第二章 神坂家 ⑬
「透子ちゃん、今日もお疲れ様〜! 帰る前にかき氷食べない?」
「おばさん、ありがとうございます」
神坂の家に来てバイトをはじめて……あっという間に三週間が過ぎた。
バイト先のあづま庵では仕事終わりにおやつが出る。しかも店には並ばない店長さんのオリジナルメニューなので毎回楽しみだ。
基本的に持ち帰りの店だが、入り口に四席だけテーブルと椅子が配置され、イートインも出来る仕様だ。
「いただきます!」
「白玉おいしい」
冷たいかき氷はすごく甘くておいしかった。陽菜は部活や生徒会で忙しいので毎日とはいかないが、週の半分は店を手伝う。
透子は人見知りだし、ここ数年同世代の女の子と話してこなかった。会話ができるか不安だったのだがそれは
店に三日に一度は現れる和服姿のさわやかな青年に二人してときめいていたりもする。
二人のお気に入りのその青年は今日も現れて、イチゴ大福とブドウ大福を四つずつ買って帰った。お釣りを間違えた透子にも「気にしないで」と柔らかく微笑んでくれる。
彼は透子の右手にはめられた針水晶の数珠に気付くと、透子をまじまじと見た。
「綺麗なブレスレットだね」
「あ、ありがとうございます……御守りで」
千瑛や千尋もかっこいいが、和服のお兄さんはまた趣の違う好青年だ。
なんだか水彩画で描いたみたいな人だな、とつい
三日に一度は安くない和菓子を買うのだから無職ではないだろうが、昼から自由に外出できるというなら会社勤めとは考えづらい。
「小説家とか? 万年筆を握っていそう」
「いまの小説家はパソコンしか使わないんじゃない? 茶道の家元とか?」
「それあり! ……でも、お茶教室の若先生ならうちの商売柄把握しているはず……」
同じ年の女の子とこんな風に話すなんて、中学の頃以来でなんだか嬉しくなる。
「はい、これバイト代。ほんとありがとうね〜」
店の給料日は二十五日だということで、透子は陽菜の母親から封筒でバイト代を受け取った。予想よりも多い数字に嬉しくなる。
ピンチヒッターだったということで特別ボーナスを一万円もつけてくれたのだ。
たぶん、肉親をなくした透子のためにあづま庵のご夫婦がお小遣いをくれたんだろう、と察したが、透子はありがとうございます、と素直に受け取った。
「嬉しい……。和菓子、買って帰ろうかなあ」
「止めなよ、もったいない。余ったやつ持って帰ったらいいじゃない」
陽菜の母親も「こっそりならいいよ」と笑って店の作業場に戻っていく。
「でも本当に、透子がバイトしてくれて助かったよー。お盆の忙しい時期に一人だったら、私、疲弊して死ぬところだった……」
「私も助かったよ、何もすることがなかったし……、孤独な夏休みになるところだった」
千瑛は仕事で忙しいし、千尋も高校に毎日通っているので夕飯以外は顔を合わせない。
白玉を口に含んでから、陽菜はそういえばと声を潜めた。
「バイトで来るはずだった大学生のお姉さん、実は行方不明だったらしいんだ」
「……行方不明?」
「警察の人がうちにも事情を確認しに来た。ドタキャンだってうちの両親、怒っていたんだけど、事件に巻き込まれたのに申し訳ない事を言った、って、昨日の夜しょげていた」
透子は
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