第16話


「すみません……ギバルには教会がなかったので来るのが遅れてしまいました」


 女神様を祀る女神教は王国全体で信仰されているいわゆる国教というやつなのだが、教会の場所は比較的大都市にしかない。

 司教以上の人間がいなければいけないという教会側のルールのせいで、結構数が少ないのだ。


「ま、いいけどね。こうして来てくれたわけだし」


 そういってパチンとウィンクする女神様は、正しく女神様だった。

 女神様という言葉がゲシュタルト崩壊しそうになりながら、あたりをきょろきょろと見渡しながら尋ねる。


「えっと……ここに来て女神様とお話ができるというのが、祈祷スキルの効果ということでしょうか?」


「まさか! 祈祷スキルじゃ私の声がうっすら聞こえるようになるくらいが限界よ。最大までレベルを上げても、声をある程度聞き取るのが関の山ね。こうして実際に会うには、上位スキルの寂滅スキルが必要になるかな。今回会えるのは、あなたが祝福をあげた人だからサービスよ」


「なるほど……ん?」


 今、聞き捨てならない何かが聞こえてきたような。

 耳をダンボにしていると(死語)、はぁ……と女神様の呆れたようなため息が聞こえてくる。


「そう、上位スキルよ。次に来た時に説明すればいいかと思ってたら……あなたったら成人するまで教会に来ないんだもの」


 上位スキルと聞いて、俺の疑問が一つ解けたような気がした。

 女神様と話を聞こうと思っていたスキル魔法……もしかしてあれと関係しているんじゃないだろうか。


「上位スキルはざっくり言うと、複数のスキルを掛け合わせたくらいに強力なスキルのことよ。ちなみに上位スキルは二種類あるわ。一つは今頭の中で考えている通り、スキル魔法を使って生み出すことのできるもの、そしてもう一つは……」


「どれだけスキルポットに魔力を充填してもまったくメーターが溜まらないスキル……?」


「ご名答」


 俺が魔力消費に重宝している勇者スキル。

 あれはそれだけ大量のスキルを掛け合わせたいくらいの強さがあるから、あんなに魔力が必要ってことか……


「耐性系やタフネス系なんかの似た系統のスキルはまとめてより強力なものにできるわ。ちなみに魔法系は複数属性を混ぜ合わせて複数属性を同時に発動できるマルチキャストを使えるようにしたり、武術系と合わせて魔法戦士系のスキルにしたり、魔力系やステータス増強系と合わせることでより強力な魔導系のスキルに進化させたりと色々とやりようがあるわ」


 ……なるほど。

 各属性の魔法をカンストさせたのに未だに魔法戦でフェリスにはまったく手が届かないのには、レベル差以外にもそういう理由があったのか。

 多分だけどフェリスは風魔法を極めて、その魔法戦士系や魔導系のスキルを取っているんだろう。


「スキル魔法を使ってスキルを消費した場合、獲得のためのスキルポットは再出現するんでしょうか?」


「ある程度時間をおくと復活するわね。ただ邪神の使徒を倒せば、あなたへ使えるリソースが増えるからすぐに再出現もするわ。ちなみに邪神の使徒の契約も、再構築した上で使用できるようになるわ。もちろんあちらが使っていたものより弱いものにはなるけどね」


 その後もスキル魔法やスキルの結合やスキルポットについて、必要な情報を聞いていく。

 以前は祝福を渡されてすぐにおさらばだったけれど、今回は時間制限はないらしく必要な情報は一通り教えてもらうことができた。


 教会にこなかったことを後悔している俺の方を見て、女神様が笑う。


「これを機に定期的に参拝なさいな。ちなみにお供えは甘い物がいいわ。あなたの前世のスイーツを再現させてくれると嬉しいわね」


「了解致しました、可能な限り善処致します」


「絶対にやらないやつの言い方ね、それ……」


 ジト目の女神様に送られながら、俺は白い空間を後にする。

 そして長いこと祈祷し続けている信心深さをマリアさんに褒められながら、その足で冒険者ギルドへ向かうのだった。

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