第二章

第13話 部下に対する想いは人それぞれ

 薄暗い部屋に、人影──。


「ベイン様、ご報告です。教団のものが多数殺されました」


 肩の部分で綺麗に揃えられた、艶のある銀髪。


 その髪が、月明かりに照らされていた。


 そう報告した女性は、忠誠を誓うようにして床に跪いている。


「マリアさん、お久しぶりですね! そうですか……殺されましたか。それで、犯人は?」


 マリアと呼ばれたその女性は、少し頬を赤らめて顔を上げた。


 彼女のその白い瞳に映る相手は、暗がりになっていて見ることは叶わない。


「分かりません。しかし、黒髪で青い瞳をした少年だということは、生き残った者の証言で分かりました」


 マリアは、目を凝らしてベインを見ながらそう言った。


「他には?」


「特になにも……。その者はどうやら、ショックで記憶を失っているようでして、終始黒髪で青い瞳をした、悪魔のような奴にやられたとしか答えませんでした……」


 しばらくの静寂が広がった後、ベインは口を開いた。


「そういえば、五年前のあの事件も、黒髪で青い瞳をした人でしたね」


「はい! 私も何か関係があると思っていました!」


「おそらくですが、同一人物だと思います」


「ですよね! 私もそう思いました!」


「今回は少年だという情報も加えられたことで、かなり範囲は絞られましたね」


「まさか少年だったとは思いませんでした」


「私の方でも、心当たりを探ってみますので、マリアさんも、引き続き捜索願います」


「承知いたしました。それと、ベイン様、もう一つご報告があります」


「なんでしょう?」


「バノス・フォードが、何者かによって殺害されていることが分かりました」


「そのようですね。彼はよく働いてくれたのに、残念でした」


「知っていたのですか?」


「ええ」


 マリアは、「流石は、ベイン様! もう知っていたのですね!」と心酔した。


 それから暫くの間、ベインを見つめて、それから静かに部屋を立ち去った。



 その後、少しの間が空いて、別の女性がベインの元を訪ねて来た。


 そして、マリアと同じように跪いて話し出した。


「私の、部下達が何者かに殺されました」


 茶髪の髪を腰まで伸ばした、幼い顔立ちの女性がそう言った。


「そのようですね」


 ベインは、テーブルに置かれたティーカップを、その話しに興味が無いようにして触っている。


「私が、その人物を殺します。その許可を貰いに伺いました」


 彼女の顔には憎しみが滲んでいる。


 ベインは彼女を見下ろすように眺めた。


 それから、優しく微笑んだ。


「ここへ来るのはいつ振りですか? なかなか姿を見せないので、近々あなたに会いに行こうと思っていたのです」


「え? ベイン様が私に? なぜでしょうか?」


 彼女は、期待を交えた顔をベインに向けた。


「あなたが、私に会いに来づらいという気持ちは理解できます」


「え?」


「なぜならエミリーさん、私はあなたが裏で密かに行っていた悪事を知っているからです」


 ベインのその言葉に、エミリーと呼ばれたその女性は驚きの表情を見せた。


 それから、顔から血の気が引いていき青白くなっていく。


「な、何の話か分かりません! わ、私は、何もしていません!」


 動揺を隠せずにいるエミリーに、ベインは微笑みを向けた。


「いいえ。あなたは私に隠れて貴重な実験体を、自らのくだらない趣味である『拷問』に使っていた」


「……」


 エミリーは、さらに動揺して目を泳がせた。そして、ベインは感情の乗らない声で続けた。


「前々から、知っていたのですが、出向くのが面倒でね。しかし、今日来てくれて良かった! 手間が省けました! エミリーさん、あなたを処分します」


「……え?」


 エミリーは、驚愕の表情を浮かべた。


「……私を、この私を、殺すというのですか? 私は、今までベイン様、あなたのために尽くしてきました!! なのに、どうして……!?」


 縋るような瞳を向けるエミリーを、ベインはただ眺めていた。


「ベイン様、これには、訳が……! そう……、あなたのためですベイン様!!」


 縋るようにそう話すエミリーに、ベインは軽蔑の目を向けた。


 そして、呆れるように笑った。


「仰っている意味が分かりません」


「も、もう一度! もう一度チャンスを下さい! ベイン様、もう──」


 喚き、縋るエミリー。


 その彼女の頭は吹き飛ばされ、途中で言葉を止められた。


 エミリーの身体は、地面に鈍い音を立てて転がった。


 そして、真っ赤な血が、薄暗い地面に広がっていく──。


 それを行ったベインは、何事もなかったかのようにただそれを眺めていた。


 それから、ティーカップに注がれた紅茶を一口飲むと、溜め息を気怠げに吐いた。


「部屋が汚れてしまいました」


 ベインは、悲しそうにそう吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る