第27話 まさか解剖したりしないよね?
目が覚めると、そこには天井──。
そして僕の腕に刺さった管から、赤い液体が通っていた。
僕の身体はどこかに寝かされていて、両手、両足が片方ずつその寝かされている台に固定されていた。
外そうと引っ張ってみても、特に変化は無い。そして、もちろん魔力は使えない。
この手錠はあれだ、前に嵌められた手錠と似てる。
辺りを見渡せば、そこには、ビーカーとか──そんな実験室にあるようなものが沢山並べられていた。
「目が覚めましたか?」
部屋の扉を開けて誰かが入って来た。
それはもちろん理事長だった。
彼の後ろを、色々な器具が乗った台を押しながら、白装束が着いてきている。
え?
──何その物騒な器具……。
嫌な予感がする。
理事長の言う実験とは、一体何なのだ?
もしかして、まさか、解剖なんてされたりしないよね?
「よく眠れましたか?」
僕の近くに来た理事長がそう聞いてきた。
相変わらず白いその見た目、黒いのは目と中身だな。
「兄さんは?」
「彼には今、隣の部屋で休んでもらっています。君が抵抗したらいつでも殺せるように」
理事長は淡々と微笑んでそう言った。
「……」
「では、改めまして、自己紹介をさせていただきます! 私の本当の名前は、ベイン・エスポワールといいます!」
どうでもいい。
僕は理事長から視線を外して、ただ天井を眺めていた。
そして、何となく嫌な雰囲気を感じ取った。
面倒くさい。
「ノワンは偽名だったんですけど……、興味ないですか? リアクション薄いと、こっちが恥ずかしくなるので、やめて欲しいです」
興味ない。
僕は彼を見ずに無視した。
「……そうですか。まあいいです! 始めましょうか!」
弾むような声で理事長はそう言った。
そして、金属音がぶつかり合う音が聞こえてきた。見てみると、横に置かれた様々な器具を理事長が楽しそうに触っていた。
そして、そこから一つ選んだ。
それは、片手に収まりそうなナイフだった。
そして、理事長がそれで僕の腹を薄くなぞった。
服の上から切り込まれたそれは、皮膚と一緒に切り裂かれ、スーっと冷たい痛みが走った。
そして、温かい何かが溢れ出すを感じた。
それは、真っ赤な血だった。
「ふふっ──ふふふふふふふふ!!」
理事長は、クスクスと笑いを堪えながら笑っていた。
飛んだクソ野郎だ。
「やっぱり治りましたね」
「──?」
理事長はそう言った。
僕は二度驚いた。
理事長が、僕で実験したかったことが、こんなにハードなものだとは思わなかったし、それに僕の傷が治ることを知っていたらしい。
なぜ?
それにしても、
「何してるんですか?」
傷が治っていくのを感じながら、僕は理事長に聞いた。
「何って、ですから実験ですよ! 痛みは感じるんですか?」
「当たり前でしょ?」
理事長は、本当に疑問に思ってそう言っている。
僕は腹が立つことを通り越して、心底呆れた。
「そうなんですかー? それは、気の毒に」
僕の傷が治ることを知っていて、だから僕を解剖したい?
それが実験?
何のために?
これに何か意味があるのだろうか?
分からない。
「何がしたいんですか?」
僕が理事長に聞くと、彼は首を傾げた。
「仕方ないので、君の痛みが紛れるように、くだらない話しをしてあげましょう!」
彼は、そう言ってその手に握られたナイフを掲げた。
そして、切り裂く。
「あれは……グラウンドでの不審者騒動の時でしたね! 君は首に傷を付けられていたにも関わらず、数時間後には綺麗に治っていた! 実は、あの後君の様子を見に行っていたんですよ! そして、次の日に君を呼び出してもう一度確認してみたら、本当に綺麗に治っていた!! この世界の医療知識では、私の知る限りそんなことは、絶対にありえない」
頭に響く弾むような不快な声と共に、僕の皮膚は分断せれ結合されを繰り返していた。
痛みに支配されて、話を理解することができない。
それでも、理事長は語り続ける。
「しかし、流石に私も半信半疑。だから、あることを試しました! 広場で君と勝負をしていた時です。あれは、楽しかったですね。君がとても強いというデータも得られた瞬間でもありました! そして、最後にした握手を覚えていますか?」
「──」
「ふふっ──! 実は、あの時手に小さなナイフを仕込ませていたのです! それで、君の手を少し、ほんのちょっと、切ってみたんですよ! そしたら、一瞬にして傷が修復されました! 心から凄いと思いましたよ!」
僕は痛みを紛らわす為に、その狂気に満ちた長話に必死に耳を傾けた。
僕の視界に映る彼は、真っ白な肌に真っ赤な血を纏って、今までに見たことのない表情だった。
興奮と狂気が滲んでいる。
「初めは私の施設を壊滅させたであろう君を怪しく思って、ただ興味を持っていただけでした。しかし、まさか真の意味で私の求めていた人物だったとは思いもしませんでしたよ! この出会いに、心から感謝しています」
解剖の手が止まった。
理事長は、そこら辺にあった白い布で手についている血を拭った。
「さて、ここまでで何か質問はありますか?」
その笑顔はまるで子どものようだ。
気道に詰まった血で呼吸ができない。
僕は咳き込んだ。
それから僕は言った。
「お前、頭おかしいのか?」
すると、理事長は笑った。
「怒らないでくださいよ! それに、私は、至って普通の人間です。こう見えて愛情深いんですよ、私。そういえば、前に君と約束しましたよね? あの話しの続きを聞かせてあげましょう」
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