第3話 不老不死じゃない

「あいつらは、どうなったんだよ? あそこからどうやって逃げたんだ? なんで、いつの間に家に戻ってるんだよ!? はっ! あの子供達はどうなった? どうして、俺を殴ったんだよー!」


 質問攻め──僕が嫌いなことの一つだ。


 僕の目の前にやってきて、そう喚いている。


 僕は、ソファに腰掛けて黙ってそれを見ていた。


 そんな、鬱陶しい兄さんに、僕は溜め息が溢れた。


「適当に頑張って逃げたんだよ。子供達は、たぶん無事だよ。兄さんを殴ったのは……僕じゃない」


 ほぼ嘘だけど、本当のことを言ったら、もっと面倒くさくなるから言わない。


 兄さんは僕の顔をまじまじと見つめて、それから首を傾げた。


「……あれ? ムエルト、怪我してる。大丈夫か?」


「え?」


「頬のところ」


 兄さんにそう言われたので、鏡を見に行くと、頬に浅い切り傷が付いていた。


「本当だ……。傷が付いてる」


 あの施設を吹き飛ばした時に破片でも掠ったのだろう。傷口から少し血が出ていた。


 不老不死といえばすぐに傷が治るイメージだけど──。


 僕は思った──。


 やっぱり、不老不死になっていない?




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 暗闇の中、月明かりの下に人が一人立っていた。


 辺りは森に囲まれているが、ある一角、そこだけが深く陥没していた。そこに、その人物は立っていた。


 まるで、舞台に当てられているスポットライトのように、その人物へと月明かりが注がれている。


 瓦礫の破片が、そこら一帯に散らばり、辺りには異臭が広がっていた。


 その瓦礫に埋もれた白装束の男を、その人物は見下ろしている。


 男の白い衣は色を変え、紅く染まっていた。彼は、今にも消えてしまいそうな息をして、その人物を見上げている。


「どうしたんですか?」


 その人物は、冷たく見下ろしてそう聞いた。


「も、申し訳……ありま……せん。べイン……様。……黒髪の……青い目をした……」


 血を吐きながらも、一生懸命に言葉を伝えた彼だったが、その言葉はそこで止まってしまった。


 それから、瞳の光が消えて、胸が上下する動作もしなくなった。


 その光景を、まるでなんてことないというような視線を向けて、ベインは表情一つ変えずに見下ろしていた。


 それから、深い溜め息を吐いて、暗く微笑んだ。


「報告します。施設は全壊、生き残りも見当たりません。クルーエル教団に刃向かうものを私は許せません。ベイン様、いかが致しますか?」


 後方で跪き、そう報告する白い衣の銀髪の女性。


 ベインは、銀髪の女性に視線を移して言った。


「マリアさん。黒髪に青い瞳をした、魔力の高い、強い者。その人間を探してください」


 マリアと呼ばれた銀髪の女性は、その言葉を聞くと、暗闇の中へと姿を消した。


「新しい研究施設を建てないといけませんね。それにしても、たった一夜でこの有様とは一体どのような……」


 ベインは静まり返った中、一人そう呟いた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それから、15年が経った。


 背はまた伸び、成長しているし、風邪を引いてもすぐに治らないし、怪我をしてもすぐに治らない。


 前に色々あって、兄に腕の骨を折られたときも、治るのにものすごく時間がかかった。


 僕が不老不死なら、きっとすぐに治ると思う。でも、治らない。


 なら僕は不老不死では無いということだ。その考えは、僕の中で確信に変わっていた。


 それは、僕にとって嬉しいことだった。


 僕は不老不死ではない!


 やったー!

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