第三章 星護高校 ⑥

「三十位」

「おお、すごい」


 陽菜がぱちぱちと拍手してくれる。陽菜は全体の半分くらい、と舌を出した。


「なかなかやるじゃないの、透子さん」


 足音も気配もなく現れたのは白井桜だった。


「ちなみに、私は英語が一位なのよ」


 張り出された順位表をびしっと指さしながら、ツン、とらした横顔が可愛い。


「わ。本当だ! すごいね」


 透子がほめると陽菜が「英語だけで全体十位には載ってないじゃん」と指摘する。

 桜はちょっと視線を泳がせた。白井桜は帰国子女で中学までは欧州にいたらしい。

 英語は得意らしいのだが。


「ふ。私がなぜ英語一位なのに十位にいないか、透子さん、わかる?」

「えっ……どうしてだろう」

「数学がね? 二百点中七点しかとれなかったの!」


 えっへんと胸を張った桜はたいそう可愛らしい顔だったが、なんと突っ込んでいいものか透子はわからない。陽菜が透子の分まであきれてくれた。


「自慢している場合じゃないでしょ!」

「いいのよ! 私は永遠の美少女なんですもの。兄も、なんとか高校さえ卒業すればいいといってくれているし」

「白井……お兄さんたぶん、あんたの事をめちゃくちゃ諦めているよ……」

「私に学歴は不要ですわ。こんなに可愛いのですもの。ああ、でも、千尋くんが教えてくれたらきっと頑張れ……あれ? 千尋くんはどこに行ったの?」


 千尋はどうも桜が苦手らしい。

 彼女が現れた瞬間に気配を消して逃げて行ったのだが、本人に告げるのはなんだか可哀かわいそうな気がして透子は、「お手洗いかな?」と、とぼけた。


「ひょっとしたら千瑛さんを迎えに行ったのかも」


 透子の言葉に、桜がぴくりと肩を震わせ、真剣な顔で見上げてくる。


「千瑛さん、というと……千尋くんの従兄の千瑛様?」

「知っているの?」

「もちろんですわ……何をしにいらっしゃるの?」


 学校にいる霊を見に来ると正直に言ったら、桜を怖がらせてしまうかもしれない。透子はとっさにうそをつく。


「ええと、私の転校手続きの残りを、いろいろ」


 透子は右手の数珠に触れた。学校や通学時に「怖いもの」を見ないでいいようにと千瑛がくれた数珠だ。


うわさで聞いたのですけれど、千瑛さんって神坂家の家の、神社関係もやっていらっしゃる素敵な殿方でしょう。サングラスの」

「白井さん、すごく色んな事に詳しいんだね」

「星護町に暮らす者ならば知っていて当たり前の情報ですわ。そう、学校に千瑛さんがいらっしゃるのね」

「挨拶する?」


 自称「千尋の未来の伴侶」なのだし、会いたがると思ったのだが桜は意外にも首を振った。


「千尋くんのおうちの方にご挨拶する覚悟はまだないわ。こっそりのぞかせていただきます」


 去り行く桜がなんだかとても楽しそうなので「何の覚悟」が必要なのかと野暮なことを問うのはやめた。

 待ち合わせをしていた箱に到着すると、千瑛と千尋が並んで談笑していた。


「透子ちゃん」


 足音に気付いた千瑛が手を上げる。

 細いストライプのスーツを着た千瑛は、なんだかファッション誌のモデルみたいだ。

 すれ違った二人組の女子生徒たちが、小さく悲鳴をあげて二人を見ている。


「神坂先輩の隣のかっこいいサングラスの人、だれ?」

「おうちの人らしいよ。……遺伝子の神秘を感じる……!」

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