第一章 いらない子 ⑥
すみれの思わぬ提案に、透子は間抜けな声をあげてしまった。
「ちょっと先方に連絡するから待っていて」
「て、転校? ──先方?」
すみれは、スマートフォンを取り出すと、電話をかけはじめた。
「もしもし、
すみれは通話を終えると、透子の真向かいに座って髪をくしゃりと額にかきあげながら、言った。
「実は私、お祖母ちゃんから遺言を預かっていたんだ」
「お祖母ちゃんが、すみれちゃんに遺言?」
すみれは、どこか寂しそうに言った。
「お祖母ちゃん、わかっていたんだろうね、自分が亡くなったあとは母さんが透子に意地悪するだろう、ってさ。それで私に頼んでいたの。『何かあったら、透子の母方の親戚に連絡してくれ』って」
驚いて、透子は顔を上げた。
伯母だけでなく祖母も……透子の母方の親戚達を嫌っていたから、つながりがあるとは思わなかった。口には出さないけれど、祖母が、行方不明になって父を不幸にした母を恨んでいたのは知っていた。
「ねえ透子。今この家にお祖母ちゃん、居る?」
祖母の霊が、という意味だ。
透子は首を横に振った。祖母の気配はどこにもない。
「私、心残りのある人の霊しか……見えないから」
「お祖母ちゃん、成仏しちゃったのかなあ……心残りいっぱいあったろうに」
すみれは苦笑して仏壇と透子を見比べただけで、透子の「霊」という言葉を否定も疑いもしない。
「さっき、私が電話したの、透子のお母さん……」
「えっ、お母さん?」
透子がかぶせ気味に驚くとすみれは、違う違う、と手を振った。
「の、はとこの
話の内容が頭に入ってこない透子を置いてけぼりのまま、すみれは淡々と続けた。
「私、今月の初めに関東に行っていたでしょう」
「うん、大学院の見学に行くって」
すみれは地元の国立大学の四回生で大学院進学を目指している。
伯母も伯父も女が理系の大学院に進むなんて無駄以外のなにものでもないと「心配」していたがすみれは奨学金をもらって進学するつもりらしい。
「大学院を見学した後に、神坂さんのご自宅にお邪魔していたんだよね。劣悪な……うちの家以上に
それにね、とすみれはどこか困惑したように言葉を続けた。
「どうも、神坂の人たちは、透子のそういう力を──歓迎するみたい」
「歓迎する? そういう力……?」
「よくわからないけれど。これからくる人も……透子みたいな力があるって……」
状況が
すみれは視線を落とした。
「今夜、来てもらうように約束していたの。いま家の前についたって。迎えに行こう」
すみれは透子の反応など気にせずに玄関へ歩いていく。
「話を聞いて、うちに残るのがいいか、その人の所に行くのがいいか考えてみて」
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