第17話


「すごいですよマルトさんそもそも女神様の声を聞くことができるというだけで非常に稀で、それを行うためには最低でもレベル6以上の祈祷スキルが必要とされているんです。それをレベル1のマルトさんができるとなると将来的にはもしかすると女神様に出会うことすら可能かもしれません。それにあの光魔法の腕前があれば、司祭はどころか司教だって目指せるような逸材かもしれません。いや、もしかしたらあの聖女様と双璧をなす聖者になることだって可能かも……」


「どうどうマリア、それくらいにしときな」


「どいてエイラ、それじゃあ勧誘できません!」


「あ、あはは……」


 想像していたよりはるかに信仰に篤かった(かなりマイルドな表現)のマリアさんの攻勢をいなしながらギルドへ入る。


 ギルドはかなり大きい二階建ての建物だ。

 中央の絨毯を歩いていくとY字の階段になっているようで、楽しそうに話をしながら階段を上がる冒険者の姿が見えた。


 階段を上がったところには看板が立っており、ウェイトレスの高い声が聞こえてくる。

 喧噪と香ばしい良い匂い、そしてほのかなアルコールの匂いが漂ってくる。


「ギルドの中には酒場が併設されてることが多いわ。ちなみに値段は割高だけど、冒険者の中にはまともな計算や損得勘定ができない奴らが多いからわりと人気ね。私は自炊派だけど」


「あたしは面倒だから外食が多いけど、たしかにギルドで食うと高いからあんまり食わないな」


 値段的には高いけれど、一仕事終わって空腹の状態でこの匂いを嗅いで抗える冒険者はなかなかいないのだという。

 なるほど、ギルドもあこぎなお金の稼ぎ方をするなぁ……。


 一階は大きく左右に分かれていて、右が依頼の受付や達成報告、左が素材買い取りや各種受付という風に分かれていた。

 わりと細かく細分化されていて、前世で役所に来た時を思い出す。


 冒険者登録のための受付には、若い女の子が座っていた。

 長い赤銅色の髪を横に括っており、ハープでも弾きそうな感じのおっとり美人さんだ。


 エイラやマリア達を見ていなければ、思わずドキッとしていたかもしれない。

 この世界の女の子って、レベル高いよな……フェリスみたいなエルフじゃなくても、美人が多い気がする。


「ようこそ冒険者ギルドジェン支部へ。私は受付嬢のウーラと申します。本日のご用件は冒険者登録の方でお間違いないでしょうか?」


「あ、はい、そうです」


 説明をしようとした受付嬢が俺の後ろの方をチラリと見て、驚いた顔をする。


「おや、『左傾の天秤』も一緒とは珍しい……」


「この子、期待の新星だから。ちなみに私が育てました(ドヤッ)」


「堂々と嘘を教えないでくれ、ミラ」


「私がこれから育ててもらいます(ドヤッ)」


「育ててもらう側ならドヤ顔しないでくれ」


 なぜか自信ありげに胸を張るミラさん。

 ローブ越しだというのにバストがなかなかに強く自己主張をしていて、思わず目のやり場に困ってしまう。


 思わず突っ込んでしまう俺を見て、またもやウーラさんが驚いた顔をする。


「仲が良いんですね……これは珍しいものを見ました」


「そうなんですか?」


「ええ、『左傾の天秤』の女性陣は気難しいと界隈では評判なので……」


 彼女達にはよくわからない評判がついているようだ。


「たしかに初対面の時はちょっと面食らったけど、慣れてくると別にかわいい女の子達だと思うんですけどね……」


 自分の気持ちを正直に伝えると、三人ともなぜか顔を赤くしてしまった。

 その様子に首を傾げながら、冒険者になるにあたっての必要事項を聞いていく。

 ランクなんかの知っている情報については省略してもらい、ざっと説明をしてもらう。


「へぇ、喧嘩は負けたもんが悪いみたいな感じじゃないんですね」


「当たり前じゃないですか。基本は喧嘩両成敗ですし、もめ事がひどくなりそうなら即座にギルドが強権を発動させて介入しますので」


「マルト……あんた一体、どんな修羅の国で育ってきたの?」


「いや、人づてに聞いた話だよ!」


 どうやらこの世界の冒険者ギルドは冒険者の質の維持やギルドのイメージ向上にかなり気を配っているらしい。


 素行不良の冒険者はどれだけ腕があろうがクビを切られるようだ。

 なので実力のある問題児といったファンタジー世界にありがちな存在は、基本的に貴族の私兵か傭兵になることが多いらしい。


 なるほど……これから冒険者としてやっていこうとしてる俺からすると助かるな。

 俺は見習いのFランクから。

 一応討伐依頼も受けられるけど、可能なのはスライムくらいで、それ以外はほとんど何もできない。


 どうやら最初のうちは色々な採取依頼や街の人達からの依頼をこなしながら、依頼達成数を増やしていかなければいけないらしい。

 郷に入っては郷に従えと言うし、頑張って依頼をこなして、すぐに戦えるようになりたいところだ。


「あ、そういえば一つ聞いてもいいでしょうか?」


 ギルドを出ようとしたところで、ウーラさんの方に振り返る。

 なんでしょうかと尋ねてくる彼女の方を見ながら、俺は長年気になっていた質問をぶつけることにした。


「レヴィという冒険者を知りませんか? なんでもかなりの高ランクだったらしいんですが……」


「レヴィ様……はい、当然知っております。彼女は冒険者達の憧れですから」


 スッとウーラさんが何かを指差す。

 そこにあったのは、一つの額縁。

 中の紙には四人の人が描かれていて、その右端の女性は……どこか俺に似ていた。


「あそこに描かれているのがSランクパーティー『終焉ビー・オーバー』の『迅雷』のレヴィ様です」


 どうやら母さんは、ギルドに絵が置かれているようなすごい人だったらしい。

 話には聞いていたけど……俺も負けていられない。


 俺は意気込みながら『左傾の天秤』の皆と別れてから一度宿に戻り、自分のスキルを見つめ直すことにするのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る