第10話 攻撃と共に疑惑は拭われていった
「だから、まずはこいつから始める」
そう言って、大柄な男が僕の胸倉を掴み、そのまま地面に叩きつけた。
「やめろ! 俺から殺せ!」
リアムがそう叫ぶが、そんな言葉など聞くはずは無い。
そして、仲間達は、危ない器具を用意し始めている。
「そいつは関係ないって言ってんだろ! やめろ!」
僕は男に首を絞められた。
落ちるか落ちないか、その狭間を行き来する程度の力で──。
大柄な男なだけあって、無駄に身体が大きい。上に乗られると、内臓が飛び出るかと思うくらいに重かった。
「お……重いっ」
どうやら、傍観するのはここまでのようだ。嫌でも当事者になってしまっている。
僕は、魔力封じの手錠で縛られているので、魔法は使えない。全て魔法で吹き飛ばしてしまえれば、どれだけ楽だろう。もはや、抵抗することも面倒なこの状況。
──本当に、めんどくさい。
「おいやめろ!!」
魔法が使えないとなると、体術でなんとかするしかないけど……敵は多い。面倒だな。
「おい! やめろって!!」
僕の酸欠になった脳に響く、リアムの鬱陶しい声と、モブ達の鬱陶しい歓声。
「す、すまない、ムエルト。俺のせいだ。ムエルトが本を好きなことは前から知っていたから、読ませたくて……ほら、読んだことがない本を探していただろう?」
首を絞められている僕に向かって、リアムがそう言った。彼が今呆然と何もせずに僕を見ているのか、それとも少しは助けようと努力しているのか、僕からは見えない。そんな、彼がそう言った。
前から知っていた? 僕が本を好きだと言ったのは今日だぞ。それに、本を探していることもリアムには話してないのに……。
まあ、そんな事はどうでもいいか。
「友達のためだろうと、悪いことをしちゃいけねぇーな!」
そして、その手に力が込められる。僕の首は締め付けられ、酸素の取り込み口がさらに消え去った。
「っ……」
──色々、苦しい。
とその時、男の手が僕の首から離れた。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ──!」
僕は咳き込み、それからようやく気道が整った。
そして、休む暇もないまま、
「次の拷問をしよう! 拷問といえば、爪を剥がすものだろう? どう思う?」
彼の目は輝いていた。どうやら、本気らしい。
「爪を剥がされるのは初めてかな」
「そうか! なら、良かった!」
嬉しそうに笑った大柄な男が、僕を押さえつける。
爪を剥がされるのは流石に嫌だ。なぜなら治るまでの生活が面倒くさそうだから。
それに、僕にそういう趣味は無い。だから抵抗することにする。
僕は、その大柄な男の首に足を絡ませて、思い切り力を込めて捻った。すると、鈍い音と共に、男は一瞬にして動かなくなった。
それからは早かった。次から次へと襲ってくるモブ達を蹴り飛ばして倒した。
終始うるさいリアム。
手を後ろで拘束されているので、動きにくいが、攻撃を交わしながら攻撃を返す。その繰り返し。まだまだ襲いかかってくる。
それをうまく交わして倒し続けた。たぶん十人以上は地面に転がったと思う──。
残り、たぶん八人くらい。
「おい! ガキ! 止まれ!」
攻撃の中、そんな声がした。
見ると、リアムがいた。そして、彼は男にナイフを向けられている。
「動くな! 動いたらこいつを殺す! 反撃しても殺す!」
それは、面倒くさい。
でも、僕はリアムを助けてあげることにしたらしい。
こいつが僕のためにその本を盗んだというのなら、僕にも責任があると思ったから?
「ムエルト! 後ろだ!」
リアムのその声と同時に、頭がひび割れるような激痛が走った。
その瞬間、僕は倒れてしまった。
──殴られた?
僕を殴ったであろう奴を見ると、手には、血のついた金属の棒が握られていた。
「俺たちは魔法が使えないからな! 卑怯だと思うなよ!」
血がポタポタと、コンクリートの地面に染み込んでいくのが見える。
──どこかで見たような光景だな。
「大丈夫か!! ムエルト!! おい!!」
頭に響くから静かにしてほしい。
そう思った時だった。
頭の痛みが引いていく──。
それが本当に治ったのか、見て確かめていないので分からないが、何となく感覚で治ったと感じた。
僕の淡い期待は、彼の凶器によって一瞬で壊されてしまった。
僕はやっぱり、不老不死だったみたい。
落ち込む暇もないまま、お腹に蹴りを入れられた。
内臓が熱くなって、それが上がってきた。地面に吐き出されたそれは真っ赤に染まっている。
でもやっぱり、しばらくすると痛みは消えていった。
僕の脇腹を叩き潰す、その鈍器。骨が音を立てて壊れるのが聞こえた。
四方八方からの打撃と共に、僕の不老不死への疑惑は拭われていく──。
足の骨が折れようと、腕の骨が折れようと、内臓が破裂しようと、残念なことに傷はすべて治ってしまった。
「頭を殴られて、ここまでボコられてんのにまだ意識があるなんてな!」
誰かがそう言った。
血は付いたままだからか、興奮して冷静さを失っているからなのか、彼らは傷が治っていることに気がついていないらしい。
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