第15話


「オークやゴブリンの鼻の討伐照明部位は鼻でさ。間違って削ぎすぎると鼻水が垂れてくるんだ。魔物の鼻水ってめちゃくちゃ臭いから、上手いことやらないと袋の中が鼻水まみれになるんだぜ」


「しかもオークのってなんかドュルドュルってしてて気持ち悪くて……」


「うわぁ、聞きたくなかった冒険者のリアルだな……」


 俺は剣士のエイラさんがリーダーを務める『左傾の天秤』の三人と、普通に仲良くなっていた。


 窮地を助けられておまけに怪我も治してくれたというだけあって、三人の好感度は俺が思っていたより高い。

 普通に話してほしいと言われたので、今では普通にため口で話をしている。


 三人はEランク冒険者パーティーらしい。ちなみに年齢は全員俺の一つ上らしい。

 同じ田舎出身の幼なじみで組んだパーティーらしく、最近では魔物相手の戦闘もある程度こなせるようになってきたということらしかった。


「一応ゴブリンやスライム相手なら後れは取ったことはなかったんだけど……自分達より多いオーク達に襲われたら流石にどうしようもなかったよ」


「なるほど……オークが四体現れるというのは、あまり普通ではないことなんですか?」


「ああ、ジェンの近くはプジョル辺境伯の領軍が定期的に魔物を狩ってるからな。基本的に森に行かないと強い魔物は出てこないはずなんだが……」


 どうやらあそこは本来オークの生息域ではないらしい。

 エイラ達『左傾の天秤』はいつものようにゴブリンとホブゴブリンを討伐していたところ、突如として現れたオーク達に襲われて戦闘に入ったのだという。


 そんな話をしていると、ジェンにつくまではあっという間だった。


「冒険者志望ってことは、まだギルドカードは持ってないですよね? 身分証とかありますか?」


 マリアさんに聞かれた時、脳内に父さんからもらったプレートがよぎった。

 ……流石にあれを使うほどのことじゃないよな。

 彼女の口ぶりから察するに、身分証がなくても問題はなさそうだし。


「ないとマズいですかね?」


「その場合はボディチェックと通行料、場合によっては保証人が必要ですね」


「もし何か言われたら私が保証人になるから、安心してくれていいわよ」


「ちょ! あたし」

 実際問題はないらしく、通行量として銅貨五枚と軽いボディチェックをすれば問題なく通過はできるらしい。


 母さんの剣をしまい、アイテムボックスの中に入れていた鉄の剣を出す。

 フェリスに餞別としてもらった、母さんが使っていたもののうちの一つだ。


 そしてここまで連れて来てくれた御者さんに別れと少しのチップを渡し、あとは徒歩で門へと向かうことにする。


「大きい……」


 見えてきたジェンの街は、ぐるりと城塞で囲まれていた。

 辺境なだけのことはあり、魔物への備えは万全らしい。

 立っている衛兵達も、なかなかに魔力量が多い。


「ジェンの街は全域を鉄の城塞で囲んでるんだ。おかげで定期的に起こる魔物の襲来があっても、まだ魔物達の侵入を許したことがないんだぜ」


「鉄で……それはすごいな」


 城塞都市とは聞いていたが、石でできた石壁をイメージしていた。

 外から見ると妙に黒っぽいと見えたのは、あれが鉄だったからなのか……。


 街を覆うとなると、とんでもない量の鉄鋼が必要なはずだ。

 もしかすると近くに鉄鉱山でもあるのかもしれないな。


 少し並んでから、ボディチェックを終えて問題なく許可が出る。


「今思ったんだけど、マルトって武器とか自由に持ち込み放題だよな」


「エイラ、いくらなんでもそれは時空魔法使いに対する思いやりが欠けてるわ!」


「お、おお、そうだったか……ごめんなマルト、あたし魔法に関してはどうも疎くてさ」


「いや、気にしてないよ。実際俺も似たようなことを思ったりはするからさ」


 アイテムボックスがあれば、ボディチェックなんかあってないようなものだ。

 密輸や要人暗殺なんかの犯罪に使おうと思えばいくらでもできてしまう。


「時空魔法使いは国の宝よ。魔法は刃物と一緒。コックが使えば見事な料理を生み出すし、冒険者が振るえば人を魔物の被害から守ることができるわ。大切なのはどんな力があるかじゃなくて、その力をどんな風に使うかなんだから!」


 どうやらかつて時空魔法の使える悪人が色々と悪さをしたこともあるらしい。

 そのせいで地域によっては、時空魔法使いのイメージが悪い場所もあるんだって。


 ミラはそのことが我慢ならないようで、本気で怒ってくれていた。

 自分のために誰かが怒ってくれるという生まれて初めての経験に、戸惑いながら街の中へ入る。


「街灯があるんだな」


「辺境伯領は魔物の量が多いので、街灯に魔石を使う余裕があるんです」


 魔物には魔石と呼ばれる、魔力を溜まってできる胆石のようなものがある。

 魔力を宿している魔石は魔道具のエネルギー源として使われる。

 どうやらあの街灯も、魔石を使って光る魔道具の一つらしい。


 魔道具が街中に置いてあるのか……どうやら辺境伯領の治安は、想像以上にいいみたいだな。


「んじゃあこのままギルドに行くか? 今ならあたしらが色々と説明するけど」


「それじゃあ遠慮なくお願いして……」


 ギルドで冒険者登録をしようと思っていたんだけど、今ふと閃いた。

 せっかくなら先に、あれをやった方がいいかもしれない。

 言葉を切っている俺を見て首を傾げているエイラへ告げる。


「もしよければ先に教会に行ってもいいか? 実はマリアに言われて、ちょっと気になってたんだ」


「是非行きましょう! エイラ、お祈りの後にギルドに行きますので待っていてくれますか?」


「お、おう……」


 エイラさんがちょっと引き気味に答える。

 マリアさんとミラさんが一癖も二癖もある人達なので、リーダーのエイラさんは苦労していそうだ。

 俺はエイラさんとミラさんに別れを告げ、目をキラキラと輝かせるマリアさんに手を引っ張られながら、教会に向かうことにした。



 鼻息荒くするミラさんと教会へ行き祈りを捧げると――次の瞬間、俺は見たことのある真っ白な空間に飛ばされた。

 そして俺の目の前に……


「久しぶりね……まったく十年以上待たせるなんて、信心が足りないわよ」


 俺をこの世界に転生させてくれた、女神様が現れたのだった――。

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