「襲われたらしいですよ」


「襲われた? 誰に? 心当たりは?」


「確か……クルーエル教団とかなんとか」


「……クルーエル教団ですか。彼らは残虐非道な団体と聞きます。リアム君が無事でよかった! でも、どうやって逃げれたのでしょうか?」


「さあ? 頑張って逃げたんじゃないですか?」


「そうですか! それは、良かった!」


 理事長は、優しく微笑んでそう言った。


 そして、しばらく沈黙が流れたので、僕は締めに入った。


「用はそれだけですか?」


「ええ。気をつけて帰ってくださいね」


 理事長は、また優しく微笑んでそう言ったので、僕も挨拶をしてその場を立ち去った。


 それにしても、確かに声はした気がする。一体あそこになにがあるのだろう?


 ま、興味ないし、どうでもいっか──。

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