第34話
「ディスパイル殿……?」
やってきたローブ男のことは、シェリルさんはどうやら知っているらしい。
着地と同時、風に煽られてフードで隠れている顔が露わになる。
そこにいたのは、真っ赤な瞳を異様にギラつかせている男だった。
この感じは……あの時、部屋を通った時に感じ取った男か。
あの時の違和感を百倍に強烈にしたような感覚が、全身を突き刺す。
男の全身から噴き出す邪悪な気配に、思わず息を飲んでしまいそうになる。
これが邪神の使徒か……でもまさか、王城にまで潜伏しているとは。
そもそもの話、なぜ王女の身体に寄生虫が巣食っていたのか。
腹の中から出てきたあれは、間違いなく魔物だった。
どうやって魔物を用意したんだろうと不思議に思ってたんだけど……それも邪神の使徒がやったと考えるなら納得がいく。
となるとこいつの持っている力は、もしかすると魔物を操る力なのか……
「引っ捕らえろ!」
「おおっ! ようやく尻尾を表しやがったか!」
吹っ飛ばされていた衛兵達や、騒ぎを聞きつけてやってきた近衛兵達が男へと駆け出す。
どうやらディスパイルは兵士達からも嫌われているようで、嬉々として攻撃を行っているのがわかった。
「ちいっ、羽虫共が!」
男が腕を振ると、炎が渦を巻き兵士達を飲み込んだ。
王城に勤めている以上ある程度の強さはあるはずだが、兵士達は一瞬でやられてしまい地面に倒れ込んでしまう。
魔法を放った瞬間、ベリベリとディスパイルの顔の皮膚が剥がれていく。
こいつ、人間じゃなかったのか……。
中から現れるのは、人の形をした赤黒い化け物だ。
人間の表皮を剥がし、筋肉が丸見えになった骨格標本のような見た目をしている。
額から一本の角が伸びており、両肩にはギザギザとした歯を持つ口が一つずつついている。
気付けば身体は一回り大きくなっており、全身から黒いオーラが噴き出していた。
「ふしゅうぅ……」
熱が籠もっているからか、吐き出す息は真っ白だった。
少し遅れて、熱気がこちらにまで伝わってくる。
ちらと後ろを確認すると、ミラとシェリルはエレオノーラ様を連れ既に姿を消していた。
どうやら戦いの邪魔になるのを嫌ったミラが、咄嗟にどこかに隠れたらしい。
周囲を確認すると……なるほど、魔道具か何かを使って隠れているのか。
なんにせよありがたい、これで……周りを気にせずにやれる。
ディスレーリ・スラッシュパイル
レベル56
状態異常 契約
攻撃B
防御B
魔攻B
魔防B
俊敏C
契約 邪神エルボス (寿命・スキルと引き換えに※GsE☆を手に入れている)
一応鑑定は通ったけど……参考にならない!
契約で寿命とスキルを削ってるからスキルもわからないし、力に至っては完全に文字化けしてる。
戦いながら類推していくしかないか……。
とりあえず現状でわかっているのは、こいつのレベルは今の俺よりも高い。
そして各種能力値も……基本的に俺より高い。
ただホルダーを使って底上げをすれば、どれか一つの能力値であれば凌駕はできそうだ。
召喚魔術のレベルが上がったことで使うことができるようになった高速召喚を使い、空にしたホルダーに直接カード化した召喚獣を流し込んでいく。
俺は一つのステータスを強化し、戦う準備を整えてから相手に向き直った。
見ればディスパイルの肩についている口がゲラゲラと笑っている。
ただ口は実際の感情とは連動していないようで、こちらを見るディスパイルの目は憤怒の色に染まっていた。
「女神の使徒……まさかこれほど早く出会えるとは、思わぬ僥倖だ」
「……こっちは不運だよ」
まさかこんなに早く邪神の使徒と戦いになるとは……まだレベル上げもほとんどしてないってのに。
女神の使徒は大器晩成型で、邪神の使徒は早熟型なんだろう?
形勢は圧倒的に不利。けど……幸いというか、ここは王城だ。
この状況を上手く使うことさえできれば……十分に勝ちの目はあるはず。
俺は飛び出し……叩きつけるように剣を振り下ろす!
「二重斬(デュアルスラッシュ)!」
「キイヤアアアアアアアアッッ!!」
「ビイイイイイイイイイッッ!!」
ディスパイルの肩についている口が、心がざわつくような不快な音を発する。
俺の二重斬が何かに受け止められ、キィンっと硬質な音が鳴る。
そして次の瞬間、俺の全身は炎に包まれ――。
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