第14話


「ちっ、ミラ、残りの魔力は!」


「あと二発……気絶していいなら三発!」


「ジリ貧だな……上等ッ!」


 女の子達は、いかにも冒険者ですといった格好をしていた。


 真っ赤な革鎧を身につけた女冒険者に、ローブを身に纏っている魔法使い然とした女の子、そして既にグロッキーな状態で膝立ちになっている、プリーストのような格好をした女の子だ。


 魔物達の数は合わせて四体。

 剣士の女の子を二体がかりでしっかりと押さえ込み、残る二体が魔法使いの女の子達の方へじりじりと近付こうとしている。


 元Sランク冒険者であるフェリス直伝の情報と照らし合わせながら、状況を観察する。


(あの豚頭は……多分オークだな。ランクは下から二番目に高いD相当、けれど群れて四体いることから考えると、難易度としてはCランク前後ってところかな)


 オーク自体はDランクの魔物だ。

 Fランクから始まる冒険者の中では可もなく不可もなくといった強さといったところだろう。


 けれどその肉体は非常に強靱で、振るう力も人間とは比べものにならないほどに強い。

 そんな奴らが複数で群れているとなれば、普通の冒険者パーティーでも厳しいということなんだろう。


「ブヒイイイイイイッッ!!」


(しかし、あれが魔物か……)


 話に聞くのとこうして目で見るのとでは違う。


 人間の胴体についている豚の頭が鳴き声を出しながらよだれを垂らし、三人に視線を固定させている。

 中には舌なめずりをしている個体もいて、その様子を見たプリーストの女の子はか細い悲鳴を上げていた。


 オーク達が何を考えているのかも、大体想像がつく。


 この世界では、魔物のうちの一部は人間との生殖が可能だ。

 あのオーク達は恐らく三人全員を生け捕りにして、お楽しみにふけるつもりなのだろう。

 まあそんなこと、させるつもりはないけど。


 せっかくなので実地でスキルを使おうと、隠密のスキルを発動させる。

 瞬間、すうっと自分の身体が薄くなっていくような感覚が訪れたかと思うと、わずかに魔力が消費される。


 近付いていくが、オーク達も少女達もこちらに気付いた様子はない。

 試しに足音を立ててみるが、それでも気付かれない。


 なるほど、Dランクの魔物程度ならほとんど気付かれずに奇襲ができそうだ。


 後ろに回り込もうとしていたオーク達の後ろに立ち、そのまま剣を取り出す。

 せっかくだし、この剣の試し切りでもさせてもらおうかなっ!


 剣を使い、思い切り首筋に一撃を叩き込む。


「プギイイイイッッ!?」


 幸いそこまで固くはなかったようで、分厚い脂肪の奥の動脈を切った手応えがあった。


「助けが必要かと思ったので割り込んだけど、大丈夫?」


「――ええ、ありがとうございます!」


「そうか――ウィンドブラスト!」


 迫ってきていたもう一体の方に手を向ける。

 次はオークの魔法耐性を調べてみたかったので、風魔法を使ってみることにした(もちろんフェリスのアドバイス通り、きちんと詠唱破棄をしているようにみせかけながら)。


 颶風を伴う暴風がオークの脂肪を押し上げ、その下にある筋肉と臓器をズタズタに裂いていく。


 風魔法の中ではそこまで強力なものではなかったけれど、オークは一瞬で事切れてしまった。


 戦士の女の子をいたぶって楽しんでいたらしい残る二体は、突然の乱入者に慌てふためいていた。

 狩る者が狩られる側に回るとは思ってもみなかったらしい。


「あ、あんたは……?」


 ボロボロになっていた女剣士が、こちらを見て目を見開いているのがわかった。

 女剣士からこちら側に意識を向け、残る二体のオークが駆け出す。


 オークの身体能力は高いとは聞いていたが……こんなもんか。

 フェリスの風魔法の高速機動を見た後だと、スローモーションを見ているみたいだ。


「俺か? 俺は――」


 振り下ろしで右のオークを斬り伏せ、そのままV字に切り上げて左側のオークも倒してみせる。


「――通りすがりの、冒険者志望者だ」


 二体が絶命したのを確認してから、剣士の子の方に歩いていく。

 彼女の怪我が一番重そうだ、下手をしたら骨の一つや二つは折れているかもしれない。


「まさか冒険者ですらねぇとはな……」


 ガクッと地面に倒れこみそうになった彼女の腰を抱き留める。

 思っていたよりもほっそりとしており、思いっきり抱きしめてしまった。

 この世界ではスキルがあるから、見た目と能力が一致しないのが困りものだ。


「あ、ありがとう……」


「大丈夫、それよりひどい怪我だし早めに治さないと――ハイヒール」


 見ず知らずの人間にあまり魔法の力を見せすぎるなといわれているので、とりあえずハイヒールを使って傷を治していく。

 都合三度ほど使うと、剣士の子の傷は完全に治った。


「――す、すごいです!」


「わわっ!?」


 気付けば隣にプリーストの女の子がやってきており、俺はがしっと手を掴まれていた。

 彼女はなぜかきらきらとした顔でこちらのことを見つめている。


「詠唱破棄でハイヒールを三回だなんて! もしや高名な司祭様だったりしますか!? そうですよね、私にはお見通しです!」


「いや、生憎教会に一度も行ったことはなくて……」


「なんと!? それでそこまでの光魔法の腕をお持ちとは……」


 先輩冒険者ということで、とりあえずきちんとした態度を取っておくことにする。

 俺はまだ冒険者ですらないわけだし。


 空いている左手で軽く剣士の触診をする。

 どうやら傷は完全に治ったらしく、問題はなさそうだった。

 折れていた腕も問題なく動くようだ。


「ごめん、この子――マリアは一度スイッチが入るとこうなっちゃう子でさ……あたしは剣士のエイラっていうんだ。あなたの名前は?」


「マルト……冒険者志望のマルトです。冒険者になるために、ジェンの街に向かってます。その最中で戦闘音が聞こえてきたので助けに来ました」


「本当に助かったわ……私は魔法使いのミラ、よろしくね?」


 気付けばミラに空いている方の腕を取られていた。

 な、なんという早業……。


「とりあえず倒したオークは持っていってくれていいぜ。なんなら魔石と討伐照明部位だけでも取ってこようか?」


 魔石は知ってるけど……討伐照明部位?

 話を聞いてみると、名前そのままギルドに行くと討伐を照明してもらえる場所だそうだ。

 オークの場合は鼻になるらしい。


「いや、大丈夫です。まとめてしまっちゃうので」


 アイテムボックスを使い、オーク達の死骸をまるごと収納していく。

 それを見た三人は……あんぐりと大きく口を開いていた。


 ……しまった!

 いつもの癖で、つい……


「マ、マルト、それってもしかして……」


「時空魔法!?」


「は、はい。一応アイテムボックスは使えますね」


「なんつぅルーキーだ……まさかアイテムボックス持ちとは……」


「す……すごいわ! ねぇマルト、詳しい話を聞かせてくれないかしら!」


「マルトさん、私には回復魔法の詠唱破棄について是非……」


「ちょ、ちょっとストップ!」


 こんな風に複数人の女の子から猛烈に話しかけられることが前世も含めてなかったため、戸惑ってしまう。


 落ち着け俺、素数を数えてクールになるんだ……大丈夫、まだリカバリーは利く。

 どうせアイテムボックス持ちなことはいずれバレてたはずだ。


 それなら先輩冒険者から色々聞けるチャンスと捉えることにしよう。

 俺は一回深呼吸をしてからくいっと親指で後ろの方を指す。


「馬車を待たせてますので……よければ乗っていきますか?」


 三人がそれに否やと言うはずもなく。

 俺は馬車の中で色々と質問攻めに遭ったり、逆に質問攻めにしたりいながらジェンへとたどり着くのだった――。

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