第11話 解体ショーが始まるってさ

「もう辞めてくれ!!」


 リアムがそう叫ぶ。


 もちろん攻撃が止まることはない。


 僕に纏わり付いている、この鬱陶しい手錠。壊そうとしてもびくともしない。


 魔力を封じるだけあってかなり頑丈だった。


 魔法さえ使えれば、こんな状況から一気に脱却できるのに──。


「見てたよ、見てたよ。あんたかなり頑丈な身体をしているみたいだな。これは拷問し甲斐がある!」


 と、新キャラの男が登場。


 彼は手をパンパンと二回叩いた。


 その男は、ねっとりとした見た目で、長髪をだらりと垂れ流している。


 一人のモブが、短剣をそのねっとり長髪男に渡した。


 そして、僕に向けられる刃先。


「抵抗したら、どうなるか分かるよな?」


 短剣を持った男は、リアムに目を向けた。


 僕は、溜め息が溢れてしまった。いつの間にか交代してしまった人質役。


 僕もそっちが良かった。こっちはめんどくさい。


「分かったから、やるなら早くしてよね」


 僕がそう言うと、短剣の男が周りの奴らに目配せした。


「おい、暴れないように抑えてろ!」


 男たちに腕を掴まれ、地面に膝をつかされ、身動きをとれないようにされた僕。


 そいつは、短剣を持って僕を見下ろしている。僕は、抵抗せず彼を見上げていた。


「本当に、羨ましい顔してるなー。腹が立ってくるよ」


 短剣を持ったその男がそう言って、僕の頬をなぞるようにして切りつけた。


 頬に痛みが走り、僕の首元に血が伝っていくのが分かる。


「あーー!! ゾクゾクするっ!! 綺麗な顔に傷が付いちゃったね! かわいそっ!」


 僕の目の前でそいつは興奮していた。頬を紅潮させて僕を見ている。


 ──気持ち悪っ。


「辞めろ!! もう良いだろう?! 頼むから、そいつだけは助けてくれ! なあ! 頼むよ!」


 リアムが、そう泣き叫んでいる。


「うるせっー!! 今はこいつのショータイム中なんだよ! お嬢様の趣味でビデオを回してあるんだ。お前は後からやってやるから、少し静かにしてろ!」


 リアムにナイフを向けていた男がそう言った。そして、リアムを殴った。ボコボコに殴られている。


 僕みたいにすぐに治らないから、あとから大変そうだなーと思った。


 リアムは、気を失ったのか動かなくなった。


「邪魔が入った。待たせて悪かったな。続きをしようか?」


「待ってないんだけど」


 短剣を振り回しながらそう言う男に、僕はそう返した。


 すると、短剣の男は、僕の顔をまじまじと見て、


「あれ? 頬の斬り込み、あんまり入ってなかったか? ──まあ、いいか。さぁ!! 続きをしよう!!」


 こいつは、馬鹿らしい。


 僕が片手を手錠から抜いたことにも気づいていない。


 どうせすぐに治るんだからいいか精神で、むりやり手錠から引き抜いてみた。


 リアムの騒動の甲斐もあって、僕はそれに成功した。


 かなり痛かったけどね。


「こいつ!? 手錠が外れている?! 手が血まみれだ!」 


「慌てるな、片手だけじゃ何もできないさ。さあ、次はお楽しみの時間だ!」


 短剣の男はそう言うと、憎たらしいほどの笑顔を向けてきた。


 その通り。


 僕の魔力は戻らない。 


 どうやら、もう片方も外さなくてはいけないようだった。こっちも無理やり引き抜くしかないらしい。


「めんどくさ〜」


 僕がそう言うと、短剣を持った男は僕の胸ぐらを掴んだ。そして、気を失っているリアムに視線を向ける。


「あいつを殺されたくなかったら、大人しくお嬢様の趣味に付き合ってくれよ」


 そして、僕は地面に突き飛ばされた。


「まずは、足から切り落としていい? いいよね? やっちゃうよ!?」


 モブたちが、僕を押さえつける。身動きが取れなくなった僕は、まるで解剖される前のカエルのようだった。


 僕の視界に広がるのは、コンクリートの冷たい天井に吊るされている眩しい照明と、短剣を持った男。それから、僕を押さえている奴ら、そしてそれを囲むモブたち。


 きっと、もう一生見ることの出来ない眺めだと思う。見たく無いけど──。


「いくよ?!」


 そう言って、まるで子供のように嬉しそうに短剣を持った男が、涎を垂れ流して僕を見ていた。


 心底、不快だった。


 そして、手に持ったその短剣が振り下ろされる。


「ハハハハハハッ!! 痛いか? 痛いよな? 泣いてもいいんだぞ?」


 痛いに決まってる。ぶっ殺してやりたい。


 まるで、凍った氷水に浸かっているかのように、切断された足が冷たい。刺すような痛みがガンガンと脳天を貫いた。


 そこらから、嗤いが湧き起こっている。


「え? なんだ? 足が、生えてきた? は?」


「き、なんだ?! え? 気持ち悪い!」


「バケモノだ──!!」


「ば、バケモノ!!」


 歓声は、一瞬で悲鳴に変わった。


 それもそのはず。


 僕の足は元通りに治ったのだから──。


 まるで、汚いものから逃げるみたいに、男たちが僕から離れて行った。


 リアムなんてやっぱりもうどうでもいいや。


 さて、今から全員殺してあげよう。

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